キャラがまだ定まらぬ……。
「……お師様、私はあなたにとって何百人いる生徒の一人なのだろうくらいにしか私は思っていなかったのです」
呪いに押さえつけられ、床にひれ伏す金色の毛玉を、クレーはもう師とは思っていなかった。
「そして事実そうあるべきなのです」
クレーの声は震えていた。
「お、落ち着くのじゃクレーよ! 何の話やら分からぬぞ! そんな事より今! 外が大変なのじゃ! 正夢の国の王女が人間界で召し上げた夢戦士どもを連れて海岸に攻め入ってきておる!」
この、呪いを使う夢魔が住む悪夢の国は、予知の力を持つ夢の妖精が住む正夢の国と絶賛戦争中なのであった。
最短でも今後一世紀の夢世界の覇権を占うと言われる戦争である。
そして、その正夢の国の王女が夢を経由して人間界へ赴き、夢の中で戦う夢戦士の才能のある人間を探している、という噂はあった。
もちろん夢魔達も同じ手を使ったが、捜索能力で圧倒的に妖精に劣る夢魔にはより強い夢戦士を見つける事はついに出来なかったのだ。
そこで、すでに夢戦士となった人間に呪いをかける方針で、夢魔達は戦い始めたのだった。
結果として戦局は拮抗……むしろ正夢の国を押している状況のはずだった。
それが今、呪いの中を生き残った猛者達を連れて、正夢の国の王女ラークルが攻め込んできているのだ。
これは実はそう珍しい事ではなく、また夢魔それぞれに戦闘力があり、悪夢の国が独裁制である為に、いわゆる「国民皆兵」の主義で敵から襲撃を受けた地帯の住民達にはそれを迎え撃つ義務が課せられる。
「今こうしている間にも! いたいけな仲間達があの強大な夢戦士どもの力と王女の予知によって次々と……分かるか!? クレーよ!」
しかし、今のクレーはそれどころではなかった。
「今年の最新版ですのよね、ここの鍵」
そこでラジョーネの目が泳ぎ始めた。
「や、安物じゃろ? 緊急ゆえやむなく壊させて……」
クレーが食い気味に返す。
「王立防犯センターで買ったやつですの、毎年色んなサイトで広告が流れ倒すあの高性能オートロック」
「……」
「ご存じでない?」
「……」
「いや、どうせ出るんだもの、今から壊れているかどうか見に行く方が速いかしら」
そこでラジョーネが、ある限りの力を振り絞って顔を上げる。
「クレーよ、ともかく話し合おうぞ」
「もちろん話し合うべきですわ。大事に隠しておいたウチの合鍵が、一体いつの間になくなってしまったのか……今すぐ話し合うべきですわよね?」
ラジョーネはうつむいて、クレーと目を合わせる事なく、声を絞り出した。
「……合鍵は……先に仕掛けたカメラで隠し場所から取り出す所を見て……一ヶ月ほど前に……あとカメラはトイレと着替え部屋にもいくつか……本当は風呂にも置きたかったがおぬし大浴場派なのよな」
クレーは、静かに震えていた。
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