「うおりゃあああー!!」
石畳の床しかない真っ白な簡素の空間でふんどし一丁のツンツン頭の赤毛青年、如月朔矢のアバター、プレイヤーネームガイアは周囲を駆け回っていた。
体の動きが予想以上に軽く、ゲームのコントローラーで操作してる感じもない。
クソゲーでよくあるゲームデータの使いすぎた結果による遅い移動スピードと反応速度のしっぺ返し。
それとは違い、この点だと操作性には問題はないみたいだ。
「ちょ、ちょっと、見てるこっちがハズいんだから、早く職業と装備を選びなさいよね」
「ああ、ごめんよ、ルナ。ゲームスタートで裸体から始まるとは思わなかったから、ついついお祭り気分ではしゃいでしまったよ」
「だったら上にゲームサービス特典のブランケットでも羽織りなさいよ。いくらゲーム内とはいえ、その過激な格好はいけないでしょ」
確かに言われてみれば。
本来はネトゲ(ネットゲーム)であり、色んな人たちが参加し、好きなグループを作って、モンスターなどを討伐する冒険者となるスタイルだ。
大人を含め、学生に子どもたちも中にはいて、こんな半裸の男と初期設定でバッタリ出くわすとゲームの管理者に通報される恐れもある。
最悪の場合、このゲームの垢が停止になり、本ゲームが進めなくなるのだ。
だったら新しい垢作ってやり直せばと思われがちだが、前回までのデータが引き継ぎで残っており、おまけに冒険者を番号にて管理しているので、本当に何もかもアイテムもさえも全部捨てて、レベル1の0からのスタートしかない。
……と、このゲームのチュートリアルは大体、こんなものかな。
いい感じに好みじゃないツンツンな髪も乱れて、ラフな髪型になったし。
「ルナだって、初めはどこぞの変身に失敗したよろしくーな真っ裸だったじゃないか」
「あぁー、それ以上セクハラなコメントしたら私のグループにディスるから」
金髪を隠すかのようにクリーム色の帽子と、同系色の法衣に豊満な胸を見せつけ、赤いブーツを履いたなんちゃってプリーストであり、美少女でもあるルナ。
この派手で少し浮いたアバターが鶴賀浜さんというのに気付くまで、一時間ほどの時間を要した。
「うーん、冒険早々、イジられるのは嫌だな。早いとこ選ぶか」
手元をタップし、初期設定画面を開いた僕は、名前以降の設定をタッチパネル形式で入力していく。
まずは職業だ。
戦士に盗賊に変態魔。
変態魔って魔法使いとどう違うんだ。
ここは無難にスクロールの一番下にある勇者見習いにしておくか。
何か響きがカッコいいし……。
えっと、それから装備品だな。
鎧よりは防御力は劣るが、動きやすい軽装の服で詮索すると……布の服、旅人の服、よだれかけの付いた服……ときたか。
別にステーキ店に行くわけでもないし、3つめの服っていらなくね。
ここは4つ目のよそ行きの服と……。
そして武器か。
銅の剣、鉄の剣、ダンボールの剣……。
一つだけ丸めた新聞紙と対等に渡り合える武器があるな。
ならばリーチは短いが、細かい動作がしやすく、調理時にも使え、野菜の皮むきがしやすい5つ目の短刀に決まりだ。
おおう、盾も装備可能か。
片手剣だから、もう一個は追加の盾がプラスされるんだな。
この寒暖の、いや、攻防の差は大きいぞ。
どれどれ、革の盾、鉄の盾、お鍋のふた……か。
鎧と同様、盾でも重いのを装備したぶん、自身の素早さが落ちるからな。
もっと慎重に探してみるか……。
なになに、ジャックと豆の盾?
とある童話からの盾だろうか。
どんなに想像力をかき立てても、頭に浮かぶのはツルでできたものとしか思えないが……。
でも、案外こういう聞き慣れないレアな防具が最強だったとかありえるからな。
過去作のトンデモナクエストのゲーム内にあった定番、最高防具の一つオリハリコンの盾だって、基本、希少なモンスターや宝箱からしか入手できなかったりしたし。
この場合、オリジナルの名を飛び越え、ハリハリ漬けの仕様とかもありそうだからな。
ゲッ、手持ちにキーボードを出現させて検索したらガチでヒットしやがった。
このハリハリ防具のアイテムは食べられません……って当たり前だろ。
「よし、決めたぞ。後は装着するのみだ」
画面のスクロールを終えて装備を確定し、フィールドに新たに浮かんできた決定ボタンに触れる。
その瞬間、体全体がキラキラと星屑のように輝いていく。
そうか、これがルナが体験した魔女っ子の変身というものか。
垂れた前髪で目が隠れても、僕は男なんだけどな。
『ジャキキキーン!』
光の中で機械的な金属音を立て、光は逃げるように物陰へと消えていく。
『冒険者ナンバー1445508、勇者見習いガイアのアバターを正式にアップロードしました』
女性アナウンスの説明の通りに剥き出しの壁が薄れていき、ファンタジーなゲーム世界へと浸透し始める空間。
『トンデモナクエスト10、ダウンロード完了。本サービスに自動ログインします』
さん、に、いち……。
『Now Loading!!』
足元にあった石畳の空間が完全に一つの光に包まれ、星の海をその球体で高速移動する。
なるほど、無駄な背景を省き、このスペックを極力抑えた感覚。
ただいまゲームをロード中(読み込み中)なのか。
「おおおっ、何だこの高鳴る高揚感は!」
はやる気持ちも抑えられず、ロード中でも触れられる自身の体にきちんとフィットした服装を探る。
そうそう、この固い手触りからでも分かるたくましい身体……?
