その場の誰もが言葉を失っていた。
当然だ。
なんの前兆もなくドラゴンが出現すれば誰でもそうなる。
最初に言葉を発したのは、エルフの国王だった。
「く、クララ……?」
それは彼の娘である第三王女の名前だった。
ラザンは、なぜ今その名前を口にするのかと訝しんだが、すぐに気づく。
ドラゴンの手に一人のエルフが捕われている。
その美しい女騎士が、王女なのだと推察するのは簡単なことだった。
「は、はは、な、なんでドラゴンが……」
思わず笑いながらそんな疑問を口にするギルバート。
だが彼の呟きは、ドラゴンの咆哮にかき消された。
――グオオオオオオオオォォォオオオオン。
「ひ、ひいいいい!」
思い切りその声をぶち当てられ、悲鳴を上げてひっくり返るギルバート。
さっきまでの皮肉げな余裕はかけらもない。
「おい、離せ!」
ドラゴンの腕の中のクララが声を上げる。
「ドラゴンよ! 言葉が通じるのだろう!? ここは私の故郷だ! 私はここに戻って為すべきことがあるのだ!」
「いいや、ならぬぞ、ライレンシア」
ドラゴンはそう返した。
なぜか、相手のことを違う名前で呼んでいるが。
「ここには久しぶりの飛行で疲れたので降りただけだ。そなたには我が居城まで来てもらう。そして今度こそ永き時を共に過ごすのだ」
「だから、私はライレンシアではないと何度言えばわかる……!」
言い合いをするエルフの王女とドラゴン。
どうしてこうなったのか、状況は全くわからない。
だが、ドラゴンはなにやら人違いをしているようだった。
「ふふふ、ふざけるな!」
そこでギルバートが声をあげた。
「そそその娘はこれから私がいただこうとしていたのです! 今すぐよこしなさい!」
これにはラザンも、他のみなも目を剥いた。
まさかドラゴンにそんなことを言い出すとは。
おそらく、あまりに想定外の事態にパニックになって思わず口走ったのだろう。
しかしそれにしても、あまりにも悪手であった。
「なんだと……」
ドラゴンが鎌首をもたげる。
「貴様……我が愛するライレンシアを奪おうというのか。小さきものの分際で……」
「ひっ……!」
ドラゴンに至近距離で睨まれ、ギルバートは今更自分の失敗を悟る。
だが、時すでに遅し。
――ぶおん!
ドラゴンがその身を回転させ、尾をギルバートにぶち当てる。
「ぎやあああああああああああああぁぁぁぁああああああ!」
ドラゴンの咆哮よりでかいのではないかという悲鳴が響き渡る。
ギルバートは、ドラゴンが飛び込んできた天井の大穴から空へ吹っ飛んだ。
全員がそれを身動き一つできるに見守るしかない。
「さあ、我が城へ向かおう」
人間たちの反応など無関係に、ドラゴンが告げる。
「やーめーろー! はーなーせー!」
叫ぶクララを無視して、ドラゴンは羽ばたく。
そして、現れたときと同様、あっという間にドラゴンは飛び去っていった。
ギルバートの護衛の兵士たちが、慌てて吹っ飛んでいった彼を探しに出ていく。
見つけられるとも思えない。
見つかったとしても、おそらくそれは死体なんじゃないだろうか。
あまりに唐突すぎる展開に、ラザンはそのあともしばらく動けずにいた。
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