異世界の物流は俺に任せろ

北きつね
北きつね

幕間 カスパル

公開日時: 2020年9月1日(火) 07:00
文字数:3,723


イザーク隊長に”誓いのナイフ”を返した。


俺は、正直な気持ちを隊長に伝えた。

”ユーラットよりも大切な物ができた”と、隊長はその場はナイフを受け取ってくれなかった。”男を見せろ”と言われて、ヤス様とディアス・アラニスの前で隊長にナイフを返した。


今、神殿に向かう為にヤス様のアーティファクトに乗っている。前にはリーゼが座っていて、横にはディアス・アラニスが座っている。


本当に不思議なアーティファクトだ。

鉄でできているようだが、鉄だけでは無いのだろう。ドアに付けられている窓もすごく透明できれいなのだ。王侯貴族が乗るような馬車でもこれほど見事な窓は存在しないだろう。リーゼに教えられて身体を固定する器具を装着する。安全のためだと教えられた。


窓を見ていると、窓越しに俺を見ているディアス・アラニスと目が合う。


「どうかされましたか?ディアス様?」


「え・・・。あっ・・。良かったのですか?カスパル様」


「すみません。自分の事は、カスパルと呼び捨てにしてください」


「それなら、私の事も、ディアスとお呼びください」


「そうか?わかった。ディアス。それで、どうかされたのですか?」


「いえ、カスパルが私を見ていたように思いましたので・・・」


「・・・。そうですか・・・。いやなんでも無いですよ」


リーゼを見るがアーティファクトに付いているいろんな物を触っている。壊れたり急に動いたりしないか心配になってしまう。


「そうだ!カスパルもディアスもヤスのアーティファクトには乗ったのだよね?」


「あぁ」「はい」


「それ、ヤスが動かしたの?」


俺はディアスを見るが俺を見るので俺が答えるのがいいのだろう。


「違う。ツバキという女性だ」


「ふぅーん。やっぱり。それで、早かった?」


「早かったとは思うけど、隊長が言っているような速度ではなかった」


「そうなの?」


「あぁ」


「それならいいかな・・・」


最後はなんか小声になっているから聞こえなかった。

何かまだ聞きたい事があるのかと思ったが聞き返されないので十分なのだろう。


「あ!」


「え?」「??」


「早くなかったのだよね?このアーティファクトに乗るのは初めてだよね?」


「あぁ。何回か見たことはあるけど乗ったのは初めてだ」


「それなら少し覚悟したほうがいいよ?」


「覚悟?」「??」


ディアスも不思議なことを聞いたと思っているのだろう。

覚悟が必要になるアーティファクト?


「うん。命を奪われたり、魔力を吸われたりはしないけど、すごく早いよ。びっくりすると思うよ。イザークも驚いていたくらいだからね」


隊長が驚いた?


「リーゼ様。それは?」


「ん?速度もだけど・・・。そうか、ディアスは神殿への道を知らないのか・・・。カスパルは知っているよね?」


リーゼが俺に聞いてくるがもちろん知っている。

何度かギルドの依頼で神殿を調査に行った。


「あぁ」


「僕は知らなかったけど、道はそんなに変わっていないらしいよ」


「へぇ」


リーゼが何をいいたいのかわからない。


「カスパル。リーゼ様。神殿は山にあるのですか?」


「そうだ。ここから左側にある道を上っていく」


「もしかして、山道ですか?」


「そうだけど?」


「リーゼ様。ヤス様のアーティファクトは山道でも同じ速度で移動するのですか?」


ディアスやリーゼの言っている山道やら速度やらで、やっとリーゼの意図がわかった。

たしかに、あの速度で山道を進まれたら怖い。椅子やこのベルトのおかげで動きは少ないだろうが馬車の4-5倍の速度で山道を進むなんて考えただけで怖い。


「違うよ」


リーゼの言葉で、俺もディアスもホッとする。

さすがにあの速度では移動できないようだ。


リーゼはゆっくりと溜めてカア言葉を繋いだ。


「違うよ。多分だけど、ユーラットに来た時に乗っていたアーティファクトの2倍くらいの速度で移動するよ」


「え?」「は?」


リーゼがとんでもないことを言い出した。

2倍?馬車の8ー10倍?想像ができない速度だ。そんな速度で馬車が動いたら・・・。そもそも、そんな速度を出すためにどうしたらいい?伝説の8本足の馬スレイプニルに牽かせても無理だろう?


