エドの呼びかけに応え、クーネアさんは彼の元へ歩いていく。
〈クーネアさん、どうしたんですか!〉
「無駄ですよ。今、彼女の意識は僕が制御していますから」
なんだって?
「もともと彼女は僕の忠実な人形です。彼女自身は自らの意思で行動しているように思い込んでいますが、そう思うように調整したまでのこと」
〈じゃあ、まさかあんたを裏切ってこっち側についていたのも……〉
「ええ、監視役と、あなたをここまで導く役目、それにその人犬族のお嬢さんを同行者にする役目のためにね」
つまり、俺に回帰魔法を使わせるために……。
〈そのために、あんたはクーネアさんのことを利用してたのか……?〉
クーネアさんはヴォルフォニア帝国に故郷を奪われたと言っていた。
そしてその復讐のためにエドに協力していた、と。
復讐が正しいかどうかはともかく。
その感情を利用して駒にするなんてどうかしてるんじゃないか?
「勘違いしないでほしいですね。それも彼女が望んだことですよ。そもそも、あなたたちに話した彼女の過去も、僕が植え付けた偽の記憶なんですから」
〈あ……?〉
は?
どういうことだ?
「彼女は初めから、この世界を崩壊させ元の世界に魔王として君臨するという僕の計画に賛同していたんですよ。そして、その遂行のために、自身の魔力とともに本当の記憶を封印し、僕の人形となることを受け入れたのです」
ヴォルフォニア帝国に故郷を奪われた、というのは偽の記憶。
エドを裏切ったという彼女の選択も、人形として操られて行ったこと。
じゃあ、クーネアさんの真意は?
彼女の本当の記憶は?
彼女の正体はなんなんだ?
「すぐにわかりますよ」
そう告げると、エドはクーネアさんをどんと突き飛ばした。
クーネアさんはまさに人形のように力なく、魔王の肉塊にぶつかる。
〈なにを……!?〉
「まあ、見ていてください」
そのままクーネアさんは肉塊に飲み込まれていった。
いや、違う……。
逆だ。
クーネアさんの身体が、肉塊を吸収していく。
まるでオプションパーツでも取り付けるみたいに。
彼女の背中に肉塊が接続し、形を変えていく。
元の無秩序な肉塊に比べて統制の取れた形。
しかし、それゆえにその恐ろしさをはっきりと示す形態に。
それに伴ってクーネアさん自身の外見も変化していく。
肌が白から闇色へ。
髪が血のような赤へ。
両眼が蠱惑的な黄金色へ。
これは……。
〈魔族……〉
いや、違う。
これは、まさか。
「そうです」
エドはゆっくりと彼女に向き直り、片膝をついて首を垂れた。
「この方こそが真の魔王陛下なのですよ」
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