ステータス画面でも警告をしてくるモンスター、メタルオーク。
巨大なナタを持った豚が二足歩行をするというRPGではお馴染みの怪物であり、比較的中級クラスと呼ばれるモンスターの一種でもあるが、このメタルオークは一際違う。
体全体は灰色の肌で覆われており、メタル金属の硬さを持ったこの相手にはどんなに鋭い武器でも傷一つつかない。
プレイ開始前に読み漁った資料からするに、いわゆるトンデモナクエストでは定番の敵だが、メタリックスライムとかと違い、獲得できる経験値がそんなにあるものじゃない。
つまりモブキャラならぬ、クソゲーにありがちなミステイク、ゲームの締め切りに間に合わず、不意に表示されたバグの一種。
それがこのメタルオークだろう。
他のスライムたちは僕のレベルでも普通に倒せるが、メタルオークだけは別格だ。
おそらくスライムたちを率いるリーダー的な存在であの場に佇んでいるのだろう。
ウオウオと狂ったように吠えてるが、残念な人間ながらオーク語が分かるまでもなく、こうして単身で敵陣を突っ込んで、ステラを呼び止める自分がここにいた。
「ガイアさん、今のレベルではあのオークには敵いません。自殺行為もいいことかと」
「分かってるよ、ステラ。だから先にセーブポイントの氷柱に触れておくんだよ」
「ふーむ。その手がありましたか……」
「それから魔法使いなら無闇に前衛に出るなよな。僕がセーブポイントに行けるまでこちらのサポートをしろよ」
「了解です。では後ほど」
「オケ!」
セーブさえしていれば、万が一ゲームオーバーになってもその場所から再開できる。
別に初見にて一発で仕留めようとは思っていない。
とりあえずメタルオークの出方や力量などを伺って、何回かリトライして倒そうと考えたのだ。
王道なゲームとは違い、先が読めないクソゲーだけに敵キャラの登場にバラツキがあるゆえに安全で的確な戦法でもある。
歴戦のゲームを記事にしてきたゲーマーあるあるの発想だ。
そうさ、若い頃は傷つくのを恐れずに色んなゲームをプレイしてきたよな。
前作の主人公が酔っ払いが運転していたトラックにはねられた交通事故で命を亡くし、親の都合で遠方から引っ越してきた別の主人公が、前作の主人公を思い続けて失意の底に沈んでる女の子を励まして、好きにさせたり……いや、もうこれクソゲー越えた鬱ゲーだろうと物語を進めても、結局は女の子の拠り所さえもなれず、しかも女の子たちは前作の主人公にずっと思いを馳せたりとか、シマウマならぬ、トラウマもいいとこだよ。
今まで色んなクソゲーの記事を書いてきたけど、あのゲームは特に酷かったなあ。
クソゲーだけに丁寧に分かりやすい文章を並べても、にっちもさっちもいかなかったし……。
「──よし、あったぞ。湖のオアシス!」
ステラがモンスターを引きつける中、湖の水面に急接近した僕は緩やかなカーブを描くように草原を駆ける。
氷柱まで100メートル、ステラの頑張りで周りに敵の影は一切なし。
モンスターたちも、僕の後方を支援する魔法使いステラとの攻防に夢中で、ここまで気が回らないのだろう。
それとも容量の都合上、敵キャラを上手く配置する陣営を展開するプログラムさえも書いていないのか。
これだけリアルな操作が体験できるのに、手抜きはいけないよな……。
「まあいい。セーブさえしてれば、こっちのものだ」
湖の間際の草むらで樹木のように生えた氷柱にたどり着いた僕は、その情景を目に焼き付けながら、手元にコマンドを開く。
『セーブデータを上書きしますか?』
「もちろん。ここでやっておかないと今までの行動が全部パーだからな」
浮き出てきたコマンドに迷わずに触れるとオプション項目に新たなデータが上書きされる。
『データをセーブしました』
「おっしっ、一歩前進だぜ!」
潔くガッツポーズを決めながらも、無事に記録できた記念にスクショも撮ってみる。
もうこれで怖いもん無しだぜ。
『ウオウオー!!』
「くっ、何だ!?」
突如、雄叫びに反応し、目の前から出てきた光る物体から身を引く。
ゲームで培った反射神経が役に立った……じゃなくて状況を整理しないと。
『ウオオー!!』
どうやら光の正体はナタであり、死角から不意討ちを仕掛けてきたようだ。
高らかな雄叫びの元はご存知のようにメタルオーク。
待てよ、スライムの集団からは100メートル以上は離れてるし、オークの動きからして、そんなに早足では来れないはず。
それにオークは巨漢だ。
何の足音もなく、僕の前に現れることは不可能に近い。
「だったらどんな技を使用して……。待ち伏せだったら気配くらいは感じるはず……」
どう悩んでも答えが出てこなく、ブレた目線をスライム集団に向けると凍りつきそうな悪寒が全身を襲った。
ステラは敵にやられたのかすでにいなく、代わりにメタルオークが両手を上げて、宙に赤い魔法陣のようなものを出現させていたからだ。
「おいおい、そんなのありかよ……」
これまでのRPGの常識を外れた感覚。
このメタルオークは同じ仲間を自由に生み出せる召喚術が使えるタイプだったのだ。
「全く、クソゲーはともかく、クリアも困難な無理ゲーときたもんだ」
後方に迫るメタルオークのナタの攻撃を紙一重で避けながら、地道な作戦を練り上げる。
あのメタルオークの魔力じゃ、一体を召喚できるのがやっとのようだ。
現に姿を見せたのは一体のみで、迫りくるメタルオークは召喚術を使ってこない。
魔力以外に発動条件というものがあるのか?
