くそざこヴィランズ!

悪役達は今宵も元気に正義の鉄槌を喰らっていく
雷神ゲーム
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呪いの少女

公開日時: 2020年9月3日(木) 13:04
文字数:1,169

人間界と隣り合い、朝が訪れない夢世界……その半分を占める悪夢の国。

そんな悪夢の国の片隅、三日月海岸で、難攻不落の夢遊城は今夜も月明かりの下に揺らめいていた。


「全員〜滅亡しろ〜♪」


歌いながら、石英の廊下を行く者がいた。

夢遊城の住民の一人、クレー・シャムロックである。

巷で名高い呪術師である。


「殺〜さ〜れろみ〜がヤ〜バ〜い〜♪」


湯上がり直後の彼女の黒い髪には水が伝い、雪のように白い体を覆うバスタオルには、何故か血が染み出してしたたり落ちている。

それを何のためらいもなく踏んで歩くので、廊下には血の足跡が残されていった。

そうして自室に着くと軋んだ音を立ててドアを開け、バッタンガチャンと勢いよく閉める。


「はよ〜♪殺さ〜れて〜死ね〜♪」


そして化粧部屋に向かい、ドレッサーの前に座る。


「今す〜ぐ〜♪呪わ〜れ〜て〜死〜ね〜♪」


クレーがクシを取り、髪をすくと、黄金がこぼれ落ちる。

一時期、この黄金を狙って多くの人々が彼女を狙った。


「嗚呼〜748〜♪」


クレーが髪どめを取り、髪を縛ると、髪留めからおびただしい数の触手が生えて、髪についた水をジュルジュルと吸う。

幼い頃、その触手を見た彼女の友人達は、彼女を「魔物」と見下し、首輪をつけて引きずり回した。


「嗚呼〜748〜♪」


クレーが白いドレスを纏うと、たちまちバスタオルと同じように血まみれになる。

だから、彼女は血を落とす為にもう一度水を被らなければならなかった。


「嗚呼〜748〜♪」


クレーが首飾りと耳飾りを取り、身につけると、耳飾りの真珠が、首飾りの宝石が、じゅくじゅく歪んで目玉に変わり、やはり血がにじみ出す。


「嗚呼〜7〜4〜8〜♪」


この"呪い"のおかげで、彼女に好き好んで寄りつく者は一人もいない。


……はずだった。


「?」


化粧箱を開けた時、クレーは少しの違和感に気付いた。


何か、見慣れない化粧品が増えている。

黒い棒状のそれは、リップかマスカラか、はたまたグロスかはともかく、彼女はそれを買った覚えがなかった。

おそるおそるそれを手に取り、観察してみると、淡い光が覗いた。

そこでキャップを外した。

キャップはクリアカラーのものだったようだ。


「は?」


そこには、カメラがあった。

半球型の、広範囲を見回せるタイプの小型カメラ……。

相当な値段のものと見える。

そして今まさに稼働している。


クレーは戦慄した。


「……クレー!」


その時、彼女にとって数少ない馴染み深い声が、部屋の入り口から聞こえてきた。


「お師様!」


「クレーよ! 外が大変なのじゃ!」


金髪を振り乱した小さな少女が化粧部屋へやってくる。

彼女の名はラジョーネ。

その正体は見た目に反し、クレーに呪術を教授した老練の呪術師なのである。


「お師様! こちらも一大事で……」


そこまで言いかけて、クレーは再び戦慄した。


何故なら、彼女が自室に入った時に鍵をかけていたはずだったのだ。

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