cover
完結済 長編 現代世界 / ホラー

菜の花香る月の夜に

イラスト:菜の花のお写真
公開日時:2020年10月4日(日) 20:00更新日時:2020年10月4日(日) 20:00
話数:4文字数:6,695
ページビュー
44
ポイント
0
ブックマーク
0
レビュー
1
作品評価
N/A
わたしの評価

あらすじ

 無限に広がるような菜の花畑の中に、ぽつんと存在した安普請の下宿。

 五歳ほどのころ、『私』はそこに住んでいた。両親は大学も出ずに自分を産んでの三人暮らし。

 両親自身がまだうら若く、すり減るような心労を抱えて子育てをしていたころ。

 

 『私』は夢を見た。三十路を過ぎてもなお『私』はあの夢を超える恐怖を知らない。

 怪獣が出るでもなく、父母に酷く怒られるわけでも、迷子で独りぼっちなわけでもない……。

 それはとてつもなく恐ろしい夢だったが、同時にあまりにも鮮烈で麗しく、心惹かれる夢だった。

 

 菜の花香る春の月夜に、幼い『私』を迎えにおばけが来る。

 それは、鮮やかな紅色に、黒い糸菊模様の着物を着て。

 艶のあるおかっぱの黒髪の下に、表情のない狐のお面を付けた。

 暖かな色の紙提灯を下げて歩む、出来すぎたほどに華麗な女だった。

 

 恐怖の夢が終わって、四半世紀の時が経ち。

 『私』は純粋な幼いころを忘れ去って、擦り切れ腐った女として世を渡る。

 もう恐怖はない。

 だがあの夢を忘れられない。

 春が来るたび、思い出す。ぬるい風の吹きすさぶ、菜の花畑の月の夜。

 そして、私は……。

 

 

※この作品は「小説家になろう」さま「ノベルアップ+」さまに同名義で重複投稿しております。