どうも、リビングアーマーの俺です。
隣にいるのはゴブリン娘のラファ。
正面にいるのは大蛇の群れ。
右斜め後ろにいるのは巨大カエルの群れ。
左斜め後ろにいるのは巨大ナメクジの群れ。
ぬわああああ!
どうすりゃいいんだよこれ!
これはヤバい。
さすがにヤバい。
どうしようもないでしょ。
〈ラファ、お前の手のビーム、まだ撃てないのか?〉
「ビーム? ああ、光線のこと? うーん、まだダメっぽいね」
ラファの左腕は義手で、ゴーレムの巨大な腕だ。
そこからは超強力なビームを放てる。
あれならここにいるモンスターを一掃できるんだけど。
あの攻撃は一日一回しか撃てないらしい。
くそ、まだ使えないか……。
えーと。
じゃ、じゃああれだ。
俺の身体にくっつけたゴーレムのパーツ。
右腕パーツはワイヤーを使って伸ばすことができるけど。
頭パーツはなにか撃ったりできないのか?
〈ぬおおおおおおっ……!〉
俺は気合を入れる。
しかしなにも起こらなかった!
「なにしてるの?」
なんでもねえよ!
ゴーレムパーツが接続されたときに、どんな機能があるかは把握している。
頭部パーツは他のゴーレムと情報をやり取りする機能があるらしい。
今は特になんの情報も入ってこない。
俺が使ってると機能しないのか。
あるいは動いているゴーレムが近くにないのか。
どちらにしろ、霊体の俺が操作している限り、あまり関係のある機能じゃない。
少なくとも現状をどうにかできるものではない。
じゃあ、どうする?
どうすればいい?
蛇とカエルとナメクジが今にも襲ってきそうなこの状況……。
……………………?
蛇とカエルとナメクジが。
今にも襲ってきそうな。
この状況。
……………………襲ってこねえな。
俺は改めて周りを見回す。
――シャーーーーーーーーー!
と蛇が声を上げている。
――ゲコゲコゲコゲコ!
とカエルが鳴いている。
――にゅにゅにゅべしゃ!
とナメクジが蠢いている。
……それだけだ。
三グループとも、威嚇するみたいな動きをするだけで、その場から動かない。
ん、待てよ……。
蛇。
カエル。
ナメクジ。
それって……。
〈……ラファ。この場を離れるぞ。なるべくそっと。静かに〉
「え? でもそんなことしても追いかけられるんじゃない?」
〈いや、たぶん大丈夫だ〉
俺はそおおおおっと身体を動かす。
鎧なのでどうしても金属音が鳴ってしまうが、できる限りゆっくりにだ。
幸い、モンスターたちは俺の移動に気付いていないっぽい。
やっぱりか。
ラファも俺にゆっくりとついてくる。
蛇の群れとカエルの群れの間にある隙間を通って、出口の穴へと向かっていく。
――シャーーーーーーーーー!
――ゲコゲコゲコゲコ!
――にゅにゅにゅべしゃ!
モンスターたちはお互いに威嚇しあってばかりで、俺たちには気にも留めない。
そして俺たちはそのままその場を脱出することができた。
「なんで襲われなかったんだろう?」
〈三すくみってやつだな〉
三すくみ。
ジャンケンでお馴染みの関係性だ。
蛇はカエルを一飲みにできる。
カエルはナメクジを舌で捕らえて食べてしまう。
ナメクジは粘液で蛇を溶かしてしまう。
強弱関係がぐるっと一周している。
なので、三者が同時に出会うと、警戒し合ってみんな動けなくなってしまう。
まあ、実際にはナメクジが蛇を溶かすなんてことはない。
なので、現代日本に伝わっていたこの話は嘘っぱちなんだけど。
どうやらこの世界ではそれが実際に成立するみたいだな。
「へー、知らなかった」
ラファが感心したように言ってくる。
「地上にいるマギ・フロッグ・ノームがここまで来ることなんてなかったからね。そんな状況を見ること自体なかったし」
なるほどな。
なにがあったのか知らないけど。
運よく天井が崩れてくれて助かったぜ。
〈よし、それじゃ先に進もう〉
「うん」
俺とラファはようやく地上部目指して進むことができた。
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