カメのバカ!
もう知らない!
というわけにはいかないよなぁ……。
どうも、ドラゴンと絶賛バトル中の俺です。
いや、バトルなんてもんじゃないな。
五十四体のリビングアーマー軍団になってドラゴンを翻弄。
その隙に封印のための魔法陣が描かれた板を口に放り込む。
……という騙し討ちのような作戦だった。
しかしその作戦も失敗に終わってしまった。
パニックに陥ったキャノントータス。
その一体が放った空気砲が、偶然にも、その板を持った俺に当たってしまった。
板はバラバラ。
魔法陣はなくなった。
ドラゴンを封印する手段は消えてしまった。
詰んだでしょ、これ……。
「どうなったのですか?」
城壁の上で様子を見ているチェインハルト商会の会長エドが聞いてくる。
一体だけ城壁に残っている俺が答える。
〈……すまん。失敗した〉
俺は簡単に経緯を説明する。
完全に想定外の事態だ。
とはいえ失敗は失敗。
俺の失敗のせいでこの街が滅びてしまう……。
「ぎゃーーーー! じゃあなんですか! 私たちこのまま死ぬんですか!? そんなのやだーーー!!!!」
と絶叫するのはドワーフ嬢のアルメルだ。
まるで駄々っ子だ。
受付嬢やってたときは大人っぽい雰囲気だったのにな……。
いや、誰だって死ぬとなったらこうなるのかもしれない。
「仕方ありませんね。これも運命かもしれません」
「オレは市民を誘導して北に逃す。ドラゴンが街を破壊している間に少しでも逃げ延びられるかもしれないからな」
妙に諦めのいいエドや、やけに冷静なラッカムさんの方が例外的だろう。
あれ、そういやロロコは?
〈っておい、ちょっと待て〉
「なに」
〈どこにいくつもりだ〉
俺は城壁の外に行こうとしていたロロコを慌てて止める。
俺の問いにロロコは当たり前のように答える。
「リビタンとクラクラを助けにいく」
〈いやいやいやいや、待て待て待て待て〉
そんな落ち着いて言うようなことじゃないぞ。
相手ドラゴンだからね?
それに俺はここに一体残してある(両腕だけクラクラと一緒だけど)。
ドラゴンと対峙している五十四体が全滅しても、死ぬことはない。
俺はそう説得するが、ロロコは納得しない。
「でも、じゃあクラクラは?」
う……。
いや、そうなんだけどさ。
でも、だからってロロコをドラゴンと戦わせるわけにいかないじゃん。
くそ、どうすりゃいい?
◆◇◆◇◆
と言うわけで、こっちはドラゴンの目の前。
――グオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオアアアアアアアア!
ドラゴンの怒りの咆哮で五十四体の鎧軍団はついに全滅してしまった。
残るはクラクラの両腕にはまっている腕パーツだけである。
この腕パーツは術式が施されたドワーフ製鎧ではないので、ひび割れは起こしてない。
ただ、ドラゴンの咆哮による魔響震で気持ちが悪い。
意識の喪失は城壁の方にいる俺のバックアップでなんとか避けられているけど。
――グオオオオオオオッ……!
怒りの声を上げ、こちらを睨んでくるドラゴン。
なんか顔もさっきより怒ってるように見える。
いや、あのですね。
さっきの一撃、俺じゃないですからね。
ほら、そこにいるでしょ、亀。
あいつのしわざ。
「我を起こしたのは、誰だ……」
ヒーごめんなさいごめんなさい!
そうだよね。
誰だって無理やり起こされたら機嫌悪くなるよね。
わかります超わかります。
…………ってえ?
今喋ったの誰?
ドラゴン?
「我は……どれほど寝ていたのか……」
間違いない。
この声はドラゴンの口から発している。
え、ドラゴンで喋るの!?
クラクラが言ってくる。
「ドラゴンは霊獣だ。言葉が通じても不思議ではない」
そういやエドもそんなこと言ってたっけな。
霊獣は、魔物の中でも魔力が特に多い個体の総称だ。
その魔力量ゆえに知能が発達し、他種族とコミュニケーションが可能となる。
〈え、それじゃ説得すれば暴れないでくれるんじゃ?〉
俺は期待を込めて言う。
が、クラクラは首を振った。
「無理だ」
〈なんで?〉
「言葉が通じるだけで、霊獣の価値観は人間とまるで違う。ましてやこのドラゴンは七つの都市を滅ぼした伝説の竜だぞ。説得に応じるとは思えん」
そんなぁ……。
「…………」
ひっ!
気づくと、ドラゴンがこっちをじっと見ていた。
な、なんですか?
まずは目の前のやつを血祭りにあげようとか思ってるんですか?
〈お、おい、クラクラ。逃げよう〉
「情けないことをさせるな。どちらにしろドラゴンからは逃れられん。ならば戦って散るのが戦士というもの!」
そう言って剣を構えるクラクラ。
ちょ、そんな覚悟完了させないで!
「いざ!」
いざじゃないっての!
クラクラを止めようとする俺。
「ええい、止めないでくれリビタン殿!」
〈いいや止める! 少しでも生き延びる道があるなら、そっちに賭けるべきだ!〉
と、俺とクラクラがわちゃわちゃやっているところに。
「――ライレンシア?」
ドラゴンがそんなことを口にした。
なに、突然?
そりゃこの湖の名前だよね。
「変わらず美しいな、ライレンシア」
なんだこのドラゴン。
景色を楽しむ趣味でもあるの?
しかしドラゴンの視線は湖ではなく、クラクラに向いていた。
「……ひょっとして私のことを言ってるのか?」
〈そうみたいだね〉
俺たちがそれに気付いたときにはもう遅かった。
ドラゴンの前脚(手?)が伸びてきて、クラクラを掴んだ。
「なっ、離せっ、この!」
クラクラは抵抗するが、もちろん敵うわけがない。
相手はドラゴンだ。
――グオオオオオオオオォォォオオオオン。
咆哮一つ。
ドラゴンは巨大な羽を羽ばたかせて宙に浮く。
そしてあっという間に湖から去ってしまった。
クラクラと俺の腕パーツを引っさらって。
………………誘拐だー!
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