〈こ、これは……〉
「これは?」
〈これは、エルフですか?〉
「? そうだよ」
ロロコは不思議そうな顔でうなずいた。
ちょ、そんな『なに言ってんのこの腕だけやろう』みたいな顔しないで!
いやー、思わず英語の翻訳文みたいなセリフを口にしてしまったぜ。
しかし予想はあってたらしい。
俺とロロコのところに洞窟から水に流されてやってきた女の人。
金色の髪の間から覗く長い耳!
白くきれいな肌!
エルフのイメージそのまんまだった。
女の人とは言ったけど、見た目の年齢は16とか17とかそのくらいだ。
転生前の俺と同じくらいってこと。
もっとも、エルフは見た目よりずっと高年齢かもしれないな。
で、そのエルフさんは、ぐったりと気絶している。
俺やロロコとは違って、水に流されてる間に溺れてしまったんだろう。
「けほっ……けほっ」
あ、目さましたな。
よかった。
「ここは……む、何者っ!」
エルフさん、とっさに飛び起きる。
剣に手をかけ、警戒心丸出しだ。
まあ、そりゃそうか。
ダンジョンの中だもんな。
ちなみにロロコの隣にいる俺はガン無視である。
当たり前か。
はたから見りゃ、鎧の腕パーツがあるようにしか見えないだろう。
ん?
でも俺、いま浮いてるよな。
鎧のパーツが浮いてたら、さすがに犬耳少女より先にそっちを警戒しないか?
あ。
そうか。
エルフさん、周りが見えてないんだ。
よく見れば、ロロコとちょっとズレた方向に目を向けてる。
そうだよな。
ここ、真っ暗闇の洞窟だもんな。
謎感覚でもの見てる俺や、犬並みに夜目のきくロロコとは違うんだ。
ってことは、気配だけで、自分のそばになにかいることに気づいたってわけか。
すごいな。
ともかく、相手に俺たちが見えてないってのは好都合だ。
いや、そう言うと、なんか悪いことしようとしてるみたいだけど。
そういう意味じゃなくてね。
俺の姿が見えないなら、警戒されずに会話ができそうってこと。
よし。
ちょっと会話してみよう。
〈あー、えっと〉
「!」
〈怪しいものじゃない。俺たちも、その、冒険者なんだ〉
「……その証拠は?」
エルフさんはちょっとだけ警戒心を解いたみたいだ。
けど、剣からは手を離さない。
〈あんたを襲うつもりならとっくにやってる〉
こういうときによく使われる定番のセリフを言ってみた。
実は俺、これあんまり信用できないと思ってるんだけどねー。
襲うつもりはあるけど、なんかの都合で時期を待ってるとか。
襲うのとは違う目的(ものを盗むとか)があるとか。
いろいろパターンはあると思うのだ。
けど、エルフさんはそうは思わなかったようで、剣から手を離した。
「…………それもそうだな」
…………いいのかなー。
いや、くどいようだけど、悪い事しようとしてるわけじゃないからね?
相手の警戒心を解いて会話を成立させようとしてるだけだから。
エルフさんは改まって言ってくる。
「自分は、クララ・クラリッサ・リーゼナッハ・フリエルノーラ」
え、なんだって?
「フリエルノーラ国第三王女にして、同国騎士団の団長だ」
え、なんだって!?
待って待って。
情報が多すぎて処理しきれない。
名前……は覚えられなかったから置いておこう。
で、ナントカ国の第三王女って言ったな。
で、騎士団の団長?
つまりこの少女は、エルフで姫で女騎士ってわけか。
属性盛りすぎじゃないですかね。
「それで、そなたは何者だ」
〈えーと、俺はリビタン。冒険者だ〉
ということにしておく。
「私は人犬族のロロコ」
「!?」
とロロコが初めて声を出した。
エルフさんはすごく驚いた様子。
「む、ふ、二人いるのか? 魔力は一人分かと思ったが……いや、確かに二人分あるな」
魔力を感じ取ることができるのか。
エルフの特性なのかな?
〈ああ、えーと、それはだな……〉
多分オレの魔力が少なすぎるせいではないでしょうかね……。
「いや、言わなくてよい。人には事情があるものだからな」
おーそうか。
なんか勝手に納得してくれたので、よしとしよう。
「では、改めて、リビタン殿にロロコ殿。二人はこのような場所でなにを?」
オレは簡単に説明する。
ロロコとともに、バリガンガルドにある冒険者ギルドを目指していること。
途中で増水に巻き込まれ、ここにきてしまったこと。
……ちなみに、町の名前は相変わらず間違えて、ロロコに訂正された。
「おお、それは奇遇ではないか!」
とエルフさん。
〈どういうことだ?〉
「自分もそこを目指しているところなのだ」
マジか!
助かったぜ!
まさかこんなダンジョンの奥地で道案内が得られようとは!
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