ハルトカンガエル

られ
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夏、トモダチになろうよ

01: ラノベあるある

公開日時: 2024年5月9日(木) 03:00
更新日時: 2025年1月26日(日) 21:28
文字数:2,334

放課後。選択教室。席に真帆乃まほのかえで。微妙な距離を空けて晴人はると

 

「オイなんか最近多いなこの絵面えづら

 

 晴人が頬杖ほおづえのまま愚痴ぐちる。

 

「毎度ウチの義兄あにがすみません……」

 

 楓が呆れ顔で述べる。「この絵面」というのはつまり、空いた教室に晴人と楓、と真帆乃がいて千秋ちあきを待っているこの状態のことだ。千秋が3人を「ボランティア活動特別委員会」に勧誘するための場として今月すでに2度あった。

 

「もはやこのメンバーが委員会として集められてるのかどうかわかんないね」

 

 と真帆乃。ここに千秋が加われば過不足なく委員会の面々となるが、今さら口実こうじつが無いと集まらない面子でもない。

 

「委員会のグループで呼び掛けてんだから委員会なんじゃねえの」

 

 今日ここに集まるように、という連絡が来たのはメッセージアプリ内での「テドベ」グループだった。……千秋の中では「ボランティア活動特別委員会」の略称として「テドベ」を推していく方針らしい。

 

「でもわたし普通に委員会に関係ないことで使っちゃってるー」

 

 確かに真帆乃は道で見かけたネコの写真をこのグループに共有したりすることがある。

 

「公私混同だ公私混同だ」

 

 晴人が棒読みで抗議する。

 

「いいじゃーん、ってかアンタもなんか反応返してよ、だいたい千秋先輩と楓だけ返してくれる」

 

おもしろいと思ってそうなスタンプを返してやろうか」

 

「えー?」

 

 ところでこのグループ、及びボランティア活動特別委員会のメンバーに野田のだかけるはいない。能力者をひとところに所属させ責任者を付けるというこの委員会の意義からすると彼も所属させるべきとも思える。やはり【名前を傷つける】能力者から錠を受け取り協力関係にあったらしく、やったことがやったことなだけに無罪放免とはいかなかったのかとも思われたが、飛鳥あすかはその辺りはっきりと教えてくれない。確かなのは、彼はあれ以来ずっと学校に来ていないことだ。

 

(能力なんてもの、そもそもこの世に無ければあんなことやらかさなかったかもしれないのに……いやわからんけど)

 

 人が1人いなくなっても日々は巡り回る。たまたま今日は同じメンバーで、たまたま────あるいは当然、同じように時間が流れる。そういう意味では、やってきた千秋が一人ではなかったのはいつもと違うことだった。

 

「みんなごめんね、お待たせ……」

 

 そう言って入ってきた千秋はどことなく暗い顔をしている。その後ろに、晴人には見覚えの無い男性教師が続く。千秋は晴人の隣の席に着き、教師は教卓の後ろに立った。

 

「いちにーさん……これで全員ね?」

 

「はい」

 

「はい、えー、ここにいるみなさんは、ちょっと特別だということで、特別な「能力」があるということで。ボランティア……なんだっけ、えー、ボランティア活動特別委員会っていう形で集まってもらっているんだけれどもー」

 

(おーおー)

 

 目の前で大の大人が「能力」の話をしている。頭が追い付かないような思いがした。めちゃくちゃなことを言っているようだが、事実だ。晴人たちは共通して謎のアイテム、「錠」を持ち、それによって与えられるそれぞれの「能力」を持っている。

 

「それが使いようによっては危ないということで。もちろん君たちが何かするとは思っていないんだけどー、一応ということで、今回外部の、えー専門家の方に特別顧問という形で就いていただくことになりました。今後はその先生の言う事を守っていただいて、えー、安全に。してもらいたいと思います」

 

 真帆乃と楓が顔を向き合わせる。ずいぶんと急な話だ。

 

(特別顧問ねぇ……)

 

 晴人が危惧していた、学校としての能力者への警戒。この委員会に入ったのは、過剰な警戒をされないための妥協だったのだが───

 

(そいつの方針次第では、ちょっと面倒なことになりそうだ)

 

 その特別顧問とやらが例えば『放課後は一切家から出るな』などとぬかし、それに従わなければ危険な能力者とみなしどうこうなどとなるとしたら、晴人たち4人はずいぶんと窮屈な青春を過ごすことになってしまう。

 

(俺に関してはたいして困らないのが悲しいところだが……まぁどうでもいいとして)

 

「顧問の方、少し遅れてるそうで、もうすぐ着くそうなのでここで待っててください。では」

 

 男性教師は淡々と述べ終えてつかつかと出て行った。静まり返った教室に冷房の音が目立つ。

 

「……なに急に!? なんかむかつく!!」

 

 真帆乃が少し大きな声を出す。

 

「みんな、ごめんね……」

 

 千秋がうなだれる。

 

「みんな危ないことなんてしないって言ったんだけど、どうしてもダメだって……」

 

「そんななんか、厳しい感じなの?」

 

 楓がく。

 

「わかんない、その先生がなんて言うか……」

 

「そいつ次第ってこと!? な、えー……」

 

「ごめんね……」

 

「いや先輩は悪くないですけど……」

 

 やや重い空気が流れる。

 

「……あっ、来た!?」

 

 真帆乃が身をすくめる。見ると、確かに扉の前に人影がある。

 

「よっすーおひさー」

 

 ───入ってきたのは真渕まぶち飛鳥あすかだった。

 

「飛鳥さん!?」

 

「アンタかよ!!!」

 

 千秋が驚く。晴人からツッコミが入る。面識が薄い女子二人が困惑する。

 

「え? なに? なんか別の人待ってた? 全員揃ってね?」

 

「え、特別顧問ってのは……?」

 

「え? あーうん、ワタシですけど。聞いてなかった? ……うん、言ってないもんな」

 

 飛鳥は一人で納得している。

 

「やっぱ形だけは責任者付けなきゃとかで? ま誰でもいいんだけど変なおっさんが変なルールとか作っても面倒だからね。みんなのおかげで【名前】から攻撃する能力者も無事捕らえられまして、そんなご縁もありワタシがやることになりましたーよろしくねー」

 

「専門家……?」

 

 晴人がいぶかしむ。

 

「そこはまぁ、言葉のアヤ的な?」

 

「よろしくおねがいしますリーダー!!」

 

 千秋が目を輝かせる。

 

「順応早っ」

 

「やりたがるなぁ、チーム感…………」

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