ハルトカンガエル

られ
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12: 自分に何ができるのか知っているか?

公開日時: 2023年1月23日(月) 18:00
文字数:3,224

「な、なんで!?」

 

 千秋が上ずった声を上げる。探偵を名乗り此度こたびの事件を捜査しにきたのだという男、ぶち飛鳥あすかが、千秋の能力を言い当てて見せたのだ。

 

「…………」

 

 千秋が素直に驚いてしまったので、もはやブラフだったのかどうかはわからない。しかし、この場の会話の中では千秋が錠の能力者であることすらわからなかったはずだ。なのに、飛鳥はどんな能力なのかまで言い当ててみせた。

 

「あっはは、『相手の能力がどんなかわかる』、ってのがワタシの能力なんだよね」

 

「ええー!?」

 

「ええ、それってなんか……ええ……?」

 

 千秋は驚きを、晴人は率直な困惑を口にした。

 

「嘘じゃないよ? キミは青い糸を使う能力だね」

 

「ええ…………」

 

「すごい!」

 

 当たっている。晴人はなにも能力を隠しているわけではないが、それでもこの見知らぬ男がそれを知る由はないはずである。

 

(下調べされた可能性がないわけじゃないけど……)

 

 とりあえず信じるしかないようだ。能力者を見破る能力者?

 

(……なんかヘンじゃね?)

 

 晴人や千秋のような能力は、たとえどんなに非現実的、非科学的であったとしても、いわば。しかし、それらの能力を正確に把握できる能力というのは───

 

「錠ありきというか、なんかもやもやすんな…………」

 

。」

 

「うーん。」

 

 結局、そう言われたらなにも言えない。

 

(で、なんだっけ? 千秋先輩の能力が分かってて、そんで? それが理由、で? ああ、透明になられたら逃げられると思ったわけか、そんで───)

 

 ───容疑者である晴人を逃がしてしまう。

 

「ん?」

 

 晴人が気づいた。

 

「ってか、は? 俺の能力がわかってたら俺が犯人じゃないのはわかりません?」

 

 晴人の能力は、せいぜい移動か拘束かくらいにしか使えない。今回のように多数の人間に切り傷を負わせることなど不可能だ。

 

「いやいや、いけるっしょ? よ?」

 

「はぁ?」

 

「…………」

 

「…………??」

 

「………………」

 

「…………????」

 

 無言で見つめあう晴人と飛鳥、を、千秋がほうけた顔で交互に見た。

 

「…………あー、なーんだよもー!」

 

 飛鳥が突然叫んだ。

 

「あんたがなんなんだ……」

 

!! もー、心配して損した」

 

「どゆことですか??」

 

「んー、いや、なんでも。知らなくていいと思う」

 

 いた千秋を飛鳥は適当にあしらった。

 

「ふたりとも、ごめん! ほんとに無関係みたいだね、ごめん」

 

「はぁ」

 

「よかった~、ね、晴人くん」

 

「いや、ええ……」

 

 どうして急に疑いが晴れたのか釈然しゃくぜんとしないが、こちらの能力を分かっているのであれば、当然の結論ともいえる。

 

「握手しよ、あくしゅ」

 

 飛鳥が手を差し出す。千秋が迷わず取る。

 

「ホラ、晴人くんも」

 

「…………」

 

 こういう手合いは断ってもしつこそうなので、晴人もとりあえず応じた。

 

「でもだ、キミたちの推理もハズレかもしれないね。例えば今そこの校庭にも錠持ちが1人いるけど、切り傷を付けられるような能力じゃない」

 

「あ、それ楓だ」

 

「なんだ、知ってんの?」

 

「妹です」

 

「へー、兄妹で能力者とか珍しいねえ。ってか多いねこの学校」

 

「他に、というか犯人らしい能力者はいないんですか?」

 

 相手の能力がわかるのなら、今回の犯行が可能かどうかは一目で判断できるはずだ。

 

「見た感じいないねぇ。とんでもない応用を利かされてない限り、切り傷が付きそうなのは」

 

 能力者自体は居そうな言い方が気にはなったが、とりあえず流すことにした。

 

「じゃあ誰が」

 

「んー。モノを盗むっていう条件があるんだとすれば、学校の人が犯人ぽいけど」

 

「それすらカモフラージュ?」

 

 つまり、盗みと攻撃は無関係?

