転生したら鎧になってた俺は、今ネズミの群れから逃げ回っています。
なんだこの情けない状況説明……。
しかし、実際にそうだからしょうがない。
ついでに言うと、ネズミの体当たりで腹には大穴が開いてる。
ちくしょう、俺がなにしたってんだ!
――チュウチュウチュウチュウ!
大ネズミたちは明らかに興奮した様子で、俺を追ってくる。
なかでも、イヌサイズのボスっぽい奴らがヤバい。
なんか、天井とかから、身体を回転させてドリルみたいに突っ込んでくる。
あいつらの普通の体当たりで腹に穴が開いたんだ。
ドリルアタックなんかされたらえらいことになるぞ。
〈もういいかげん見逃せよ!〉
思わずそんな弱音を吐いてしまう。
せめてもの救いは息が切れないことか。
元の世界だったら、とっくに力尽きてる。
どうやら鎧の身体は疲れるということはないらしい。
ガシャンガシャンガシャンガシャン――。
と、ひたすら逃げ回っているうちに、廊下の行き止まりにたどり着いた。
目の前には木の扉。
が、困ったことに俺はそれを開けられない。
なぜなら、手がないからだ。
手というか、手甲ね。
手首から先がスッカスカなので、ドアノブを握れない。
うげ。
これって、ピンチじゃね?
ちらっと振り返ると、ネズミはさらに数を増して迫ってくる。
もう、なんか津波みたいな感じだ。
――ギラリ。
と、大ネズミたちの目が一斉に光った。
ボスネズミが十匹ほど、ドリルアタックの構えだ。
ちょー!
待て待て待て待て!
そんなんされたら死んじゃう!――かどうかはわからないけど。
バラバラに壊れて動けなくなる!
こうなったら……。
どがん!
俺は扉を殴りつけた。
手甲のない腕が木の扉を粉砕する――。
べきばきガシャン!
ぎゃああああ!
俺の腕が粉砕したぁあああ!?
ちょ、ま、そこまでもろいかよ俺の身体!
しかし、幸いなことに扉の方も壊れてくれた。
俺は扉の向こうに飛び込む。
――ん?
足元になにもない。
どうやら、扉のすぐ奥から、下り階段になっているようだった。
うっすらと見えて、それが分かったのもつかの間。
〈うわああああああああああ!〉
俺はバランスを崩し、その階段を転げ落ちていった。
◆◇◆◇◆
ガランガラン!
ガシャンガシャン!
ゴトゴトゴトゴトゴトゴト!
〈…………〉
ひたすら転がり落ちて、ようやく止まっった。
かなり長い時間落ちてた気がする。
大ネズミどもの鳴き声も聞こえなくなった。
さすがにここまでは追いかけてこないみたいだ。
しかしなにも見えないな。
感覚で腕パーツや脚パーツがバラバラになってないっぽいことはわかるけど。
けっこうしっかり組み立ててくれたらしいな。
盗賊さん、ぐっじょぶ!
さてどうしよう。
ほんと、マジで真っ暗だ。
目の前に手をかざしても、まったくわからない。
タイマツもマッチもチャッカマンもあるわけないし。
光魔法とか使えるわけでもない。
……待てよ。
本当に使えないかな?
この世界にはモンスターがいる。
魔法だってあるかもしれない。
それに、俺の身体は、鎧のくせにネズミの体当たりで壊れるくらいのもろさだ。
もしかしてひょっとして、魔法防御特化型の鎧だったりするんじゃね?
ありうるありうる!
よーし……。
〈――ライトニング!〉
しーん。
……い、いや、まあ、この結果は予想どおりだし?
念のためやってみただけだし?
だいたい、もし仮にこの鎧が魔法防御特化型だったとしてもだ。
それ、魔法が使えるってことじゃないよね。
はぁ……。
魔法はあきらめよう。
で、この暗闇はどうすればいいだろうか。
〈待てよ〉
そこで動き始める俺の灰色の脳細胞!
そもそも、俺はなんでものが見えていた?
視覚ってのは、目という感覚器が光を受容するから生まれるものだ。
しかし、この鎧の頭部――兜には目なんてもんは存在しない。
けど俺は、目があるあたりで、ものを見ているのだ。
これ、光を受容して視覚を得ているわけじゃないよな?
なんていうか『見る』っていう概念が鎧の一部に実態化してるみたいな。
うまく言えないけど、なんか、そんなイメージだ。
だとすれば、だ。
俺って、全然光がないところでも、ものが見れたりしないかな?
なんの根拠もない都合のいい推測だけど。
まあ、試してみるだけ試してみよう。
他にできることもないし。
〈…………〉
兜の、なかに人が入っていれば目がありそうなあたりに意識を集中する。
見る……。
見る見る……。
俺にはきっと見える……。
そう念じ続けていると……。
〈…………っ!〉
見えた!
突然明かりをつけたみたいだ。
ただし、ちょっと薄暗い感じはある。
そして、周りが見えるようになったことで、今いる場所も明らかになった。
上も下も横も岩で囲まれた、狭いトンネル。
洞窟だ。
異世界で洞窟とくれば、もう決まりじゃないか?
ここ、ダンジョンだな!
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