あばばばばばば!
せっかく久しぶりにフル装備になったのに、狼の遠吠えで全部ヒビが入ったよ!?
「ありゃあ、風魔法の〈ハウリング〉か?」
狼の足元のラッカムが呟く。
へー、そういうのがあるのか。
なんて落ち着いてる場合じゃない!
いまの衝撃で、ラッカムもロロコも、人犬族も倒れてる。
まともに立ち上がれないみたいだ。
うん、俺も宙に浮いてるけど、まだなんか酔ってるみたいに周りが揺れてるもん。
「ひゃーはっはっはっは!」
と、岩山の上からカンにさわる笑い声。
「いいぞガルガルくん! やっちまえー!」
バカ領主か……。
ひとりで手叩いて盛り上がってんじゃねーぞ!
まわりの部下がめっちゃ白い目で見てるのに気づいてねえだろ。
くそっ……。
本当によ……。
いや、たしかに俺はさ。
この世界のこと、なにも知らねえよ。
どんな人種がいるのかとか、どんな歴史があるのかとかさ。
ロロコたち人犬族のことだってほとんど知らねえ。
もしかしたら、昔は人犬族が人間を迫害してた時代があったのかもしれん。
その禍根が残ってて、人間が人犬族を排斥してるのかもしれない。
だとしても。
それがどうした?
俺はロロコと一緒に行動してきた。
あいつは、まだあんな子供なのに。
弱音も吐かずに戦ってたんだぞ。
自分の仲間のために。
あるいは俺のために。
命を失ってもおかしくない戦いに身を投じてきたんだ。
そんなあいつの決意をさ、
あんなバカが笑って手叩きながら、
軽々しく踏みにじっていいはずねえだろうが!
〈――ああああああああああああああ!〉
俺は声を上げる。
それだけで、鎧が砕けそうだぜ。
〈ロロコ!〉
倒れてたロロコが起き上がる。
わかるぜ。
お前はまだ、あきらめてない。
こんなところであきらめるようなやつじゃないよな、お前は。
〈一発でいい! 最大級のやつをこいつにぶちかましてやれ!〉
「――わかった」
いいね。
余計な言葉は必要ない。
一緒に修羅場をくぐり抜けてきただけのことはある。
ロロコも。
俺も、少しはな。
俺は狼の周りを無駄にグルグル回って翻弄しながら、パーツを組み立てていく。
狼は俺に気を取られて、ロロコが構えてるのには気づいていない。
ロロコはフラフラになりながら狼を睨む。
「ファイア!!」
大絶叫。
そして、巨大な火球が狼にぶち当てられる。
――グロロロロロオオオオオオオオオッン!
さすがに全身火だるまってわけにはいかない。
それでも、身体の一部を焼かれて、狼は動きを止める。
そこへ突っ込む俺!
〈おりゃああああああああああ!〉
剣をまっすぐに狼の眉間へ向ける――
――グオオオオオオオオオオン!
バシャン!
狼が前脚を一振り。
それだけで鎧が吹き飛ばされた。
――がしゃんがしゃんがしゃん!
地面に叩きつけられる各パーツ。
ヒビのせいで、どれもこれもぶっ壊れてしまう。
…………はっ。
いいよ。
くれてやるよ、そんなもの。
俺の思いは、
全部こっちの、
右腕に込めてんだからな!
――グォォォォ!?
驚いてるな?
そう。
あらかじめ右腕だけ他のパーツから外してたのだ。
だから、狼に鎧を吹っ飛ばされても、そこだけは狼の眼前に残った。
〈くらええええええええええええええええええ!!〉
――ズズン!
奇妙な手応えだ。
考えてみりゃ、剣で敵倒すのなんて、これが初めてかもしれん。
剣は、ざっくりと狼の眉間に刺さっていた。
――グルルルオオオオオオオオオオオオッ!
狼は絶叫。
めちゃくちゃに暴れまわる。
――ベシン!
「ぶぎゃ!?」
あ、尻尾がバカ領主にぶち当たった。
そのまま岩山の奥の森へ吹っ飛んでいく領主。
はっはー。
ざまあみろ。
狼はすぐに力を失った。
そのままゆっくりと身を倒していく。
――ドオオォォォォォン。
巨大狼は轟音を響かせ、地面に横たわった。
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