 

「そしたらさー、モノが盗まれた子が誰なのか知ってなきゃしょ? 偶然にしてはできすぎだもん」

 

「その上相当自由に対象を取れる能力じゃなきゃいけないすよね。それをわざわざモノ盗られた人に重ねた。…………なんか意味あります?」

 

「まぁ、捜査の攪乱かくらんにならなくはないかな?」

 

「??」

 

 千秋は理解を放棄した顔をしている。

 

「……そいや当たり前のように犯人捜ししてますけど、こんなん犯人分かったところで逮捕とかできんすか?」

 

「そこは偉い人がなんとかすんのよ。よきように。Big Powerでね」

 

「ええー」

 

 なんだか聞きたくなかったような話だ。

 

「だからキミらも悪いことしちゃダメだぞー? 特に透明人間とか、やりたい放題じゃん」

 

「し、しませんよー」

 

「ほんとにー? イケメンだから間に合ってんのかいろいろー羨ましいなー、な!」

 

 晴人に同意を求める飛鳥。

 

「いや知らん」

 

「いやいやいや!!」

 

「だる……」

 

「考えてみろって、透明人間憧れるっしょ!?」

 

「だる……」

 

「だめですよぉ、そんなの……」

 

 千秋が決まりわるそうに笑う。

 

「どーでもいいわ。で? ここまで、探偵サマの読みは?」

 

「そうねぇ、目的は───うん? これ言っていいのかな? 少し情報があってね。ひとことで言えば、『個人の犯行じゃない』。」

 

「モノ盗むのも、能力アリだったらどうとでもなるもんなぁ」

 

「そうなんだよね~。……でも学校の人は関係ないみたいだから、いったん帰るよ」

 

「僕たちもそろそろ帰らないと」

 

 既に6時20分。最終下校時刻が近づいていた。

 

「よおーし、じゃあ帰ろうぜー」

 

 飛鳥が晴人の肩に手を回して背中を押す。

 

「っぜ~」

 

 出口へと押し出されながらカバンを手に取った。千秋が後に続く。

 

「1年生さー、これ毎日3階まで上がんのしんどくない? ワタシ無理だわ」

 

「ま、そんなでも」

 

「若さ~」

 

「…………いくつなんすか? ほんとに探偵?」

 

「えー、うん、探偵ではないかも」

 

 飛鳥が笑いながら言う。

 

「警察に仕事頼まれたってのだけホント、まぁ頼まれた仕事が探偵ぽくもあったけど。あ、これも言っちゃダメか?」

 

「消されちまえもう」

 

「キミ、ワタシに厳しくない?」

 

「あ、多分仲良くしてくれてるからですよ~」

 

 千秋が後ろから口を挟んだ。

 

「あん?」

 

「と言うと?」

 

「晴人くん、好きじゃない人とはあんまり話したがらないから、『悪態つかれてるなら一応好かれてるってこと』って、真帆乃まほのちゃんが」

 

「いつそんな話したんだよ……」

 

「ほー、ツンデレかいキミ、このこのー」

 

「うるさい……二度と会いたくない…………」

 

「千秋くん? これホントに好かれてんの?」

 

「た、多分……」

 

 晴人が文句を言おうと口を開いたところで、飛鳥のスマホが鳴った。

 

「ん、しつれ~」

 

 晴人から少し離れて取る。飛鳥が何か言う前に、電話の向こうの女性がまくし立てた。

 

『真渕さん、無事ですか!?』

 

 かなり焦っている様子だ。飛鳥は目をぱちくりとさせる。

 

「え、無事だけど」

 

『……どういうことですか? A班と連絡が取れなくなったんです!』

 

「えぇ? いや、それはだよ。問題の2人はまず間違いなくシロ。もう仲良し」

 

 飛鳥がまた晴人の肩に手を回す。部活終わりだろうか、ジャージ姿の男子生徒2人に奇異の目を向けられながらすれ違う。

 

『そんな、じゃあ真犯人が外から?』

 

「……あー、そうぽい」

 

 背中側を振り返りながら飛鳥が呟いた。今しがたすれ違った男子2人。ひとりはガタイの良い短髪の少年。もうひとりはおとなしそうな眼鏡の少年。

 

(さっきは見なかった顔、しかもどっちもときた)

 

 開いていた錠を閉じる。帽子の上でカチャリと音がする。今の2人を能力者であるか確かめたことに、2人は気づいただろうか。───この晴人くんなんかはなかなか賢い子だからなあ。飛鳥はぼんやりとそう考えた。

 

「今すれ違った。要求飲まなかったからキレたんだろうね。B班も逃がした方がいい。生徒を3階に近づかせないで」

 

『……わかりました、では真渕さんも早く退避を!』

 

「そうしたいとこだけど。これ、ほっといたら生徒死ぬよ?」

 

『…………』

 

「ど、どういうことですか」

 

 千秋が震える声でく。飛鳥が視線だけ合わせる。怯えている───だけではない。そういう眼だと、飛鳥は思った。

 

「…………リーナちゃんさ、ここにちょ~ど戦えそうな人たちがいるんだけど」

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