某人気作品がメディア化となり、そこから思い付いたオリジナルの長編作です。
久々の長編作ということで色々と詰め込みながら、書き始めた内容でした。
とにかく読まれるよりも自分で書いていて楽しい作品、それを目指して執筆しました。
それではその武勇伝となる裏話は後ほど……。
『カタカタカタ……』
節電のためか、暗い部屋にて、黒と灰色を基調としたビジネススーツを着た数名の人物が生み出す無機質な音。
それはデスクに備え付けてあるPCからのキーボードを叩く音でもあった。
「おい、如月君。忙しいところ悪いが、ここの記事もついでに仕上げといてくれ」
「またですか、鷹見さん。今何時と思ってるんですか。この分じゃ終電に間に合わないんですけど?」
如月朔矢という見栄えの良い氏名を持った僕は椅子の背もたれに身を預け、面倒くさい目で上司を見る。
この鷹見猛上司は部下に仕事を押しつけてさっさと家に帰る、嫌な上司タイプ。
正直相手にしたくないけど、仕事として関わらないと工程が進まないし、会社の空気もギスギスしてやり辛くなり、お互いに仕事にも支障が出る。
世間体も気にかかるし、ここは大人な対応で受け流すしかない。
「まあまあ、如月君は仕事が早いし、臨機応変に動いてくれる。ウチの会社では鼻が高い存在だよ」
「だからね、一生のお願い」
鷹見上司がバーコードな頭を下げ、両手を合わせ、精一杯なお願いをしてくる。
「むう、分かりましたよ。その書類下さい」
「ありがとね」
ほんとこの上司は人の弱いところをつく。
性格上、頼まれたら断れない僕は頬を僅かに膨らませながらも、鷹見上司からプリントの束をいただく。
このデジタルな時代に紙の書類の山だなんて、ここの会社はどうかしてる。
どうせ要らなくなったら紙くずとなり、理不尽にお金がかかるゴミが増えるのに……。
「はあ、またこの手のゲームと来たか」
ここに勤めて早三年。
僕は田舎から上京し、この都内に移り住んだ今どきでは珍しくもない若者だ。
そうやって若者だと言いたいところだが、正直年齢はこの前の誕生日で三十を迎えた。
世間で言うおっさんの仲間入りである。
おまけに冴えない顔つきだし、ちょっと小太りだし、背も低いし、特にモテるような風貌でもない。
だが、昔からゲームをプレイすることと、文章を書くことが好きでよくクリアした後にゲームの感想をネットの掲示板に書き込みしていた。
その学生からのゲームと文章好きというオタクを活かし、高卒後、進学もできずに浪人し、数年間のフリーターからの情報を掴んで飛び込んだ会社、それがこのゲームライター会社『パーフェクトワンダーバードノベル』、略してパワバだ。
このパワバに入社し、何もかもが恵まれた環境で場数を踏み、億万長者になるのが夢だった。
だけど現実は甘くなく、土日祝出勤、毎日残業あり、人間関係最悪、さらに高卒だから最低賃金プラス安月給と何でもありなブラック企業だった。
まあ、大卒と比較しても1万程度しか給料は変わらないが、税金を天引きされてる納税者としてあると無いではえらく違う。
「しかもそれだけじゃないんだよな……」
僕はPCの本体にゲームハード『プレスギ6』を配線接続し、手元のVRゴーグルを頭に装着する。
ハードに取り込んだゲームのブルーレイディスクの名前は『トンデモナクエスト10』
発売直後からSNSを中心にゲーマーの間ではいわずと知られた迷作のRPGである。
何が迷作かというと、このゲームはトンデモナクエスト上、史上最悪なクソゲーだからだ。
だったらどうして低評価なのにプレイするのかって?