リーゼに聞き返そうかと思ったがヤス様が戻ってきた。


後ろを見て俺たちがベルトをしているのを確認したヤス様はアーティファクトに魔力を流したようだ。

どんな操作をしているのかわからないが動き出した。最初はゆっくりした動きだ。前に乗ったアーティファクトよりも静かだ。


リーゼが脅していたのだろう。


山道に入ってリーゼが言ったことが正しいとわかった。馬鹿なのか?木々の間を、山道を、信じられないような速度で駆け抜けていく。崖に落ちそうになったり壁に激突しそうになったりしながらだ。アーティファクトが横に移動した時には悲鳴に似た声を出してしまった。ディアナも同じだ。正面を向いているが顔が青くなっている途中から悲鳴も聞こえなくなってしまった。リーゼは楽しんでいるようだが、なぜ楽しめるのかわからない。ヤス様も楽しそうに何かを口ずさんでいる。さっきは気が付かなかったが頭に何か付けている”メガネ”と言われる物のようだ。あれもアーティファクトなのだろうか?


恐怖の時間は永遠に続くかと思われたが、神殿の広場前でアーティファクトは停まった。


結界が張ってあると言われた攻撃しても何もできない。

隊長なら破れる・・・。絶対に無理だ。ヤス様の話ではスタンピードなら防げると言っている。


結界に入る為のカードを作成する魔道具が粗末な小屋に置かれていた。盗まれたらどうするのだろう?何か対策でもしているのだろうか?

魔道具はよくわからないが、ヤス様が大丈夫と思っているようなので大丈夫なのだろう。


カードを持ってアーティファクトに乗り込む。同じ場所に座った。


アーティファクトが結界を越えたら景色が一変した。

自分の目を疑ってしまった。変な声も出してしまった。


なにもない広場になっていたと思われる場所に街が出現したのだ。

綺麗に道が整備されている。家も多く建っている。


まっすぐに伸びた道をゆっくりとした速度で移動している。馬車が進む速度と同じくらいだろう。

正面にある神殿の入口前で停まる。


ヤス様を待っていたのだろう。俺たちを助けてくれた者たちが一列に並んでいる。アーティファクトから降りるまで気が付かなかった。


(魔物!)


魔の森に生息する魔物が一緒に居た。俺一人ではディアスを逃がすだけで精一杯かもしれない。

剣に手をかけてしまったが、魔物たちがヤス様の足元にじゃれ付いている。


魔物たちは神殿で保護していると教えられた。

俺たちを助けてくれた者たちと一緒に街を巡回してくれるようだ。正直、俺では役者不足だろう。


俺とディアスの生活能力を聞かれた。

正直に答える。


「それじゃ二人とも殆ど家事はできないと思っていいな」


頷くしかなかった。ディアスは囚われていた為に家事をしたことがなかった。囚われる前もお付きが居たので家事をする必要がなかった。俺は警備隊に入る前は孤児院で育った簡単な家事は自分でやっていたが手伝い程度だ。警備隊に入ってからは、まかない飯が出た部屋の掃除も隊の訓練として行う程度だ。


ヤス様は控えていたメイドに話をしている。


「ヤス様。どこか小さな家をお貸しいただきたい。すぐには無理だとは思いますが一人でできるようになりたいです」


急にディアスがヤス様にお願いを始めた。


ヤス様は少しだけ困った表情をされたが、すぐに表情を戻して俺を見た。


「うーん。アフネスに匿うと約束したからな。そうだ!カスパル!」


そうなのだ。俺は無理矢理付いてきたのだが、ディアスはアフネスがヤス様にお願いした形になるのだ。


「はい!」


「お前、何でもすると言ったよな?」


「はい。なんでもします!」


ヤス様は俺の気持ちを再確認した。

宣言には嘘はない。命令ならばなんでもすると宣言する。


「よし、俺の仕事を手伝え。アーティファクトの操作方法を教えてやる。まずは、ユーラットと居住区を繋げ。移住者の移動や物資の補給を全部担当しろ。そして、ディアスと一緒に住んでディアスを守れ。ディアスには不便をかけるけど、匿われているのを理解して嫌だろうけどカスパルと住んでくれ」


何を?

言っているのだ?アーティファクトの操作?俺は魔力が少ないから無理なのでは?


「え?」「はい?」「えぇぇぇぇぇぇ!!僕も操作したい!」


リーゼが何か言っているが、俺はそれ以上にヤス様からの命令が頭を支配する。

ディアスと一緒に住む?守るのは当然だが一緒に住む必要は・・・。


「カスパル。異論はないな!」


「はい!」


俺に依存はない。家も広いだろうから問題はないはずだ。


「ディアスも問題ないな。それから、生活能力がないカスパルの世話ができるようになってくれ。二人だと心配だから、ディアスができるようになるまでメイドを付ける」


「はい。よろしくお願いします」


ディアスは俺の方を一度見てから承諾してくれた。


「うん。家の場所は、神殿の近くにしよう。道沿いなら警備しやすいからな」


「??」


ヤス様の言っている事がわからないが、家の場所?

ひとまずディアスと一緒に住むことが決まった。二人だけではなくメイドも一緒に住むらしい。ディアスが承諾してくれたのもメイドが一緒だから安心してくれたのかもしれない。


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