ただ我慢ならなくて

サティスファクション・ビジランテ
Shiki S
Shiki

第五話

公開日時: 2020年9月17日(木) 21:10
文字数:3,350


 場所によってギャングや半グレのテリトリーがあり、空白地帯は猫の額よりも小さな隙間しかない。自分達の縄張りを広げるために他勢力と争いになるのは決して珍しい事ではなかった。

 ただ昼間の住宅街でまさか銃撃戦が始まるのは珍しい。テーブルなどを盾にしてストリートチルドレン達が向かいのビルから撃ってくる連中に対し撃ち返していた。


「悪いな、巻き込んじまって。暫くそこに隠れていてくれや!」


 リーダー格の男は仲間達に連れられて屋上から下に降りて行った。先の言葉はその際に、壁に隠れていた俺とクラスメイト二人に向けて言った言葉だ。

 まだ何人かが屋上に残って応戦しており、敵を向かいの建物に釘付けにするつもりらしい。だけどそれは向こうも同じですぐに地上から怒声と銃声が聞こえ始めた。

 チラッと見た感じ、向こうもここにいる彼らよりは平均年齢が上な掃いて捨てるほどにいるチンピラだ。何がどうなって撃ち合いになっているのか知らないけど、暴力の世界に生きているのなら取り敢えず撃って撃ち返すは日常茶飯事か。

 ただ俺達を巻き込むのはいただけない。


「ハーレム……異世界、ハーレムを…………」

「ムフフ、アリスちゅわ~~ん」

「こいつらビルから突き落としてやろうか」


 耳が馬鹿になりそうな程の銃声が轟いているのに呑気に寝ている学友達に殺意が湧くのは正常な思考だと思う。

 俺は溜息と同時に思考を切り替え、学ランを脱いで顔に巻きつけ顔を隠して屋上から壁沿いに下の階に下りた。幸い窓の鍵が開いている上に空室だ。そこから通路に出て、奥の窓の向こう側が銃撃戦の相手のいる建物だと確認。窓を外し、通路を走って向かいの建物に飛び移る。

 一階分下の階の窓を突き破り中に侵入、さっき見て把握した敵の位置に向かって足音を立てずに早歩きで進む。

 途中、下の階から応援なのかエレベーターから出て来たチンピラがいた。俺の姿に驚き一瞬の躊躇を見せたが、拳銃を向けてきた。だが、俺が袖口に隠し持っていた棒手裏剣の方が早く相手の手に突き刺さる。

 悲鳴を上げるチンピラの顎を殴って続け様に直蹴りを行いエレベーター横の階段から突き落とす。ゴロゴロと転がって動かなくなったチンピラを放置して銃を回収した俺はまた歩き出す。

 そこからはただ相手の背後から奪った銃で頭を撃ち抜く作業となった。

 屋上へ銃撃していたのを全員始末すると、俺は来た道を戻ってまだ夢の世界にいる学友二人の所に到着する。上着を改めて着直しながら、俺は物陰から顔を出す。

 そして引き金から指を離して何やら戸惑う彼らに向かって言う。


「終わった? ならそろそろ帰ってもいいかな?」




 馬鹿二人を適当なコンビニの傍に捨てて、俺は元々の予定に戻る。メンテナンスを依頼していた装備の受け取りだ。

 個人商店が並ぶアーケードの脇道からずっと奥に行った所にジャンクが山と積まれた場所がある。その隣にある工房が目的の店だ。

 敷地に入って工房に向かう途中、脚部が車輪で上半身が人型のロボットと出会う。わざわざ此処にあるジャンクのみで作ったというロボットはブリキ人形のような見た目をしていた。


「いらっしゃいまセ。親方は接客中でス。少々お待ち下さイ」


 語尾のアクセントが独特なロボットに従い、工房の外で適当な車のタイヤの上に座って待つ事に。

 ここの主人は企業でも技術者集団として重宝されていた職人だったが現役を引退して今は道楽でこんな所に工房を開いている。だけどその腕の高さから企業に勤めている者でもこっちに依頼する人がいる。俺の父もその一人だった。

 だから客について詮索しない。企業人かもしれないし偶然此処を知った冒険者かもしれないが、誰であれ仕事で敵対していたとしても仕事以外では関わらない。それが冒険者としてマナーであり、この工房の希少さが原因だった。

