今度は右腕だけになっちまった。
こうなるってわかってたら、狼の腹からもっと鎧を持ってくりゃよかったな。
まあいいか。
狼も無事倒せたし。
「リビたん」
〈おう。やったなロロコ〉
ふよふよと宙に浮かぶ俺に、まともに話しかけてくれるのはロロコくらいだ。
人犬族たちは遠巻きに眺めてるだけ。
ラッカムも怪訝そうな顔で俺を見てる。
まあ、いいけどね。
俺なら、こんな奴始めて見たら声あげて逃げるわ。
そうされないだけ、まだマシだ。
岩山の上にいた領主の部下たちは、森の方へ立ち去りつつある。
狼の尻尾にぶっとばされた領主を探しにいったんだろう。
一方、ラッカムの部下っぽい人たちはこっちに降りてくる。
「ラッカムさん!」
「おう」
「いったいなにが起こったんです?」
「さあな。けど、あの盗賊どもの言ってたことは、本当だったらしいな」
部下の一人とラッカムが、俺のほうを見て言ってくる。
なになに?
俺、ひょっとして有名人?
っていうか、盗賊って言ってたね今。
それ、あの館で遭遇した人たちのことかな。
最初に俺を組み立ててくれた人たちな。
あの人たちからラッカムたちに、俺の話が伝わってたってことなのか。
しかし、みんな全然近寄ってこないな。
超警戒されてる。
「みんな、いいかげんにして」
ロロコ?
「リビたんはいい人。私を助けてくれた。今も狼を倒した。見てたでしょ?」
人、かなぁ……?
そう言ってもらえるのはありがたいけど。
でも、俺、怖がるみんなの気持ちも普通にわかるよ?
今俺、宙に浮かぶ鎧の腕パーツだからね。
けど。
「そうだな。事実は事実だ。それを認めなきゃ、あの領主と同じだろうよ」
ラッカムが近寄ってきた。
「あんたは――リビタンって名前なのか?」
〈いや……えっと、まあ、それでいいや〉
前世の名前も場違いな感じだしなぁ……。
「じゃあリビタン。助かった。あのバカ領主があそこまでバカとは思わなかった」
〈あの狼のことか?〉
「ああ……チェインハルトの若造も、あんなことになるとは考えてなかっただろうしな」
〈?〉
チェインハルト?
どっかで聞いた名前だな?
「いや、こっちの話だ」
ラッカムは首を振って苦笑する。
「ともかく、世話になった。これでこいつらも少しはまともな暮らしができる」
〈あんたがロロコたちを帝国まで送り届けてくれるってことでいいのか〉
なに帝国だっけ?
ヴォロフォニア?
ヴォランティア?
なんかそんな感じの。
「ああ――それに関しちゃ、ちょっと事情があって変わりそうなんだが」
と、ラッカムが言いかけたときだ。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
じ、地震?
前にあった魔響震とは違う。
これは普通に地面が揺れてるな?
――ビシビシビシビシ!
ぎゃー!
地面にヒビが!
これあれだ。
さっき狼が倒れたせいで、崖際の地面が崩れてってるんだ。
ええい!
死んでからも災害を引き起こすとは!
なんて執念だ!
「みんな、逃げて」
ロロコが声をあげる。
ラッカムと会話してる様子を見て、俺に近づこうとしてた人犬族が一斉に逃げ出す。
ラッカムとその部下も同じだ。
で、俺とロロコはというと。
〈おいおい、マジかよ〉
「運が悪い」
地面のひび割れと、こっちにずり落ちてきた狼に巻き込まれた。
そのまま崖下へ転落コースだ。
〈わあああああああ!〉
「リビたん、浮けないの?」
〈無理むり! これ以上力入れたら、完全にバラバラになっちゃうから!〉
すでにひび割れてだいぶひどいことになってるからね!
ロロコをつかんで、落下速度を抑えるのが精一杯だ。
落ちるーーーーーーー!
「おい、ロロコ! リビタン!」
頭上から、ラッカムの叫び声。
「私たちは、帝国でここから一番近い冒険者ギルドに向かう」
ロロコが応えるようにそう言った。
ちゃんと聞こえたかな?
聞こえていれば、合流できるかもしれないけど。
それより、無事下に着地できるかが問題だ。
〈おわわわわわわ!〉
上からいろいろ降ってくる。
岩やら
木やら
巨大狼やら。
それらを避けながら、なんとか俺たちは崖下へ落ちていく。
◆◇◆◇◆
〈ここは……?〉
真っ暗闇のなか、俺はつぶやく。
暗闇でも、ものを見ることはできる。
俺はリビングアーマーだし。
ロロコは人犬族だ。
「またダンジョンに戻ってきたみたい」
〈出口は?〉
「わからない」
ですよねー。
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