詠唱時間が長く、近接で使用は難しいとか……それなら程遠いメートル先から唱えてきたのも頷ける。
でも言葉もろくに喋れないモンスターが召喚術という高度な魔法とかを操れるものなのか。
このクソゲーには理屈が通用しないし、マジで困ったもんだ。
『ウオウオー!』
メタルオークが低く唸りながら、デタラメにナタを振るい、間合いを詰めてくる。
「ええーい!!」
このまま防戦一方だといつかは殺られる。
僕は腰に忍ばせていたおまけ武器であろう短刀を出し、鋭い切っ先をメタルオークへと突きつけた。
初期装備のなまくらな剣では役に立ちそうにないからだ。
「こちとら格ゲーのお陰で接近戦には慣れてるんだ。とっととかかってこい!」
『ウオオオオー!!』
メタルオークが吠えた瞬間、分裂したかのように動きがブレる。
「何だ、残像か!?」
『ウオウオー!!』
「えっ?」
背後から忍び寄る別の殺気。
そうか、あの動きが召喚の魔力を使う言動か。
「フッ、開始10分で終わりか。クソゲーに相応しい滅茶苦茶なゲームバランスだな」
僕は視界を閉じて、初戦相手に戦闘不能にさせられる苦痛にぐっと耐える。
これはあくまでもゲームだから痛覚はない。
だが、どんなゲームでも命を奪われ、ゲームオーバーになって、悪い気がしないプレイヤーなんていない。
「ちょっと待ちたまえ。ここはキミの好きにはさせないよ」
僕のボロい防具とは違い、立派でピカピカな白い甲冑を身に着けた、厳ついガタイのいい銀髪のイケメンが、僕とメタルオークとの間に強引に割り込んでくる。
プレイヤーネームはフジヤマ。
重厚で重そうな装備品から見た感じ、戦士だろうか。
彼もまた新規の冒険者なのか?
いや、ステータスでレベル99とか結構やり込んでいるぞ!?
「うりゃああああー!」
フジヤマは背中の鞘から黒い大剣を抜き、轟音と共にメタルオークのいる場所へと振り下ろした。
振るった地面に振動でひびが生え、直線上に大地がえぐられていく。
『ギャオオオースー!?』
メタルオークにも予想外の攻撃に対処できなかったのか、雄叫びを上げ、上下が奇麗に切断されている。
そりゃあんだけ戦士様のレベルが高かったらな。
「おい、大丈夫かい!?」
「いや、大丈夫というか、あなたの攻撃、僕ももろに食らってるんだけど……」
勝敗は光の速さ並みに一瞬だった。
そして左右に体が切り裂かれたメタルオークの直線上には片腕と片足を斬られた瀕死状態(HP1)の僕がいた。
「あわわ、すまない。このタイプのネットゲームにはまだ慣れてないもので感覚が掴みづらくて……」
「いや、いいですよ。僕もモンスターを適当に撒いた後、そろそろログアウトして様子を見たかったですし……」
メタルオークが消滅しても、腕と足の片割れが地面に転がる今、この状態じゃ歩くことすらもままならない。
僕はとりあえず、このゲーム世界から出直して、ひとまず体力を回復することにした。
「そうかい。まあ、ドンマイ」
「はい。お疲れっした」
甲冑の男フジヤマが申しなさそうにこちらを励ます中、僕はセーブポイントでデータを記録したのをオプション画面で再確認する。
「あの二人はとっくの昔に居ないか。まあリアルじゃ寝る時間だしな……」
それからステラ同様、いつの間にかルナもフィールドに居ないことを知り、せめてチャットで抜ける報告をしろよと、多少不機嫌になりつつも、静かにこのゲーム世界からログアウトした……。
ここでメタルオークというオリジナルモンスターが登場しました。
硬くて痛くて、おまけに召喚術まで使う厄介な相手です。
レベルがヒヨッコなガイアたちには手強いモンスターでした。
それを新規プレイヤーにあっさりと倒される……では面白味がないのでガイアもろとも道連れにという内容です。
水晶のセーブポイントはファイナルファンタジー(FF)の影響ですね。
スライムなどのモンスターなど、物語的にドラクエみたいな設定でしたので、FF要素も入れてみようと……最早、何でもありですね。
トラウマになってしまうゲームのレビューはセングラ2からですね。
前作も金を注ぎ込んで浮気上等のナンパゲームで問題ありましたが、2も酷かったです。
これ楽しめるゲームじゃなくて欝ゲーだよと言うのも分かる気がしますね。
さて次回、久々のリアル編です。
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