 携帯端末に入れたゲームで時間を潰していると、工房から二人組の男女が出て来た。

 一人はサングラスをかけた背の高い男だ。先祖がアフリカ系と思われる肌にスーツの上からでも分かる逞しい肉体を持ち、隙のない佇まいは鋼のようだった。

 もう一人は銀髪の少女で異様に白い肌と尖った耳のエルフにしては珍しい赤い目をしており、華奢な体付きでまるで作り物の人形のようだった。ただしこちらも隙が無い。

 親方に武器の手入れを依頼していたのか、大きな銀色のケースとバイオリンケースをそれぞれ持った明らかに達人級の二人はこっちを一瞥しただけでそのまま去って行く。

 ……偶にああいうヤバいのが出入りするのが無ければもう少し通いやすいんだけどな、この工房も。

 二人の姿が見えなくなったところで工房に入ると、ロボットに聞いたのか親方が待ち構えていた。

 ずんぐりとした体型だが袖から覗く腕の筋肉が凄い髭面が親方だ。ドワーフと呼ばれる火と毒に強く金属の扱いに長けた種族だ。


「刀と鎧、出来とるぞ。確認してくれ」

「うん」


 竹刀袋に入れられた刀に背負えるようベルトの付いた箱の中の鎧を一つ一つ確認していく。


「しっかし、鎧はともかく刀で戦車の砲弾受け流すとかバカじゃないか?」

「正面から切ってた親父よりマシだと思う」

「生身の分、お前さんの方が異常なんだよな。刀使いはどうしてこう頭おかしい奴ばかりなんだろうな」

「偏見が酷い。大体、刀使ってる冒険者は少なくないだろ」


 刀を使う冒険者は多い。単純にこの地がジャパンもとい日本の地だからなのもあるけど、ヒートソードや高周波ブレードの形状としては片刃のあの形状が良いんだとか聞いた事がある。実際のところは知らないけど。


「ありゃあポン刀振り回してるだけのチンピラだ。ガチで剣術使う連中は生き物として次元が違う」

「褒められてるのか貶されてるのか……」

「ドン引きしてるのは確かだな!」

「えぇ……」


 軽い雑談をしながらチェックを終えて、受け取り完了した俺は鎧の入った箱を背負い竹刀袋に入った刀を持って帰路につく。

 装備のメンテナンスも終わった。居合抜きで疲労した筋も癒えた。また明日から活動を再開できるが、何をしようか。

 まだ調査中の案件を除けば、カチコミの予定はない。何時もの活動場所とは違うけど昼間のストリートギャング同士の抗争が気になる。もう少し周囲の勢力圏の把握をしながら適当にそこらのギャングを締め上げて情報を集めてみるか。

 今後の活動について考えながら歩いていると、路上で煙を吐いている車を見つけた。そのまま横を素通りして先に進んだ先でも幾つかの銃痕やら怪我人を発見、警察も来て場所によっては侵入禁止のホログラムが浮かんでいた。


「カーチェイスで片方がすっ転んだんだと」

「こんな時間から銃撃戦か」

「最近、場所も時間も考えずに暴れだす奴が増えた」


 通行人や野次馬達の話が耳に入ってくる。こんな事件は日常茶飯事だけど、裏社会には裏社会なりの暗黙の了解がある。

 住宅街のど真ん中での戦闘は出来るだけ避けるし、夕方とは言え夜にもなっていない時間帯に騒ぎを起こすのも目立ち過ぎる。

 そういえばストリートギャングの時も同じだ。人が油断している時を狙って襲撃したつもりか知らないが、他の人がやらず守っているルールには相応に理由がある。それがマナーだ。

 最低限のマナーも守れない奴はその分馬鹿をやる可能性も高い。真面目にあのストリートギャング達の抗争などを焦点に当てて調査してみよう。

 予定を決め、住んでいるアパートメントの階段を昇る。昇り終えた先の通路で一旦足を止める。


「…………誰だ」


 誰もいない通路に俺の声が虚しく響くが、見えないだけでナニカいる。感じからしてメイガスが使う遠視ではなく霊魂や使い魔の類か。

 普段なら無視しているが、通せんぼするように通路から消えない気配俺に対する何かしらの意図を感じる。

 俺は隠し持っていた棒手裏剣をナニカに向けて投げつける。幽体など物理的な手段では触れる事もできないが、気合を入れればビビリさせる事ができる。

 棒手裏剣は何も当たらず通路の奥の壁に突き刺さったが、脅す事に成功したらしく気配は霧散していった。


「何だったんだ?」


 まさか部屋とか荒らされていないよな。されてた場合、片付けや引っ越すのが面倒なんだけど。


「――――」


 荒らされているどころではなかった。

 通路を進んだ先にて、部屋のドアの前で倒れている少女がいた。


「……まさか捨て子!?」


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