帝国軍に囲まれたエルフの国フリエルノーラ国。
そちらでも、地震による動揺は広がっていた。
「兄貴、これってヤバいんじゃないですかね……」
盗賊――否、元盗賊のガーロはリーダーのラザンに呼びかける。
「ああ……」
元盗賊のリーダーであるラザンも頷いた。
もっとも、ずいぶん前からとっくにヤバい状態になっている。
森を彷徨って、エルフに助けられて。
昔の因縁の相手と遭遇したかと思ったらそいつはドラゴンに吹っ飛ばされて。
気づいたらチェインハルト商会に雇われてこの国の顧問みたいな役に収まってた。
で、魔鉱石の採掘やら周辺領地との取引の準備を進めていた。
と思ったら、なぜかヴォルフォニア帝国軍が攻め寄せてきたのだ。
そもそもこの国は人口が少ないし、軍備もない。
いくらエルフが魔法を使えると言っても、人間の大部隊には勝てない。
降伏か、逃走か、とエルフたちが考えを決めかねているところに今の地震だ。
「帝国軍の魔法使いでしょうか」
「あるいは新兵器かもしれない」
とエルフたちに動揺が走る。
どちらでも構わないが、このままではラザンたちも巻き添えを食ってしまう。
逃げ出すなら今のうちだ。
だが……。
「……くそっ」
ラザンはどうしてもそんな気にはなれなかった。
自分たちの故郷と同じように、虐げられてきたこの国のエルフたち。
どうにも見捨てられない。
(そんなことをしたってあいつらが帰ってくるわけじゃない)
脳裏に浮かぶ妻と娘の姿。
そんなことはわかっている。
だが――。
「おい、王様!」
「ラザン殿、どうされた?」
「採掘用の坑道から、少しずつ国民を逃すんだ。その間、俺たちが時間を稼ぐ」
いいよな? というように部下を見る。
全員が迷いなく頷いた。
「しかし、それではあなた方が……」
「あんたたちよりは生き残るのが得意なつもりだぜ。まあ、兵士を一部隊ほど、貸してはもらいたいけどな」
「……申し訳ありません」
国王は家臣に指示を出す。
「おいガーロ。逃走の方を手伝ってやれ。逃げるところを帝国軍に見つかったら意味がないからな」
「わかったぜ」
エルフたちは国を捨てることになる。
だが、帝国軍に蹂躙されるよりはマシだろう。
「奴らがなんで今更、こんな小さな国を攻めるのかはわからねえが……」
どうせロクでもない理由に違いない。
そんなものを成功させてやることはない。
「さてと、どうやって一泡吹かせてやろうかね」
そんなことを考えているところに、偵察に出ていた部下が駆け込んできた。
「たたたた、大変だぜ、兄貴!」
「なんだ、帝国軍がもう攻め込んできたか?」
「ち、違うんだ! ダンジョンの方から、大量のゴーレムが飛び出してきた!」
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