どうも、リビングアーマーの俺です。
水の都ヴェティアンを出て、ふたたび船の上だ。
今回は前みたいな小舟ではない。
立派な帆を張った帆船だ。
俺があっちこっち歩き回っても揺れないくらい立派。
船に乗っているのは、俺以外に六人だ。
人犬族のロロコ。
エルフのクラクラ。
ドワーフ嬢のアルメル。
ドラゴン娘のドグラ。
クノイチのヒナワ。
アントンさんの部下の、案内役の男の人。
それとは別に船を操る船員が二十人ほどいる。
案内役の男の人が説明してくれる。
「あと一時間ほどでポローナニアに到着します。そちらに馬車が用意してありますので、それでフィオンティアーナに向かっていただければと」
俺たちの目的は、アントンさんから預かった荷物をフィオンティアーナに届けること。
フィオンティアーナからは、別の人が取引先の帝国まで運ぶらしい。
俺たちの目的はヒナワをエドのところに連れていくことだ。
なので都合がいいと言えば都合がいいんだけど。
「ひょっとして拙者は、このままだとチェインハルト商会のところに連れていかれることになるのでは?」
ヒナワが今更のように言ってくる。
うん、まあそうだよね。
そもそも俺たちは彼女を捕まえるためにヴェティアンまで赴いたのだ。
彼女を連れていかないと、エドが魔鉱石を貸してくれない。
それがないと、ラファの魔力過活性症を治せないのだ。
俺はそんな事情をかいつまんでヒナワに語る。
「なるほど……そんな事情があったのか」
ヒナワは難しい顔で頷く。
〈ヒナワはどうしてチェインハルト商会に忍び込んだりしてたの?〉
たしか、ヴォルフォニア帝国に雇われた密偵だったよね。
「詳しいことは話せぬが……帝国はチェインハルト商会を排除したいと考えているのだ」
ヴォルフォニア帝国は大陸で勢力を広げ覇権を得たい。
そのためには、莫大な利益を上げているチェインハルト商会が邪魔だ。
しかし、冒険者ギルドと強く結びついている商会を邪険にすることはできない。
そこで商会の弱点を見つけるべく、ヒナワや、他にも何人かの密偵が放たれたのだ。
「その過程で魔王とやらを見つけてしまったってわけですか」
アルメルの言葉にヒナワは頷く。
「フィオンティアーナ郊外のあの施設が弱点になるとは考えられていたのだが……まさかあのようなとんでもない代物が出てくるとは思っていなかった」
まあ、魔王だもんなぁ……。
帝国の大陸での覇権ってのも大きな話だけど。
それ以上の大事だ。
これまでエドは俺たちに味方してくれてる感じだったけど。
本当に味方なのか怪しくなってきたな。
いや、前から得体の知れないやつではあったんだけど。
「ヒナワは、どうして帝国に雇われてるの」
ロロコが問う。
「拙者どもの目的は里の存続。そのために、忍は仕える主を選り好みすることはせぬ」
まさに傭兵って感じだな。
〈その……ヤマトの里だったっけ。そこはどういう人たちの集まりなんだ?〉
「どういう、と申すと?」
〈その、なんていうか、先祖がどういう人だったかとか〉
「ふむ? ……たしかに忍も侍も他の土地には見られぬ技を受け継いでいる。よって伝承では異界より渡ってきた者がヤマトの里を開いたと言われているが、まあ、本気で信じている者は里にもおらぬよ」
……やっぱり!
ヤマトの里の人たちは俺と同じ世界から来た人が作ったんだ。
転生なのか転移なのかはわからないけど。
「リビたん……」
ロロコ一人が目を丸くして俺を見ている。
彼女だけは俺が異世界から来た話を聞いてるからな。
なんとなく俺のヒナワへの質問の意味を察したんだろう。
行ってみたいな、ヤマトの里。
俺とは生きてた時代は違うっぽいけど。
日本っぽいものがたくさんありそうな気がする。
「ともかく、拙者はガイアン様に雇われている以上、お主たちとチェインハルト商会のところに行くことはできぬ」
うーん。
結局そこに戻ってしまうのか。
困ったな。
どうしよう。
「おーい、港に着くぞー」
と、そのとき船員の一人が声をあげた。
おっと、もう到着か。
話し合いがまだ済んでないんだけどな。
――ドボン!
え?
案内役の男の人が海に落ちた?
違う。
自分から飛び込んだぞ。
「悪いなー!」
なんか叫んでる。
悪い?
え、なにが?
「うわああああ! おい、どういうことだよ!」
船員の叫ぶ声。
いきなりなんだってんだ。
船員たちがみんな陸の方を見てるので、俺たちもそちらを見る。
うわあああああ!?
おい、どういうことだよ!?
岸がオークまみれなんだけど!
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