ただ我慢ならなくて

サティスファクション・ビジランテ
Shiki S
Shiki

第三話

公開日時: 2020年9月11日(金) 20:18
文字数:3,047


 俺の装備の大半は両親が使っていた物だ。そして戦闘スタイルもそれに準じたものになる。

 頑丈で重い鎧を付けたまま動き回れる技術と刀の使い方を父から教わり、銃の撃ち方と立ち回りを母から教わった。

 だから冒険者になった当初から俺の戦い方は変わっていない。


「このイカレ野郎が!!」

「誰がイカレだ」


 マシンガンを連射していたギャングの胴体を右手に持つ刀で輪切りにし、左手に持つショットガンでその後ろにいた一人の頭を吹っ飛ばす。

 別の部屋に潜んでいたギャング達が物陰から飛び出してきたので左右に移動しながら射線を出来るだけ切りつつ接近する。それでも鎧に銃弾が当たる音と衝撃があるので生身だととっくにミンチになっていた。

 俺の戦い方とは弾雨の中を鎧任せに突っ切って敵に近付き、刀とショットガンの二刀流で攻撃する。それだけだ。


『おにーさん、おねーさんが捕まってた子達のトコに到着したよ』

「カノンさんの周囲に敵は?」

『んーん、いない。全部おねーさんが矢で倒しちゃった』


 壁を背に銃を防ぎショットガンの弾入れをしながら聞いたリアちゃんからの報告に俺は満足する。

 陽動を兼ねて暴れていたが、注意はしっかりこっちに集まっているようだった。


『あ、おにーさん、大砲持った敵が出てきた』

「大砲?」


 ヘルメット内のサブディスプレイにリアちゃんが見ている映像を映し出させる。

 重度のサイバネ改造を施したギャングのボスが確かに戦車の砲身のような物を持っていた。

 迫撃砲かもと思ったが、ジャンクの有り合わせで作りましたと言わんばかりの手作り感が凄い。砲弾の入ったケースも担いでいるので古い戦車の砲身を改造した物なのだろう。

 確かにパワー重視のサイバネなら持つどころか反動にも負けないだろうが、普通あんなのを作るだろうか?


「調子乗ってんじねェぞテメェ! この砲で消し飛ばしてやる!」


 ギャングのボスが砲身を壁向こうにいる俺に向ける。センサーで壁越しにいる俺の位置を捉えたんだろう。急いで横に跳んだ直後に砲から凄まじい音が轟き、さっきまでいた場所が大きく穴が開いた。

 穴は壁一枚どころか向こう側の外にまで通っていた。マズいな、これだけ威力があるとカノンさん達に流れ弾が行きかねない。


「どうしたどうしたァ!! さっきまでの勢いはどうした!!」


 高笑いしながらまた砲撃を放つギャング。砲撃音に負けない大声だ。

 ヘルメットのカメラが捉えた砲弾の形状を測定させつつ、3Dマップを表示させてカノンさんと要救助対象の位置を確認する。

 よし、いけるな。

 別の部屋から飛び出してきたギャング達が俺に向けて発砲してきたタイミングで遮蔽物から出る。


「そのまま燻り出せ!」


 ギャングのボスが銃弾から逃げる俺に砲の照準を向ける。

 こっちに向けられた砲に向かって駆けながら俺はショットガンを腰後ろのホルスターに戻し、刀を鞘に収めたまま刀の柄を握る。


「カミカゼかァ? そんなもの失敗するのが現実なんだよ死ねェ!」


 ギャングのボスは正面から突っ込んでいくる俺に対して冷静に砲身を構えて狙いを定めてくる。中々堂の入る姿勢でサイバネ化した体もあってブレがない。それはこっちとしても有り難い。

 走りながら鞘のスイッチを入れると鯉口から爪が出て鍔を固定し、鞘の仕掛けが作動する。

 相手が引き金を引くタイミングに合わせ、鞘のスイッチとは別のトリガーを引く。鍔のロックが外れた瞬間、目にも止まらない速度で刀が鞘から飛び出す。鞘内部はコイルガンと同じ構造の仕掛けが施されており、刀を打ち出す事ができる。これの出力を弱めたもので入り口にいた見張りも倒した。

