「せっかくお越しいただいたのに、主が不在で申し訳ございません」
メイドのカタリナは商人のエド・チェインハルトに深々と頭を下げた。
エドはにこやかにそれに答える。
「いえいえ、事前にお知らせもせず、突然まいりましたこちらが悪いのです。でも、せっかくですからね。我々の新製品を置いていきますよ」
「あら、なんでございましょう」
「きっと、あなたや、使用人のベルさんのお役に立つでしょう」
その言葉にカタリナは無言で頷く。
そして部屋を出ていった。
ここはバリガンガルドにあるガレンシア公の居城である。
ガレンシア公爵は不在だった。
ヴォルフォニア帝国の軍務大臣カッセルに呼ばれ、兵を連れていった。
保護国(実質植民地)で独立を主張するエルフの国・フリエルノーラ国が目的地だ。
帝国がエルフ狩りを行なっているらしい。
ガレンシア公爵も、その手伝いに付き合わされているのだろう。
エドはその情報はすでに耳にしていた。
だが、手を出す気はない。
(どう転んでも、こちらの益になりますからね)
紅茶を飲んでいると、カタリナがベルを連れて戻ってきた。
ベルは、部屋に入るまでとぼけたような表情をしていた。
が、カタリナが扉を閉じるなり、凛々しい表情になる。
「相変わらず、素晴らしい変わり身ですね」
「もう長年のことだからね」
ベルは肩を竦める。
「それより、例のものは?」
「こちらです」
エドは席を立つと、部屋の壁に立てかけておいた、大きな箱を示す。
棺のようだが、普通の棺より一回りほど大きい。
「カタリナ、カーテンを」
「かしこまりました」
ベルに言われ、カタリナがカーテンを閉める。
薄暗い部屋の中で、エドは怪しく笑みを浮かべる。
「では」
そう言って、彼は棺の蓋を開いた。
「おお……」
「これは……」
ベルとカタリナは息を呑む。
箱の中には、一体のゴーレムが収まっていた。
フルアーマーのような外見。
しかし明らかに製法も、材質も、普通の鎧とは別物。
ベルは知らないことだが。
それは絶海の孤島ダンジョンに大量に埋まっているのと同種のものだった。
「動くのか?」
「どうぞ、命令してみてください」
「……前へ出ろ」
エドに言われ、ベルはゴーレムに命じる。
ゴーレムは静かに前進した。
「部屋を一周しろ」
ベルがさらに指示すると、ゴーレムは言われた通りに動く。
「……すごいな」
「はい。実際に確かめていただければ分かりますが、力仕事は得意です。四頭建ての馬車を引き、城壁を拳で破壊することが可能です。防御力も高く、矢、銃、大砲、通常のエルフレベルの魔法など、大抵の攻撃は防げます」
「これをいくつ貸してもらえる?」
「すぐになら百体。必要に応じて順次、五百体といったところです」
ベルは笑い声をあげた。
「それはありがたい。これがあれば、恐れるものはない! 僕はこの城を取り戻すことができる!」
「ありがとうございます、エド様」
カタリナは深々と頭を下げた。
エドは軽く笑みを浮かべる。
「とんでもありません。このバリガンガルドは冒険者のための自由な都市であって欲しいのです。そのためには、ヴォルフォニア帝国と、現在のガレンシア公の管理は好ましくない。ぜひとも、本来の、活気あるバリガンガルドを、そしてあなたの領地であるガレンシア公国を、取り戻すための手助けをさせてください」
「ああ、感謝するよ、エド。領地を取り戻した暁には、冒険者ギルドを望みの数だけ建てて、手厚く保護することを改めて約束する」
ベルは、エドが手助けの見返りとして以前要求したことを、改めて口にする。
少年は、それが商人の目的のすべてだと思っている。
ゴーレムを自分に貸し与えることで彼がなにを起こそうとしているのか、知らない。
「ところでエド。このゴーレムは、どういう原理で制御しているんだ? ゴーレムはヘルメスの秘術が生み出したもので、その制御方法はまだ解明できていなかったはずだ」
「ふふ……」
エドはにこやかに笑みを浮かべると、こう答えた。
「それはご勘弁ください。企業秘密というやつですので」
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