崩壊寸前の天空塔ダンジョンの屋上に閉じ込められた状態の俺たち。
魔力の流れが乱れているとかで、俺は分離して浮遊することができない。
ドグラとマグラもドラゴン態になれない。
このままだと、全員塔の崩壊に巻き込まれてしまう。
雲より高いこの場所から落ちては、さすがに助からないだろう。
……つまり、選択肢はひとつしかないってことだ。
〈ヘルメスさん〉
俺は呼びかける。
〈俺が救世主とやらになったら、この塔の崩壊を防げるんじゃないのか?〉
この塔の目的は、魔王を復活させないこと。
救世主の目的は、世界を、魔王が復活できないものに作り替えること。
ならば、俺が救世主になればこの塔を維持する力を得られる――そうじゃないか?
「はい。その通りです」
〈だったら、なってやるよ。救世主〉
「よろしいのですか? 救世主になるということは――」
〈詳しい話はいい。ここにいるみんなが救えるなら、なんだっていい〉
「リビたん!」
ロロコが久しぶりに怒った声を上げた。
「リビたんはまた、そうやって勝手に……今までだって……」
〈でも、今までだって、ちゃんと戻ってきただろ?〉
「…………でも!」
〈ヘルメスさん〉
「わかりました」
ヘルメスさんが頷いたその瞬間。
俺の足元の床が突然崩れた。
うわああああああ!?
宙に浮けない状態の俺は真っ逆さま。
しかしすぐに、周囲から伸びてきた何かによって支えられた。
これは……。
だだっ広い空間で、チューブのようなものによって宙吊りにされていた。
まるで巨大ロボットに補給装置が接続するみたいに、チューブがくっついてくる。
「あなたのアーマーに掘り込まれている術式と、塔の術式を結びつけます。これによって、あなたの魔力、スキル、意識が塔と一体化します」
なるほどな。
霊体操作や霊体分割やらのスキルを手に入れて。
モンスターを吸収して地水火風の魔法を使えるようになって。
自分の「外側」を自分として操ることのできるリビングアーマー。
それはこの塔と、さらには大陸中の魔力を操るのにふさわしいってわけだ。
「本当によろしいですか?」
ヘルメスさんが確認してくる。
「塔の術式と接続することで、あなたの身体感覚は一気に拡張されます。意識が一気に拡散し、一つの人格として再統合できない可能性が……」
〈大丈夫だから、やってくれ〉
俺は答える。
べつに救世主になりたいわけじゃない。
まだよく知らないこの世界を、どうしても救いたいってわけじゃないんだ。
でも。
ロロコやクラクラやアルメルやラファやドグラ。
みんなに生きていてほしい。
彼女たちを救うためなら、救世主にくらいなってやる。
「……わかりました。それでは、術式を接続するために、未解放スキルを解放します」
〈……!〉
冒険書のステータスを見たわけじゃないけど、理解できた。
隠されていたスキルが明らかになる。
『霊体*#&%変換』
→
『霊体世界魔力変換』
「解放完了。術式を接続します」
ヘルメスさんのその言葉を最後に、俺の意識は――。
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