オークの襲撃を受けている水の都ヴェティアン。
市民のみんなは避難所として提供されている大商人の屋敷に逃げ込んでいる。
俺たちも同じだ。
で、あとは雇った傭兵がオークを倒してくれてめでたしめでたし……のはずだった。
「傭兵が全員逃げちまったぞ!」
屋敷に飛び込んできた人がそんなことを言ったもんだから屋敷は大騒ぎだ。
「おいおい、どうするんだ……?」
「オーク倒せるやつなんてこの街にいないだろ……」
「だから自警団を組織しといたほうがいいって言ったんだ!」
「お前だって商売に支障が出るのは困るって言ってただろ!」
しまいには過去のやりとりが原因の喧嘩に発展しそうになる。
ちなみに女性の皆さんはオークの力にあてられて目がハートマーク状態。
なんかえらいことになってるな……。
「皆さん、落ち着いてください」
そこへ落ち着いた重々しい声が響いた。
見れば、上の階に通じる階段を、執事っぽい人を連れた男性が降りてきた。
「アントンさん」
「アントン様」
「旦那!」
いろいろな呼び方で彼を呼ぶ市民たち。
あの人がアントンか。
この屋敷の主人で、ヴェティアン一の商人だって話だ。
アントンさんは皆の興奮を鎮めるようにゆっくりと話す。
「傭兵が逃げてしまったことは私も報告を受けました。どうも、彼らが想像していたよりもオークの数が多かったので、契約と違うとごねたようですね」
「なんて奴らだ!」
「無責任な!」
市民から上がる声をアントンさんは『まあまあ』というように鎮める。
「いなくなってしまった者たちのことを責めても仕方ありません。それより、これからどうするか、ですが……」
アントンさんは市民を見回し、
「今、街に滞在している冒険者や傭兵の方たちに交渉し、オークを退治してくれるよう頼んでいます。そのための費用は我々が出します。あの傭兵たちを選んだ責任は取らなければなりませんからね」
「おお、さすがアントン様!」
「いいぞいいぞ!」
今度はアントン上げコールをする市民たち。
「そういうわけですので、皆さんは安心してこの屋敷でお過ごしください」
よかったよかった助かった……という空気が広がる広間。
俺たちもなんとなくホッとしていると、アントンさんの横にいた執事がすすす……と俺たちのところにやってきた。
「旦那様がお話ししたいことがあるとのことで、お越し願えますでしょうか」
話?
なんだろうね?
って考えるまでもないな。
俺たち一応冒険者だもんな。
◆◇◆◇◆
「お呼び立てして申し訳ありません」
というわけでアントンさんの私室に通された俺たち。
なんか最近は豪華な屋敷を目にする機会が多いな。
ちょっと前まで洞窟だの海底だのダンジョンをさまよってたのに。
〈オーク退治の依頼か?〉
俺が問いかけると、アントンさんは首を振った。
「いえ、皆さんには移送任務をお願いしたいと思いまして」
「移送……なにか大事な荷物があるんですか?」
「ええ。この屋敷にある品を、フィオンティアーナまで運んでいただきたいのです」
アントンさんの話によると、それはヴォルフォニア帝国に注文されていた品らしい。
明日にでもフィオンティアーナに向けて発送する予定だった。
しかしオークの出現でそれが難しくなってしまったというわけだ。
「幸い、この屋敷から船便を出すことができますので、皆さんにはそれに乗って近くの港町へ行き、そこからフィオンティアーナへ馬車で品を運んでいただきたいのです。もちろん案内はおつけしますので」
〈俺たちは構わないが……大丈夫なのか? オーク退治の人手は〉
「そのための数はもう揃いました。運んで欲しい品は納品を遅らせるわけにはいかないものでして」
うーん。
まあ、街が大丈夫なら、俺たちもここに留まっている理由はないしな。
俺たちはアントンさんの依頼を引き受けることにした。
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