ガイアンの私設部隊ともいえる冒険者部隊。
彼らは倒したマギ・フロッグ・ノームの一部を処理して保存食に仕立てた。
それが済むと、絶海の孤島ダンジョンに向けて本格的に侵攻を始めた。
ガイアン自身は近くの街へ引き返し、そこで報告を待つ形だ。
絶海の孤島ダンジョンは主に三つのエリアからなっている。
大陸本土に広がる入口部分。
孤島本体。
そしてその二ヶ所をつなぐ地下洞窟だ。
地下洞窟の一部は大洞窟ダンジョンとも接続している。
下手をすると迷い続けて出てこられなくなる。
冒険者部隊の面々はこれからその地下洞窟に向かおうとしている。
しかし、危険な場所へ赴くといった気負いを強く抱いている者はいない。
必要な警戒は怠っていない。
しかし、無用な怯えを抱くような者たちはこの場にはいなかった。
ここにいるのは、第一の壁と言われるレベル50超えの冒険者ばかり。
そしてそのほとんどが、絶海の孤島ダンジョンに何度も挑んだことのある者だった。
警戒するべきところと気を休めるところを理解している者ばかり。
森を歩く彼らの様子は、まるでピクニックでもしているかのようだった。
「しかし、ゴーレムの発掘なんかして大丈夫なんですかね」
隊員の一人が、隊長のリザルドの横に来て言ってくる。
「なんだ、怖くなったか?」
茶化すようなリザルドの言葉に、隊員は口を尖らせる。
「そりゃそうでしょ。ゴーレムの残骸があるのは、主に孤島エリアだ。このダンジョンを拠点に活動してる冒険者だって、孤島には滅多に足を踏み入れない」
『ドラゴンの巣』と呼ばれる孤島はダンジョンの最深部といえる。
古くはエンシェント・ドラゴンが住んでいたとされる。
そのドラゴンは現在は不在だが、その影響は色濃く島に残されている。
ドラゴンは強い魔力を帯びた生物である。
その魔力は死んだときにもっとも周囲に多く発散される。
が、生きているときでも、存在しているだけでその影響は周囲に及ぶ。
端的に言えば、ドラゴンがいる土地のモンスターは『強くなる』。
ドラゴンが発する魔力を吸収し、世代を重ね、独自の進化を遂げるのだ。
絶海の孤島ダンジョンの中でも、孤島エリアはその特徴が顕著だ。
よって、このダンジョンに挑む冒険者も、ほとんどは孤島部分を避ける。
「孤島に入らずに、適当にゴーレムの残骸を見繕うってのはダメなんですかね」
隊員がぼやくように言う。
リザルド隊長は苦笑して、
「それでガイアンさんが納得してくれると思うか?」
「ですよねぇ……」
隊員は盛大なため息をつく。
「嫌なら来なけりゃよかったじゃねえか」
ガイアンは、リザルドたち冒険者部隊に無茶な注文をしょっちゅうしてくる。
しかし、無理強いしてくることはなかった。
リザルドが無理だと言えば引き下がる。
参加しないという隊員がいても止めることはない。
それでも危険な任務に参加する隊員がいるのは、冒険者としての矜恃があるからだ。
文句を言っていた隊員はニヤリと笑みを浮かべると、
「ま、公費で絶海の孤島ダンジョンに行ける機会なんてなかなかないですからね」
冒険者は大抵自分で装備を整え、冒険に挑む。
だから、お金がないうちは簡単なダンジョンで細かく稼ぐ。
レベルが上がっていい装備が買えるようになると、高難度ダンジョンに挑む。
しかし、高レベルの冒険者でも、絶海の孤島ダンジョンの孤島エリアは難しかった。
高い薬草をいくつも揃える。
優秀な回復魔法使いを高額で雇う。
そんなふうに準備万端で挑んでも、帰還できない危険性がある。
そして見返りは少ない。
孤島エリアには大量のゴーレムの残骸があると言われている。
しかし、冒険者ギルドはこれまでそれを買い取ってくれなかった。
ほかの行商人も同様だ。
ゴーレムの残骸や、その素材であるオリハルコンは貴重な品だ。
しかし、その加工法や活用のための技術はすでに失われている。
なので、持ち帰っても、骨董品としての価値しか保たないのだ。
であれば、危険な孤島エリア以外に、行くべきダンジョンはたくさんある。
しかし、公費で装備を整えられるとなれば話は別だ。
このたびはヴォルフォニア帝国の依頼なのだ。
正確にはチェインハルト商会のエドから騎士団長のガイアンを経由しての依頼だが。
なんにせよ、冒険の準備のための金は帝国と商会から出た。
しかも、今回はゴーレムの残骸が金になる。
そうなると、もともと好奇心旺盛な冒険者部隊の隊員たちは乗り気になるのだった。
リザルドに文句を言っていた隊員も、口でそう言っているだけだ。
実際には、未踏の地と、一攫千金の仕事にワクワクしている。
「欲出しすぎて死ぬんじゃねえぞ」
リザルド隊長は、それをわかっているのでそんなふうに言う。
もちろん、そんなこと言われるまでもなく、この場にいる全員が理解している。
しかし、言いすぎて悪いと言うことはないのだ。
欲を出して死んだ冒険者は、実力に見合った場所で運悪く死んだ者よりずっと多い。
「……そろそろ領域に入るな」
それを体現するように、隊長の声の調子が変わる。
領域、は一部の冒険者が使う隠語だ。
ダンジョンの中でも、自分の実力に照らして注意すべきエリアのこと。
そこに突入するより前に、意識を引き締め、警戒しなければならない。
「おい! 陣形変更! 警戒態勢に入れ!」
隊長の言葉に、隊員たちが慌ただしく行動を開始する。
迷いのない動きで、隊員たちはあっという間にポジションを変更した。
隊長の前に進み出た斥候役が、さっそく声を上げる。
「隊長、前方にモンスターがいます!」
「ん? この辺りだとまたマギ・フロッグ・ノームか?」
「いえ、あれは……は?」
と、斥候役はひどく間抜けな声を上げた。
自分が見た光景が幻覚でなければあり得ないとでもいうように。
「どうした? なにが見える?」
隊長に急かされるように問われ、斥候役は仕方なく見たままを告げた。
「エンシェント・ドラゴンがいます……」
「……は?」
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