「……て、服を選んだはずなのに、なぜか頑丈な鎧を着てるし、武器とかも違うぞ?」
おまけに服の素材もよい作りで、服と似たようなシルバーのデザインな洒落た盾や、プロのハンターが持ってそうなカッコいい短剣も握ってるイカした冒険者の設定にしたつもりなんだけど……。
「あれ、ガイア。ひょっとして知らなかったの?」
「勇者見習いは最近このゲームに導入された職業で、ランダムで特殊な装備品に固定されるということに」
「はあ? 装備品選びは遊びかよ。容量が活かせずバグったゆえに、早速、無茶ぶりなクソゲー展開かよ」
それでもって暑苦しい鎧を脱ごうにも、何かの器具がついているようでビクともしない。
まさに聞かぬは一生の恥。
同じ冒険者さながら、ルナはこのゲームに慣れてる感があるし、彼女から色々と教わってたら良かったよ。
「ううっ、確かに外れないな?」
鉄の固まりによるなりそこないな剣、頑丈そうだが、荒っぽい作りの少し黄ばんだ鎧、どう見ても使えそうにない青いポリバケツのふた。
『その3つをひっくるめて勇者見習いの装備でーす!』と頭の中に女神らしき声が聞こえてくるし。
「あのねえ、頭の隅までおかしな女神さん、この期におよんでふざけないでよ。こんなへんてこな装備でどうモンスターに挑めというのさ」
『いえ、勇者見習いになった以上、手加減は無用です』
「天地無用ってことか……」
しかも僕の頭の上に怪しいドクロマークが浮かんでるし……これって明らかに呪われてます的な表記だよね。
おまけに綺麗な声だけの女神は『気合と根性ですわー!』と叫びながら響いてくるせいか、頭が痛くなるよ。
別に女神の年齢層には拘らないし、フラッシュの点滅もないからさ、きちんと顔見せして謝罪してよ。
「あのさ、女神様、僕はガキの女には興味はないからね」
『なるほど、未発達の頂点までも極めた冒険者というわけですね』
「だから、もうロリータ呼ばりはいいからさ!」
全く、どこ情報でそんな趣向があると思われがちなんだろう。
僕は何の色香もない幼子じゃなく、年上の色気が漂うセクシーなお姉さん派だよ。
もちろん二つの果実は大きめで。
まあ本人は肩が凝りやすいけど、大きいに越したことはない。
誘惑するのにも有利だし……。
そういえば目の前にいるルナも中々のものをお持ちで……。
「ちょっと何ジーと見てるのよ、変態。あなたの真の職業にピッタリだわ」
「僕の職業はゲームライターなんだけどね」
「もうヘンタイライターでよくない?」
「嫌だよ、それだと他のプレイヤーがヒクよ」
「それもそうね。勇者ヘンタイン」
「何の軟膏の名前だよ……」
さて、女神様との挨拶(冷やかし?)も終えたし、美少女ルナで思う存分眼福したし、長い長ーいロード時間も終えて、全ての準備は整った。
後はこの世界に映った赤いボタンに触ってフィールドに入室するのみ。
このゲームの世界へと初ダイブだ!
前回ダークなリアル生活でしたので、せめてゲームの中くらいは救いを。
……というわけでいつものようにギャグ調な流れに持っていったのですが、この2話だけでキャラや設定のみで丸々埋まってしまい、軽快なテンポ無しと……とにかく書くことが多すぎた展開でした。
ゲームと言っても普通にTV画面などを観てプレイするのではなく、VRゴーグルという眼鏡でゲーム世界をリアルに体感するのは良かったのですが、そこまでの情報量の多さにパンクして……。
すでにゲーム離れをしていた私にとってVRゲームというのは未知の領域でした。
そこで色々とググって見たのですが、さらに頭を抱えるはめになり、結局は例の作品を観たりして勉強して……。
慣れないことはするもんじゃないなと思いながらも新鮮な気分となり、書いていて楽しい第2話でした。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!