「お、おのれ亀ども! よくもリビタン殿を!」
怒りの声をあげて立ち止まろうとするクラクラを、ロロコが止める。
「な、なぜ止めるのだロロコ殿! そなたの仲間が殺されたのだぞ!」
と腕に抱えた俺の兜を無念そうに抱くクラクラ。
まあそうなるよな。
俺がリビングアーマーだということは、クラクラには言いそびれていた。
それで、頭が亀の空気砲で吹っ飛べば、死んだと思うだろうな。
「落ち着いて、クラクラ」
とロロコが言う。
「リビタンは死んでない」
「死んでない? バカな! こんな状態で生きていられるわけが――」
〈あ、どうも〉
「ぎゃあああああああ!?」
頭なしの身体で彼女と並走して、手を上げてみせると、彼女は絶叫した。
「ゆ、ゆゆゆゆ幽霊!」
〈いや、違うから〉
「落ち着いてクラクラ。リビタンはリビングアーマー」
「リリリリリビングアーマーだとっ!?」
俺とロロコの説得に、ますます混乱していくクラクラ。
たしかこの世界では、人間みたいに喋れるリビングアーマーはいないんだっけ?
まあ俺だって、あの亀たちが突然しゃべりだしたらビビるもんなぁ……。
「し、死んでないならよかったが、リビタン殿がモンスターだったとはっ」
クラクラは抱えた兜と、兜のない俺を交互に見ながら戸惑っている。
「いったい私はどうすれば……」
「とりあえず逃げる」
〈異議なし〉
ロロコと俺は口々に告げる。
なにしろキャノントータスは相変わらず空気砲をバカスカ撃ってきてるからな。
クラクラも、その様子を見て頷いた。
俺たち三人は全力疾走で森の中に飛び込んだ。
◆◇◆◇◆
「このへんまでくればもう大丈夫だろう」
クラクラが砂浜のほうを振り返りつつ言った。
確かにもう空気砲の攻撃はないし、亀たちも追ってはこなかった。
〈助かった……〉
「亀の肉、手に入れられなかった。残念」
ロロコは相変わらずだな……。
〈ところでクラクラ。俺の兜を返してもらっていいか〉
兜はずっと彼女が抱えたままだった。
けっこうぎゅっと抱えてるので、胸の感触がずっと頭にある感じ。
「あ、わ、す、すまぬっ!」
クラクラは兜を返してくれる。
胸の件は気づいてないっぽいな。
言わないでおこう。
「…………(じっ)」
〈ど、どうしたロロコ〉
「……べつに」
……不満そうだ。
自分の胸が小さいのが気になるのか。
俺が顔に出てたのか――ってそんなわけないな。
いや、ロロコならリビングアーマーの俺の顔色もわかるかもしれない……。
「落ち着いたところで、改めて問おう。リビタン殿、そなたは何者なのだ」
クラクラが言ってきた。
よかった、話題がそれる。
クラクラは言葉どおり、かなり落ち着いた様子だ。
これなら話しても大丈夫か。
俺はごく大雑把に自分のことを説明する。
元は人間だったが、いろいろあってリビングアーマーになってしまった――と。
転生やら異世界やらって話はしなかった。
前にロロコに説明しようとしたけど、通じなかったしな。
「なるほど……」
クラクラは俺の話を聞き終わると、そう呟いた。
〈あまり驚かないんだな〉
「いや、驚いてはいる。ただ、事実は事実として受け入れるしかなかろう」
よかった……。
これで『魔物め叩き斬ってやる!』とか言われたらどうしようかと思った。
「ところで、リビタン殿はやはり、人間に戻る方法を探して旅をしているのか?」
〈え……?〉
問われて、俺は返事に窮してしまった。
んーどうなんだろ。
戻りたいかって言われたら人間に戻りたいとは思う。
ただ、積極的にその方法を探すとなると、別に……って気持ちもあるな。
どうせ異世界だし。
この身体で困ってるわけでもないし。
そもそも、そんなことを考える余裕が今までなかったからな。
ずっと洞窟さまよって、魔物に追われ続けてたわけだし。
〈わかんないな……とりあえず、街に着いたら考えようと思う〉
「そうか……我らに手伝えることがあれば何でも言ってくれ」
〈わかった……なんかあったら、遠慮なく頼らせてもらうぜ〉
ん?
ロロコが不意に視線を動かした。
耳もピコピコ動いてるな。
〈どうしたロロコ?〉
「音が聞こえる」
〈亀の次はなんだ? すっぽんか? トカゲか?〉
「ううん。これは――馬車の音」
なぁんだ馬車か……。
…………。
………………馬車!?
ってことは――人が近くにいる!
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