これがこの会社の仕事だからだ。
こんな弱小企業の会社じゃ、元から儲けの少ないゲームをレビューにしてお金を得るのは常識だ。
売れないクソゲーを記事に書いてもらうのに普通に儲けてる会社だと、記事にしてもらうだけでも多額のお金を請求される。
それに元がクソゲーだと、いくら丁寧に上品に良いように文章を並べても、巷ではクソゲーと分かってるから見向きもされない。
だからこういう安請け合いのできる企業にクソゲーの記事の依頼が次々と舞い込むのだ。
「さて、ここまで叩かれたゲームなんだ。簡単に攻略してみせるなよ」
深夜0時を指そうとしてるのにハイテンションな僕。
そんな僕の頬に冷たい人工物の感触が伝わる。
「ひゃふっ、未知の生物!?」
「あははっ、ごめんねw」
僕はVRゴーグルをずらして首にかけ、幼い甘い声(アニメ声)がした先を目で追う。
「あれっ、もしかして、鶴賀浜さん!?」
「うん、そうだよ」
「今日はもう帰ったのでは?」
「馬鹿ね、後輩がこうやって頑張ってるのに帰宅するなんて良心が痛むわよ」
年齢は二十代後半。
隣のデスクの椅子に遠慮なく座る黒いロングヘアの清楚系な美少女、ナチュラルメイクな鶴賀浜麻衣。
「ううっ……」
「ちょっと何泣いてるのよ。男の子でしょ?」
「だっ、だって僕の周りの社員はみんな他人事だと知らぬフリで、速攻で帰宅して……」
「何言ってんの。そんな根っから冷たい人なんてここにはいないわよ。みんな色々と事情があって忙しいのよ」
この娘は若い割には考え方が大人だなと思いながら、果汁入りの炭酸ジュースを受け取る。
缶はキンキンに冷えていて、自販機じゃなくて、予め冷蔵庫に入れてたんだなと……。
ほんと素直でいい子だよな。
この身が彼女と対等に若かったら、是非とも、嫁にほしかったよ。
「ねえ、記事の方は順調?」
「ううん、これからゲーム世界にダイブするところ」
「そう。もう夜も遅いんだから、あまり根を詰め過ぎないでね」
「ううっ、その優しさが身にしみる……」
「おでんかよw」
鶴賀浜さんがデスクにひじをつき、大きくため息をつく。
僕はそれが悪態だったとも知らずに予備のVRゴーグルを彼女に手渡した。
「これは何のつもりよ?」
「いや、よければ一緒にダイブしてはどうかなと。第三者の意見も参考にしたいし」
「はあ? 何なの、いきなり変なこと言い出して? あなた、頭どうかしてるの?」
まあ、予想はしていたけど、それが普通の女の子の反応だよね。
恋人でも夫婦でもないのに協力プレイは気が引ける。
顔見知りの知り合いなら、なおさらだ。
「まあ……私は仕事は済んだから息抜き程度ならいいかしらね」
「へっ、今なんて?」
「だからこのゲームに付き合ってあげるって言ってんの。何度も言わせないでよ」
僕は正直、自分の耳を疑った。
冗談で言ったつもりが相手には通じずに、勝手に勘違いして答えを口に出しているんだ。
置かれた環境がゲームでも付き合うとか言ってるし……。
「ほらっ、さっさとゲームの電源入れてよね。か弱い女の子をいつまでも待たせるもんじゃないわよ」
「あっ、はっ、はいっ!!」
「アハハ、何ガチで固くなってるのよ、ウケるーw」
僕はVRゴーグルを頭に付け直し、ゲーム本体の電源を入れる。
さあ、クソゲーよ、思う存分楽しませてくれよな。
ブラック企業を主軸に起こる事件、ゲームライターとして過ごす日々。
そんな最中で繰り広げられる異質なゲーム世界。
リアルとゲームの二面性を描いた展開であり、今まで私の転生ファンタジーやファンタジーなラブコメな作風を見事にぶち壊した物語でした。
小説家として二百万字を書いてみて、初めてオリジナルの書き方に華開く。
そのようなことをある作家さんから聞いたような……うろ覚えですいません。
ちなみに初稿はここのサイトのみの限定公開でしたが、あまりにも反響がなく、カクヨム様でも公開したのですが、毎日公開にも関わらず、このサイト以上に反響もなく……。
改めて創作の難しさを知りましたね。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!