どうも、リビングアーマの俺(五十四体)です。
こっちは、これから俺が封印しなきゃいけない、めっちゃでっかいドラゴン。
……いやいやいやいや、嘘でしょ?
ちょっとね、さすがにこれは想像してなかったわ。
デカすぎ。
前に象みたいにデカい狼と戦ったことがあるけど。
このドラゴンは、あの狼の二十倍はあると思う。
いや、もうデカすぎて、何倍とかいう感覚は適当。
とにかくデカい。
俺が通ってた高校の校舎くらいあるんじゃないかな?
あ、急に元の世界が恋しくなってきたぞ。
だってあっちの世界にはドラゴンとかいないもん。
ドラゴンの口に封印用の魔法陣が描かれた板突っ込んできてね、とか言われないもん。
……まあでもあっちの世界には犬耳犬尻尾の少女はいない。
エルフの騎士のお姉さんもいない。
俺に命を預けてくれるような仲間はこっちの世界にしかいないんだよな。
あーもう。
しょうがねえな。
やるかあああー!
怖くないぞ!
ドラゴンなんか全然怖くない!
――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオ……。
うわあぁ。
めっちゃ怖あああ……。
なにあいつ!
だって今の怒りの咆哮とかじゃないんだぜ?
なんかちょっと寝起きにあくびしてみましたくらいの口の開け方だった。
それだけでもう心の底から恐怖心が湧き上がってきた。
冗談じゃねえぜまったく……。
しかし、俺は五十四体の自分の歩みを止めることはない。
普通の人間なら恐怖で足がすくんだりしそうなもんだけどね。
リビングアーマーになってだいぶ経つ俺はそうならない。
なんていうか、リモコンで動かしてるような感覚だ。
怖くてもノリノリでも、操作さえすれば勝手に動く。
というわけで五十四体の鎧の軍団はガシャガシャガシャガシャ歩き続ける。
――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオ……。
ドラゴンがふたたび声を上げる。
ぐっ……。
よしっ……だいぶ慣れてきたぞ。
もともと俺のスキルには恐怖耐性があった。
ドラゴンの声を浴びたことでそれがアップしてる。
ような気がする。
――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオ!
ひっ!
気がしてるだけかもしれない。
お前今ちょっと本気出しただろ!
あくびじゃなくて発声練習くらいの勢い。
なんか具体的に圧を感じるくらいの威力があった。
それにさっきより距離も近づいてるしな。
しかし耐えられないほどじゃない。
俺は五十四体の鎧を散開させていく。
五体を正面から突っ込ませる。
二十体は左側面から。
もう二十体は右側面から。
残りの九体は外側に広がって様子見だ。
できれば背後に回りたいところだけど。
ドラゴンがいるのは湖の端っこ。
手前と横はギリギリ岸に近づけるし、浅ければ水にも入れるけど。
背後はちょっと怖い。
金属鎧だからね。
みずに溺れたら浮かびあがれる気がしない。
…………ん?
待てよ。
そんなこと気にする必要ある?
俺、今五十四体も身体があるし。
なんならこれ全部壊れても、もう一体が城壁にいる。
何体か溺れて出てこれなくても困らなくない?
溺れちゃった奴は意識を回収してしまえばいいんだし。
鎧を貸してくれたエドには申し訳ないけど。
街を救う必要経費ってことで。
よし!
そうと決まれば怖いものはない。
九体の鎧は遠慮なく湖の中に入ってもらう。
といっても戦力の無駄遣いはしたくない。
なので、ドラゴンからかなり離れた位置に陣取ってもらう。
そして、湖の深さを確認しつつ、慎重に歩を進める。
這い上がってこれるギリギリ。
でも身を隠せるギリギリ。
そのギリギリの水位の場所を探って隠れるのだ。
ってうお!
すごい波だな!
ドラゴンが身動ぎをしたのだ。
それだけで、海みたいな大波が湖をゆっらゆら揺らす。
でも俺鎧だからね。
すっごい重い。
なのでこれくらいの揺れじゃなんともないのだ。
はっはっは!
……あ?
ドラゴンが首をもたげた。
視線を自分の足元に向ける。
そこには、正面からドラゴンに向かう五体の俺たちがいる。
――グオオオ……。
ドラゴンが小さくうめいた。
なんていうか「また人間かよ面倒くせえなぁ」みたいに聞こえた。
気のせいかもしれないけどね。
次の瞬間だ。
――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオアアアアアアアア!
ドラゴンは大口を開け、これまでで一番でかい声をあげた。
ビシッ!
へ?
…………うわーーーー!
全部の鎧に一斉にヒビが入ったんだけど!
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