異世界FIRE

―60歳まで冒険者は無理なので早期退職します―
のちのちザウルス
のちのちザウルス

プロローグ

公開日時: 2021年10月3日(日) 20:00
文字数:562

「経済的自由を手にするんだ」


私たちの先生は、口がすっぱくなる程その言葉を繰り返し繰り返し仰っていた。


「数学ができなくてもいい。メリケン語ができなくてもいい。物理や工学に興味がなくてもいい。でも、何か1つでいい。人に誇れる何かを持つんだ。それが皆さんの武器になる。それを使って、経済的に自由になるんだ」

「何かって、なんでもいいんですかー!?」

「なんでもいいぞ。例えば遊ぶことに特化してもいい。化粧の上手さを自慢してもいい。生き物の巣を発見するのが得意とか、空を何時間も眺めていられるとか、そういう訳の分からない分野でもいい。それを伸ばして、いつか誰かにその知恵を教える――。そして、君はその対価に報酬を得る。そうして新しい稼ぎを作れる何かを、今のうちから作っておくんだ」


先生は国営ギルドに勤める官僚であったが、それでも豊かに生きるために必要な知識をたくさん教えてくれた。それは、私を含む生徒の血となり肉となり、やがて精神にまで染み渡る。そうして教えというものは脈々と受け継がれていく。

いつの時代も、先生というのは何かを教えたいものだ。そして、それが自分の教え子の役に立ち、教え子が立派に育つことを期待を膨らませて待つのである。




――そして、生徒というものもまた、先生の言うことは”年寄りの戯言”と聞き流して全部忘れるものである。

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