「ぎゃあああああ!」
「うぎゃあああああ!」
〈ぎょおおおおおおお!〉
「…………」
男三人の悲鳴が響く。
ってまあ、男のうちの一人はリビングアーマーつまり俺なんだけど。
犬耳っ娘のロロコはひとり黙々と走る。
追ってくるのは巨大コウモリだ。
洞窟をふさぐほど大きな羽。
それが二匹。
道を塞ぐように飛んでくるので、みんなで同じ方向に逃げるしかない。
バッサバッサ!
すごい羽音だ。
風邪が背中にぶち当たる。
〈な、なあ、ロロコ!〉
「なに」
〈さっきみたいに魔法で丸焼きにできないのか!?〉
「むり」
〈なんでっ!?〉
「プテラマウスは羽の魔法抵抗力が高い。防がれる」
くそ!
っていうか、あいつらプテラマウスっていうのか。
じゃあネズミの仲間なの?
男たちがロロコに向かって声をあげる。
「なんだてめえ、魔法使えたのか!?」
「けどこいつは倒せねんだろ? 使えねえな!」
勝手なこと言ってやがる。
しかし、ロロコが魔法を使えることを知らなかったのか?
〈ひょっとして内緒にしてた?〉
「うん。でも、いまはそれどころじゃないから、いい」
そうだったのか。
人犬族は、領主から冒険書の使用を禁止されてたんだったな。
魔法の習得もしないよう決められてたのかも。
〈で、どうすれば倒せるんだ、こいつら?〉
「プテラマウスの羽は、物理防御力は低い」
〈一撃叩き込めればいいわけか〉
とはいえ……そりゃむずかしいだろ。
だってこのコウモリさん、羽のまわりに爪をたくさん持ってる。
普通のコウモリもあるでしょ?
あれのもっと長いのが、もっと大量についてる感じ。
攻撃なんかしかけたら、当たる前にこっちが串刺しになりそう。
「あ」
〈ん? どうした、ロロコ〉
「この先、右に曲がって」
ロロコは男たちに呼びかける。
男たちが右側を走っているのだ。
「右って……あの横道か?」
「ばかやろう、こんなところ行き止まりに決まってるだろ!」
「あ」
なんて言ってる間に通りすぎてしまった。
「いまの、ダンジョンの出口だったのに」
〈なにぃ!? じゃあこの先は……?〉
「どうなってるか、わからない」
なんてことだ。
くそ、こいつらっ!
お、なんだ?
男たちは男たちでこっちを睨んでやがる。
「こ、このクソ犬! もっとちゃんと言わねえから!」
「どうすんだよ、おら!」
えー……。
マジかよこいつら。
ロロコの指示を無視したのお前らじゃん!
「くそっ、こうなったら」
〈お、おい、なにやってんだ?〉
男の一人が、剣を抜いた。
コウモリに立ち向かうのかと思ったら……。
俺たちに剣を向けてくる。
〈どういうつもりだよ!〉
「うるせえ化け物! てめえはなんでさっきから当たり前みたいに会話してるんだよ!」
いや、そんなこといまさら言われましても……。
「そ、そうだそうだ!」
と、男のもう一人も剣を抜いた。
「化け物とクソ犬、お前らおとりになれよ!」
〈はぁ!?〉
「そうすりゃ、俺たちは助かるんだ! おら、行けよ!」
いやいやいやいや……。
いやいやいやいやいやいやいや!
なに言ってるんですかこの人たち!?
まあ、百歩譲って俺はいいよ。
こんな見た目だし。
リビングアーマーって基本モンスター扱いらしいし。
けど、ロロコは犬耳犬尻尾つきとはいえ、ほとんど人間だ。
しかも幼い女の子だ。
それを、おとりに?
しかもこの場合、魔法が使えるから、みたいな理由もなし。
自分たちが助かるために死ねと言ってるようなもんじゃないか。
ふざけんなよほんと……。
「おら! 行けって!」
「早くしろよぉ! おい!」
ちょ! そんな興奮して剣振り回すなって!
なんていうか、恐怖で冷静な判断もできなくなってるっぽい。
だからって、俺らをおとりにするのはどうかと思うけどね!
「おらぁ!」
〈あ、バカ!〉
男がこっちに向かって剣をぶん回してきた。
それが俺の鎧に当たって、はじかれる。
がいん!
「わっ!」
「お前! なにやって――!」
はじかれた剣に振り回されて、男たちはバランスを崩した。
あ、転んだ。
「ひ、や、やめろ――!」
「た、助け――!」
バスン、ドスン――。
ちょっと嫌な音が響いた。
男たちは巨大コウモリの鋭利な爪に、身体を串刺しにされてしまった。
うえー……。
これはショッキングだ。
いくらひどいやつらとはいえ……。
……まあ、俺とロロコをあんなふうにしようとしてたやつらなんだけどな。
「あ」
〈なんだ、どうした?〉
ロロコの声に、前のほうに視線を戻す。
お、広い空間に出るぞ。
ひょっとして、こっちの道も出口につながってたりして――。
〈――うわああああああああ!〉
――そんなことはなかった。
広い空間。
その天井中に、巨大コウモリがいた。
ここは――プテラマウスの巣みたいだ。
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