「ガイアン様。各部隊の配置が整いました」
部下の声に、ガイアンは閉じていた目を開けた。
森の一角に建てた陣幕の中である。
見慣れた戦争の一光景。
しかし最近はあまりみていなかった。
現場で指揮を取る機会が減っていたからだ。
しかし今回は出てこないわけにはいかなかった。
なにしろ軍務大臣カッセル直々の命令だ。
(だが、これほど気の進まない戦いも珍しい)
ガイアンは内心でため息をつく。
もちろん士気に関わるので表に出すことはない。
そもそもヴォルフォニア帝国は軍事国家だ。
圧倒的な軍事力で他者の領地を奪って版図を広げてきた。
中には戦いとすら呼べない、一方的な蹂躙も存在する。
だが、そうした行為すらも。
帝国に生きる人々のため。
ひいては、いずれ帝国領となる大陸の平和のため。
そう考えれば自分の中で納得はつけられた。
しかし今回は……。
「各部隊の士気はどうだ?」
「はっ……正直、あまり良いとは言えません」
「やはりか」
無理もない。
今回の作戦の相手はフリエラノール国。
エルフの小国家だ。
目的は住民の捕縛。
そして奴隷として帝国へ連れ帰ることだ。
帝国はもはや、奴隷を必要としないほどに領土も人も多い。
なんのためにわざわざ他国を侵略し奴隷を得るのか。
納得できない兵士が多いのだろう。
これが荒くれ者から構成される普通の部隊なら士気はむしろ高かっただろう。
非戦闘員にも攻撃し放題。
どさくさに紛れて略奪でも強姦でもし放題ということなのだから。
しかしガイアンの直轄部隊は、そうした無法を防ぐため厳しく律している。
今回の士気の低さは、それが裏目に出たというわけだ。
だがカッセルがガイアンとその直轄部隊にこの作戦を命じた理由はよくわかる。
少しでも多くエルフの奴隷を得たいのだ。
そのために余計な被害を増やしたくない。
だから統制の取れたこの部隊の出番だと考えたのだろう。
(やれやれだ)
民間人の無駄な犠牲を防ぐために厳しく鍛えていた部隊。
それがゆえに民間人の奴隷狩りに駆り出される。
ひどい皮肉を感じながら、ガイアンは立ち上がった。
「全部隊に通達しろ。下手に加減をするな。全力で圧倒し反撃の機会を奪った方が最終的に被害は少なくなる、とな」
「はっ」
そう……。
どのみち避けられぬ戦いなら、もっとも被害の少ないやり方を選ぶしかない。
これまでもそうしてきた。
これからもそれは変わらない……。
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