1
〈う……〉
どこだここ……。
俺は何をしてたんだっけ?
確か……。
ロロコとクラクラと一緒に冒険者ギルドに入って。
ドワーフの受付嬢に何か質問して。
待ってるところに地震と魔響震が起きて。
そうだ。
そのせいで俺は頭が痛くなった。
誰かにぶつかられて、身体がバラバラになって。
なぜか元に戻すことができなくて。
そのまま意識を失った――。
今は……。
頭は動く。
他は……。
他は……動かない。
っていうか……。
ないね!
頭以外のパーツが見当たらない。
バラバラになったまま、どっかに行ってしまったのか。
「リビたん?」
〈ロロコ!〉
呼ばれて初めて、自分がロロコに持ち抱えられてることに気づいたぜ。
「大丈夫?」
〈ああ。なんとかな……どうなったんだ? クラクラはどこだ?〉
「クラクラとは逸れた」
相変わらず冷静な口調でロロコは説明する。
「リビたんがバラバラになった後、ギルドの建物が崩れた」
〈マジか……〉
そんな激しい地震だったのか。
「なんとか兜だけを抱えて外に出た」
〈じゃあ他のパーツは……〉
「わからない。腕はクラクラが持っててくれたけど」
〈そうか……〉
じゃあ大半が瓦礫の下に埋もれてることになるのかな?
まいったな……。
〈とりあえず、クラクラの場所を探ってみる〉
クラクラが俺の腕を持ってるなら、それを探知すれば様子がわかるはずだ。
◆◇◆◇◆
2
頭部以外のパーツに視覚を生み出すのは前にやったので、簡単にできた。
両腕に視覚が生まれた。
〈う……重い〉
全身(と言っても腕だけだが)になにかが乗っている感覚。
〈うおおおおお……!〉
俺は両腕を宙に浮かし、それを避けた。
――ガラガラガラ。
と、がれきが崩れた。
どうやら、壊れたギルドの下敷きになってたらしい。
え、ってことは……。
〈クラクラ!〉
俺は慌てて周りを見回す。
と。
「リビタン殿……」
すぐ近くに倒れていたクラクラが答えた。
〈よかった、無事だったか〉
「ああ。だが、足が……」
見れば、彼女の足ががれきに挟まれてしまっている。
〈待ってろ。これくらいならなんとかなる〉
俺が両腕でがれきを持ち上げて、クラクラは這い出した。
〈怪我してるのか?〉
「いや……大したことはない。ただ、ちょっとひねったようで、歩きづらいが……」
〈まずは安全なところに移動しよう〉
ギルドの残り部分がいつ崩壊するかもしれないしな。
俺は両腕でクラクラの身体を支え、移動する。
「かたじけない」
〈いやいや、いいパーツを拾っておいてくれたおかげだぜ〉
「他のパーツは埋まってしまったのか……それに、ロロコ殿は!?」
〈ロロコは大丈夫。俺――の頭と一緒だ。他のパーツは……〉
多分埋まってるんだろうけど。
一応、探知してみるか。
えっと――。
◆◇◆◇◆
3
胴体(胸パーツと腰パーツ)は……。
あれ、埋まってないな?
誰かに着られてる。
そしてその誰かが走ってるな。
〈あの……〉
「ひゃああああっだっ誰ですか!?」
あ、この人、受付嬢のドワーフだ。
受付嬢のドワーフ(長いので、ドワーフ嬢)は立ち止まってあたりを見回す。
街の一角らしい。
木々が立ち並んで、芝生が広がっている。
公園というかあき地というか、そんな感じの場所だ。
避難してきたらしい人も結構いる。
〈あの、ですね〉
「?………………よよよ、鎧が喋りましたぁああああ!」
悲鳴をあげて、鎧を脱ぎ捨てようとするドワーフ嬢。
しかしうまくいかない。
〈落ち着いて……危害は加えないから〉
「ひいいいぃごめんなさいごめんなさい」
ドワーフ嬢はブルブル震えながらその場にしゃがみ込む。
「建物に潰されそうになってとっさに着ただけです。盗む気は全然なかったんです!」
なるほど、そういうことか……。
残りは、えっと、両脚パーツだな――。
◆◇◆◇◆
4
……右脚と左脚は別の場所にあるっぽいな。
えっと、右脚は。
「ふぅ。ギルドに着いた途端、地震と魔響震とはツイてないな」
ん、この声、どっかで聞いたことがあるな?
「って、なんだ。ベルトに鎧が引っかかってるな。どおりでなんか重いと思った」
そう言って、彼はベルトに引っかかっていた俺を外した。
ほおに傷跡を持ち、右目に眼帯をした、五十がらみの男。
間違いない。
〈えっと……ラッカムさん〉
「おわっ!? 鎧が喋った――ひょっとして、あんた、リビタンか?」
〈正解です〉
◆◇◆◇◆
5
そして最後に左脚だ。
これはどこだ?
やけに薄暗い場所。
雰囲気的に地下っぽいな。
冒険者ギルドの地下かな?
その石造りの廊下を歩いている。
誰が?
俺を手に持った何者かが、だ。
……こいつもどっかで見たことがあるな。
えーと。
そうそう。ブロッケン・ウルフと戦ったとき、バカ領主の横にいた男だ。
あのときと同じニコニコ顔で、いかにも商人って雰囲気を醸し出している。
「おや、気がつかれたようですね、リビングアーマーさん」
〈! あんた、俺のことがわかったのか〉
あのときとは、全然違う鎧なんだけどな。
「ええ。魔力の色とでも言いますかね。それを見ればわかりますよ」
〈…………〉
なんだろう。
まるで敵意を感じない、むしろ安心感の漂う口調なのに。
それがかえって、この男の不気味さを表しているように感じる。
「私はエド・チェインハルト。チェインハルト商会の会長をしております」
チェインハルト商会……聞き覚えがあるな。
確か、冒険書を作ったりしてるところだっけ。
〈じゃあ、地震の時も、冒険者ギルドにいたのか?〉
「ええ。あなたを待っていたのですよ」
〈俺を?〉
なんのために?
「残念ながら、そちらの本来の目的の方は、一旦置いておきましょう」
なんだよ、気になるじゃないか。
「それよりね、非常事態です。大事ですよこれは」
〈どういうことだ? さっきの地震が関係してるのか?〉
「ええ。それに魔響震もね。ちょっと想定外でした」
〈何が起きてるんだ?〉
俺の問いに、エドは笑みを崩すことなく、その事実を告げた。
「――このままだと、バリガンガルドの街が滅びます」
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