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完結済 長編 現代世界 / ホラー

菜の花香る月の夜に

イラスト:菜の花のお写真
公開日時:2020年10月4日(日) 20:00更新日時:2020年10月4日(日) 20:00
話数:4文字数:6,695
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あらすじ

 無限に広がるような菜の花畑の中に、ぽつんと存在した安普請の下宿。

 五歳ほどのころ、『私』はそこに住んでいた。両親は大学も出ずに自分を産んでの三人暮らし。

 両親自身がまだうら若く、すり減るような心労を抱えて子育てをしていたころ。

 

 『私』は夢を見た。三十路を過ぎてもなお『私』はあの夢を超える恐怖を知らない。

 怪獣が出るでもなく、父母に酷く怒られるわけでも、迷子で独りぼっちなわけでもない……。

 それはとてつもなく恐ろしい夢だったが、同時にあまりにも鮮烈で麗しく、心惹かれる夢だった。

 

 菜の花香る春の月夜に、幼い『私』を迎えにおばけが来る。

 それは、鮮やかな紅色に、黒い糸菊模様の着物を着て。

 艶のあるおかっぱの黒髪の下に、表情のない狐のお面を付けた。

 暖かな色の紙提灯を下げて歩む、出来すぎたほどに華麗な女だった。

 

 恐怖の夢が終わって、四半世紀の時が経ち。

 『私』は純粋な幼いころを忘れ去って、擦り切れ腐った女として世を渡る。

 もう恐怖はない。

 だがあの夢を忘れられない。

 春が来るたび、思い出す。ぬるい風の吹きすさぶ、菜の花畑の月の夜。

 そして、私は……。

 

 

※この作品は「小説家になろう」さま「ノベルアップ+」さまに同名義で重複投稿しております。

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退会したユーザー ?
退会したユーザー 投稿日:10月17日

純文学風の筆致で薄く重ねるように少しずつ恐怖を盛り上げていく本作、主人公の独白という体裁を取りつつもむしろ骸(むくろ)としての家こそが存在感を発揮している。そこに現代的な感覚の息苦しさ……読者によってはジェンダーに結びつけるかもしれない……からの解放を謳いつつも、古典的な演出に帰結・収斂していく構成を楽しめた。

 詳細本作。