「団長。準備できましたぜ」
森の中に建てられた陣幕の中で床几に座っていたガイアンは目を開けた。
ヴォルフォニア帝国騎士団長の地位にまで上り詰めたガイアン。
彼に、こんなふうに気安い口調で話しかけてくる者はもうほとんどいない。
その数少ない人物の一人である冒険者部隊の隊長が、彼の前に立っていた。
「まったくケッタイな任務じゃないですか。ゴーレムの発掘作業なんて」
「だからこそ、お前らを呼んだんだ」
立ち上がりながらガイアンは告げた。
それはチェインハルト商会の会長であるエドの依頼だった。
絶海の孤島ダンジョンに埋もれているゴーレムの発掘。
それはたしかに、そこらへんの冒険者には難しい。
かといって、兵士をいくらかき集めてもダメだろう。
ガイアンがほぼ個人的に抱えているこの『冒険者部隊』でなければ無理だ。
エドはそれをわかっていてガイアンに依頼を持ちかけたのだろう。
ガイアンは帝国騎士団に入る前は冒険者だった。
帝国領にある『廃棄都市ダンジョン』を中心に活動していた。
あるときダンジョンでモンスターに襲われていた帝国兵を助けたことがあった。
それが縁で、帝国騎士団に入団し、気づけばこんな地位にいた。
そんな彼が、冒険者時代の仲間に呼びかけて作ったのが『冒険者部隊』だった。
少数精鋭の二十人。
全員がレベル50超え……いわゆる『第一の壁』を突破した冒険者だ。
人間同士の戦いは兵士の集団に任せておけばいい。
しかし、ダンジョンの探索のような任務は、やはり冒険者の出番なのだ。
ヴォルフォニア帝国は軍備の拡張を続けている。
そして、それにはダンジョンの探索が欠かせない。
ダンジョンには、現在では失われた魔法技術の遺物が眠っている。
それを掘り出し、研究し、活用する必要があるのだ。
そうした帝国の要求に応えるため、ガイアンは仲間を集め、探索を依頼するのだった。
今回はチェインハルト商会からの依頼だが、帝国から活動の許可は出ていた。
軍務大臣のカッセルは、しっかりと商会に見返りを要求しているらしいが。
「しかしゴーレムねえ」
冒険者部隊の隊長が首を傾げている。
いまだに納得がいっていないらしい。
「不満か」
「不満ってわけじゃないですよ。けど、ゴーレムってこれまでも何度も発掘されてきたけど、けっきょく使えたことがなかったでしょう? 今回も同じなんじゃないですかね」
「どうだろうな。商会にはなにか考えがあるのかもしれん」
大陸南方の商業都市フィオンティアーナで、商会がなにかの実験を行っているらしい。
それと、ゴーレムの発掘依頼にはなにか関係があるのかもしれない。
(そちらには密偵を放っておいたが……)
と、ガイアンの思考を中断するように、陣幕の外が騒がしくなる。
ガイアンと隊長は陣幕から出る。
「何事だ」
「マギ・フロッグ・ノームの集団です! すでに取り囲まれました!」
ガイアンが護衛に連れてきた兵士の一人が慌てた様子で言ってくる。
マギ・フロッグ・ノームはカエル型のモンスターだ。
土属性の魔法を使ってくるので普通の人間には対処が難しい。
しかし――。
「ファイア」
「フレイム」
「ファイアボール」
冒険者部隊の数人が、平然と魔法を放つ。
まるで日常の煮炊きでもするかのような落ち着いた態度だ。
陣幕に迫っていた数百という数のカエルたちはあっという間に丸焼きになった。
辺りに香ばしい香りが漂う。
「よし、毒抜きするか」
「一食分浮いたな」
「保存食も作っとこうぜ」
冒険者たちはそんな会話を交わしながら、カエルの死体を処理し始める。
ガイアンの護衛の兵士たちは息を呑んでその様を眺めていた。
これが第一の壁超えの冒険者たちの実力だった。
ガイアンはそんな彼らの作業を、どこか懐かしそうに眺めていた。
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