 空気の壁を突き破りながら飛来する砲弾に対しての居合い抜き。どちらも人の視力では捉えられない速度だが、刀の柄を握るのは自分の手である以上操れる。

 目では見切れずとも、観測し予測した砲弾の速度と形状に合わせてどのように刀を振るえば自分の思い通りの結果に行き着くか想定した上でコイルガンによる加速を得た刀を抜いた。あとは勘と運。

 知覚の外にある砲弾と刀の勝敗は刀を振り切った腕と背後から聞こえる爆砕音が教えてくれた。よし、上手く砲弾を残ったギャング達の方向へと受け流す事に成功した。


「は? テ、テメェ! 砲弾を斬りやがった! マンガかよ!」

「斬ってはないよ。流石に腕が折れる。ところで、弾を込め直さなくてもいいの?」

「な、クソッ――」


 ギャングのボスが慌てて次弾を装填し始めるが、俺は既に近付き刀を振り下ろしてボスの手首を切断する。

 痛覚をカットしてあるのだろう。ボスは痛みで怯まず砲から手を離すと無傷の腕を変形させて内蔵武器を露わにする。だがもう遅い。一歩踏み込み返す刀でギャングのボスの頭部を斜めに切断した。


『おにーさん、かっこいーっ!』

『……イカレてるわ』


 リアちゃんからはアクション映画を見ているようなノリの声に対してカノンさんはドン引きしていた。自分の戦い方が特殊である自覚はあるが、知り合いからそんな直接的な言葉を聞くのはやっぱり辛い。


『こっちは出口に着いたわ』

「了解。先乗ってて。コンピュータからざっくりデータ抜いたら俺も戻るから」


 さっきのでギャング達は片付いたようなので彼らが使用していたコンピュータを探して、記憶媒体を回収する。

 仕事は帰るまでが仕事だ。趣味での活動だけど。生き残りに警戒しながら小型トラックの所に戻り、リアちゃんとカノンさんと合流してその場から離れるのだった。




 救助した女の子達を闇医者の先生に預け、俺は場所を変えてカノンさんに報酬を渡す。


「今日はありがとうございました。また何かあったらお願いします」

「確かに。余計なお世話でしょうけど、こんな事続けてたら何時か死ぬわよ」

「まあ、放っておけない質なんで」

「不器用な奴……」


 カノンさんが呆れた顔を浮かべていると、何か雄叫びが聞こえ始め段々と近づいて来る。声のする方向に視線を向けるとノーヘルでバイクを爆走させる男がいた。


「リィィィィアァァァァァァ!!」

「あっ、おにーちゃん」


 リアちゃんの兄、エリオである。あいつ漸くリアちゃんが居ない事に気付いて慌てて探しに来たか。前に聞いたが、リアちゃんが首から下げてる御守りにはGPSの発信器が入っていて何処にいるか分かるようになっているらしい。


「リアを連れ去ったボケナスは殺す!」

「ボケナスはエリオだと思う」

「刺されたんじゃなかったの?」

「誰がボケナスかイカレ侍! あと刺されたけど雑誌仕込んでだからセーフ! ……って何だお前らか」


 ブレードとスパイクが装着されたピストルを構えたエリオだったがリアちゃんと一緒にいるのが俺達だと気付くと冷静になって電動バイクをゆっくり停めた。


「エリオ、何やってんの? 代わりにリアちゃん来ちゃったんだけど」

「それは悪かったな。逃げるのに精一杯だったんだ」

「一般人から逃げるだけで何やってんの? あんたサイバーでしょうが」

「流石にヒートナイフは腹の装甲貫通する」

「……さっき雑誌で助かったとか言ってたけど?」

「ああ、雑誌を腹に巻いたお陰で防げた」

「これは私がおかしいの?」

「単純にリーチが足りなかったからじゃない?」


 或いは雑誌が激しく燃えてそれで相手が怯んで隙が生まれたとか。


「おにーちゃん、私アキノおにーさんの手伝いしたのよ」

「お~っ、リアは凄いなぁ。流石お兄ちゃんの妹だ」

「そうだね、兄よりも優秀だよね」

「そうね。兄の尻拭いをするなんてリアは立派ね」

「リアが褒められて嬉しいのとディスられてる悲しみの板挟み!?」


 悲しむ前に女性関係をちゃんと清算して欲しい。


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