――シャアアアアアア!
〈ぬお!〉
ガシャンガシャンガシャン!
大カマキリの鎌攻撃をかわし、逆に上半身と下半身でプレス攻撃を加える。
ダンゴムシ装甲で大カマキリの腕や身体をへし折ってやる。
五匹の大カマキリと、リビングアーマーである俺の戦いは佳境を迎えていた。
大カマキリの攻撃を俺は変則的な動きでかわす。
カマキリのほうも宙を飛んだりして三次元的な攻撃を加えてくる。
しかし、ボスらしき一匹の鎌を最初に折ってやったのがきいてるっぽい。
どことなく、警戒しながらのアタックになってる。
おかげで、五匹同時攻撃といえど、かわせないほどではなかった。
――ギシャアアアアアアア!
〈ほっ! はっ! そいやっ!〉
ガシャアアアン!
中国のドラみたいな音を鳴らして、胴体を叩き潰す。
これで大カマキリは三匹が戦闘不能。死んでるかもしれない。
一匹は生きてるが、脚を折ってやったので、地面にへたりこんでいる。
残るは一匹――ひときわ大きいボスカマキリだ。
〈…………〉
俺はカマキリの赤い目とにらみ合う。
ボスカマキリはボスだけあって、肝が座ってるっぽい。
鎌を片方折られながらも、戦意はまるで喪失していない。
それでいて、冷静さもまだ保っている。
身構え、こちらへ突っ込んでくるタイミングをはかっている。
一瞬でも気を抜けば、やられるだろう。
〈…………〉
っ!
動いた!
迷いのない一直線の動き。
鎌は左下から斜めに振り上げてくる。
チッ!
たしかにそれは、俺が避けにくい軌道だ。
もしかしたら、他の四匹との戦いを見て、それを学んだのかもしれない。
やるじゃないか。
だが――!
俺は身体全体を倒して、鎌の攻撃をかわす。
地面に完全に寝転がるような体勢になるので、次の動作は遅れる。
カマキリは、それを狙っていたかのように、俺に覆い被さってくる。
鎌をすぐにひるがえして、俺の身体に突きたてようと振り下ろしてくる!
ニヤ、とカマキリの目が笑うように歪んだ気がした。
〈ぬおおおおおおおおお!〉
けど、俺は狙っていたのだ。
ここまで接近するチャンスを!
俺は、左の肘パーツに引っ掛けていたダンゴムシールドを外す。
それを、フリスビーみたいに回転させながら、目の前のカマキリの腹に投げつける!
――ギジャアアアアアアアアアア!?
カマキリが悲鳴をあげた。
俺は即座に這いずって後退する。
ダンゴムシールドは、カマキリの胴にざっくりと突き刺さっていた。
ぼたぼたぼた!
と、緑色の液体が地面に落ちる。
これで決まっただろ――
――ギュウオオオオオオオアアアア!
マジかよっ!
ボスカマキリは最後の力を振り絞って鎌を振り回してくる。
もう自分が死ぬことはわかってるだろう。
それでも、テリトリーへの侵入者を排除しようという精神力。
本能のなせるわざだろうか。
ちょっと、すげえと思った。
けど、だからってやられてやるわけにはいかない。
〈おりゃあああああ!〉
俺は上半身と下半身を分割。
下半身が、鎌をよけながらスライディング。
そして下半身に取り付けたダンゴムシ装甲で体当たりをする。
ボスカマキリの胴に刺さったダンゴムシールドがさらに押し込まれる。
――ギジャアアアアアアアアアア…………。
ボスカマキリの悲鳴は途中で途絶えた。
その胴体は、完全に真っ二つになって、地面に転がっていた。
勝った……。
俺も胴体真っ二つだが、俺は元に戻る。
モンスターといえど、普通の生き物はそうはいかないようだ。
いや、本当に普通かどうかは知らんけどね。
ボスカマキリはそのまま動かなくなった。
俺は身体を元に戻すと、ダンゴムシールドを拾う。
そして脚を折って動けなくなっていた最後の一匹も倒した。
恨みはないけど、仲間を呼ばれたりしたら困るしね。
〈はぁ、はぁ……〉
俺は浅めの呼吸を繰り返す。
べつに息は上がってないんだけど。
……やった。
ついに、自分の手でモンスターを倒した。
これまではぶっちゃけ、偶然近くで死んでただけだったからね。
目の前に横たわるカマキリたちの死体。
達成感と。
高揚感と。
ほんのわずかな恐怖心。
それらが混ざり合って、経験したことのない精神状態を生んでいた。
『モンスターの情報が追加されました』
『レベルが上がりました』
『変化したステータスを表記しました』
お。
冒険書の声が聞こえた。
俺は息を吐く。
いつまでも放心してるわけにもいかん。
カマキリたちの仲間がやってくるかもしれないしな。
それに、カマキリたちの血?で汚れた身体を綺麗にしたかった。
ちょっと離れた湖岸で鎧を洗ってから、ステータスを確認することにしよう。
◆◇◆◇◆
『リビングアーマー LV.11 名前:なし
HP:546/673(398/443)
MP:265/356(260/325)
物理攻撃力:98(65)
物理防御力:112(75)
魔法攻撃力:3(3)
魔法抵抗力:2(1)
スキル:霊体感覚、霊体操作
称号:駆け出し冒険者、魔物討伐者
称号特典:恐怖耐性LV.1』
読み終わったら、ポイントを付けましょう!