「うああああー!」
「きゃあああー!?」
ジャイアントキルガーディアンによる剣の風圧を食らった僕は近付いてきたステラもろとも近くにあった大木の方へと飛ばされた。
枝と枝同士が絡み合った周辺に突っ込みながら圧倒的な力の差で思い知る。
あの重そうな大剣を棒切れのように軽々と振り回すんだ。
推奨レベル30がどうとか以前にコイツは今の僕らとは対等にやりあっても勝てない敵だと……。
「まあ、そんなことよりステラは何がしたかったんだ。計画性のない突撃なんて新手の遊びにしては無謀だぞ」
「失礼ですね。ワタシだって色々と考えて行動してるのですよ」
「いや、魔法使いが敵の前に出るなんて余程のことがないと……」
まあ、そのお陰で大剣の直撃はまぬがれたけど、風圧だけでもかまいたちのような切れ味を受けて、HP3と瀕死に近い状態だな。
いつもの白いステータス画面の枠組みもみかんの皮のような黄色だし……。
「助けてくれたのはありがたいが、一歩間違えていたら戦闘不能になっていたぜ」
「いえ、これで攻撃と守備力強化の魔法はかけれましたし、さっきよりは有利に戦えるはずです」
ステラの話では一時的にステータスを上昇させる補助魔法は直接、対象者の肌に触れないと効果がないとか。
なるほどな、僕に直に触れて、それなりのサポートをしようとしたんだな。
「しかし、妙だな」
僕は城門でじっと立ってるガーディアンを見ながら疑問に思う。
あの様子から迂闊に反撃をしてこない優秀な相手じゃなく、ただ単に城から離れることができないんだろう。
あくまでも城を守るボスキャラか。
飼い主に忠実な犬のようで思わずおちょくりたくもなる。
まあ、そんなことしたら、このゲームの管理者に目をつけられて厳重に注意されるかもな。
こんなクソゲーでも見張り役がいるというのも変な話だけど、その管理の甘さを利用して犯罪に手を染める輩もいるし……。
特にプレイヤー同士の男女関係が問題でネトゲを通じて惹かれ合った男女がリアルで会ったら想像以上の年齢層だったり、アバターの性別とは逆の性別だったりという事実がよくあるが、ここまでは許容範囲に収められる。
だが、それは生ぬるいほうで、相手が出会い系目的でリアルでセクハラなどのハラスメントをしたり、怪我を負わせて保険金を巻き上げたりする被害も多発してることも事実だ。
例え物資が豊かになり、便利な生活を営むことができても、逆に裏をつき、その物というゲームを使って楽に大金を稼ごうと……。
この世に善人や常識を持ったがいるのに対し、悪いことを考える相手も数え切れないほどいる。
いつの時代も善悪の世界というものは均等なバランスで保たれているのだ。
「それはクソゲーの世界でも変わらずか。だけどセキュリティはしっかりしてるみたいだな」
「さっきから逆さ吊りにされて何を呟いているのですか?」
「ステラ、そう思うんなら手を貸してくれよな」
木の枝に服を引っかけて動けない僕を傍目から眺めるステラに助けを求める。
ステラは不思議そうに首を傾げながら、この大木をよじ登ろうとするが、勿論、きちんとした木登りも知らない都会人に登れるはずがない。
「そうじゃないだろ。風の初期魔法とかで枝ごと切ればいいんだよ」
「あっ、その手がありましたか。でもワタシ、風魔法は上級クラスしか覚えてなくてですね」
「ごたくはいいから早くしてくれ。このままじゃ枝ごと落下してゲームオーバーだ」
木の高さからして地面までの高さは10メートルあるかないか。
守備力が強化されてるとはいえ、このまま頭から落ちたらリトライ必須だろう。
せめて始まりの村に立ち寄り、セーブでもしていれば……。
「……いや、今はそれより現状を何とかしないとな。ステラ、気兼ねなくやってくれ」
「了解しました」
ステラのかざした木の杖から大量の風が集まっていく。
杖に風の玉が集まることから、収束による竜巻型のタイプか。
台風と同様、どこかに目があって、そこに入り込めば問題はないはず……って待てよ、今の僕は枝と合わさった混戦模様でー?
「この体勢の僕にどうやって避けろと!?」
『竜巻貫通魔法!』
「おわっ!?」
このまま僕は切り刻まれてしまうのか。
まあ、ゲームの世界だから痛みもないし、前のセーブポイントに戻るだけだ。
そうやって覚悟を決めるが、やっぱり刻まれるのは嫌だとジタバタともがく。
「お前さん、死にたくなけりゃ、ちょっと頭を下げな!」
「あっ、はいっ!?」
野太い男の声の指示に従い、空の方向にようやく出れた頭を引っ込める。
声だけじゃ謎のままだけど僕を助けてくれるに違いないと……。
「そりゃ、一刀両断ー!!」
『ズバアアアアーン!』
こっちに向かい、ステラの魔法を吹き飛ばしたと同時にかまいたちのような衝撃波が木々に直撃する。
その遠距離攻撃は僕に絡んでいた木の枝を粉々に粉砕し、何も支えがない僕は柔らかな風に衝撃を吸収され、ゆっくりと草地に尻もちをついた。
「ふへっ、何つう力技だよ!?」
「おいおい、命の恩人に対して、その発言は失礼だろ」
僕のボロい防具とは違い、立派でピカピカな白い甲冑を身に着けた、厳ついガタイのいい銀髪のイケメンが白い歯を輝かせながら登場する。
「僕ごとぶった斬ろうとしていたのによく言うよ……」
「すまないな。どうもこの手のゲームには不慣れなものでさ……あっ?」
甲冑のイケメンが鎧を軋ませながら、僕を見て、大きな手を差し出す。
早速、友好のしるしの握手ときたか……いかにも友達が100人いそうなイケメンがやりそうな行動だけど……。
あっ……て、向こう側は僕を知ってるのか?
言われてみれば、どこかで会った覚えもあるような……。
「お前さん、この前会ったばかりの勇者見習いのガイア君じゃないか!!」
「あっ、戦士フジヤマさんじゃないですか。お久しぶりです」
「あの時はとんだ無礼をしたね。あれから元気にしてたかい?」
「元気がなければ、こんなゲームなんてプレイしませんよ」
「ハハッ、それもそうだ。君は面白いね」
フジヤマさん(勝手に先輩設定)がおおらかな態度で豪快に笑ってみせる。
「さあ、立てるかい?」
「はい、ありがとうございます」
フジヤマさんが剣を鞘に戻し、地べたに座っていた僕にもう一度手を差し伸べ、そのまま引き起こす。
「所でこんな所で何してるんだい?」
「はい、実は城を守る門番に苦戦してまして……」
「門番って、あれが?」
「ええ、そうなんです。へっ?」
フジヤマさんが城門に体をもたれ、二つとなった相手を指さす。
僕は信じられない景色に呆然としていた。
ジャイアントキルガーディアンの体が兜から股下まで真っ二つに割れ、中から黒い瘴気が溢れ出ていたのだ。
「ああ、俺がクリティカルな一振りをしたら一発で倒せたよ。よくこれで門番が務まるね」
「流石、レベルカンストの腕前は伊達じゃないですね」
「いんや、もうアイテムじゃないとステータスは上がらないからな。レアなアイテムを落とすモンスター狩りで大変な毎日さ」
フジヤマさんが自身のステータス画面を見せながら色んな説明をしてくるが、正直パラメータが半端ない数値だ。
力、防御力ともにカンストの9999に近いし、たまに表示機能が一万超えになったりもする。
STGやレースゲームでよくありそうな処理落ち、クソゲーでは対象しきれない状態か。
「おおう、早速レアな防具ゲットだな」
「あの……」
「心配するな。金と経験値はそっちに回すからさ」
「いや、どうして、フジヤマさんはカンストでこんな低レベルな旅立ちの大陸に?」
「まあ、このゲームの警備員みたいなもんさ」
フジヤマさんがガーディアンの鎧の欠片を拾い、プレイヤーしか見えないアイテムボックスに次々としまう。
ゲームの見張りならサイトの管理人に任せておけばいいのに、どういう繋がりなんだろう。
「あの……ガイアさんのお知り合いですか?」
「知り合いというか、何というか……」
「まあ、俺にとっては可愛い弟みたいなものだよ」
場の空気に馴染めなかったステラがようやく重い口を開く。
今まで黙っていたのは男同士の友情にしゃしゃり出るわけにはいかなかったのか……女の子って野郎よりもよく考えを理解していて、繊細な生き物だな。
『ウウー、ウウー、ウウー!』
ふとフィールドが赤一色となり、『緊急事態発生』のウィンドウ画面が点滅し、鼓膜が割れそうな激しい警告音が鳴り響く。
何だ、どこかで事件でも起きたのか?
「全く、言ったそばからこれかよ」
フジヤマさんがキーボード画面を開き、何やら文章をタイプしている。
「ガイア君、ステラちゃんはこの世界に留まってな。ここなら連中も手を出せない。リアルの命運は俺に任せとけ!」
「「えっ?」」
「いいねえ、その面構え悪くないよw」
フジヤマさんがグッと親指を天に掲げ、地面から出てきた白い光に吸い込まれ……、
「じゃあな」
……そのまま、フジヤマさんが消え、この世界からログアウトした。
ジャイアントキルガーディアンが街を守ってるという設定は某有名ゲーム、ドラクエ1からチョイスしたものです。
ドラクエではゴーレムとなっており、ある特殊アイテムを使用しないと倒せない設定となっています。
これまたアイテムを使ってもこのゴーレムが強くて固くて……。
一人旅だから余計にですね……。
まさに守護神のような存在ですよね。
ガーディアンという名称はここから文字っています。
そしてフジヤマさんとの再会でしたが、ともかく強くて凛々しいというイメージ像で考えた結果、レベルカンストのステータスにしてみましたが、なかなか良い味を出してますね。
ボイス的にはハードボイルドな渋いおじさんのイメージです。
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