「なんで?」
「なんでって言われてもな。俺も妹の付き添い」
暇そうなメイガスの冒険者を探したらなぜか捕まったのがエリオだった。その隣にはリアちゃんもいる。エリオはメイガスではないがサイバネで強化されているし経験もあるので、なにかオカルト関連でも相手できる信用がある。問題はリアちゃんで、たしかに素晴らしいメイガスとしての才能を持っている。だけどリアちゃんは六年間は使うバックパックを背負っていてもおかしくない年齢なので冒険者の仕事に連れ回すのはよろしくない。
「てか、前回の考えるとお前に文句言われる筋合いはないんだが?」
「悪いとは思ってるけどそもそもエリオがドタキャンしたせいなんだけど」
「しょうがないだろ! 命の危機だったんだ!」
「自業自得じゃないか」
「わたしリア。おねーさんは?」
「クラレ……」
男たちが騒いでいる間に女の子達は自己紹介を済ませていた。
「まあ、あれだ。万が一を考えて一人で生きられるように経験を積ませようと思ったんだ」
「うん、まあ、そうだね。じゃあ行こっか」
エリオも似たような理由だった。共感すべきかどうか迷って仕事に行こうに落ち着いた。
それで例の病院に到着したのだが、妖しい気配がビンビンに伝わってきた。予想の十倍は酷いんだけど。
「霊感ない系の俺でもなんか鳥肌が立ってきたんだけどどうなってんだこの病院」
「どうもこうも、感じたままだよ。どうしよっかコレ。燃やす?」
「ガキの使いじゃないんだ。放火は中見てからだろ。えーと、こういうオカルトの脅威度ってどうやって測るんだっけか?」
「物質界に及ぼしてる影響に魔力の量が大きな目安だったはず。二人とも、どう?」
「よくわかんないかな?」
「リアもー。なんだか色んな気配が混ざってるの」
色んな気配ということはつまりお化け屋敷のようになっている認識でいいのか。こういうのは霊的な物を呼び集める何かがあるパターンか誰かがこそこそと何かしらの魔法を使うおうとしている影響というパターンのどっちかだ。
後者の方が解決は楽で、何故かと言うとこんなバレバレな行動をしているメイガスは覚醒したてのド素人でプロなら気配一つ残さない慎重さがある。
「行くか」
「そうだな」
まあ何であれ確認のために中に入るしかないのだけど。
先頭をエリオ、真ん中にクラレとリア、最後尾俺の陣形で病院内に入る。
「強い気配の方に行ってみよう」
「だったらあっち」
クラレが指差した方向に進んでいくと、徐々に空気が冷たくなってきた。これはオカルトの気配。
「魔力が強くなってきた」
「どうするの? 私は魔法はまだちょっと無理なんだけど、幽体が出てきたら……」
「俺が前に出るから。気合入れて素振りすれば幽体もビビるから」
「それができるのはお前だけなんだけどな」
「ああ、やっぱり普通じゃないんだ」
何故かアウェー感がするんだけど。
本当に斬ってるわけじゃないよ多分、と説明してもこれを納得してくれる人は少ない。オリバー・キングなら分かるが俺なんてまだまだ未熟だというのに。
そのまま進んだ先にあったのは手術室だ。ドアに付いた窓には内側から布か何かで目隠しされていて中の様子を見ることはできない。
「やばいね。メイガスでもないのにビンビン感じる」
「俺もだ。開けたくねー。でも開けるしかねー。オルターガイスト系ならいいんだが」
「ガチの呪い系だったらどうしようもないからね」
クラレとリアを廊下の壁際に下がらせてエリオと二人で院長室のドアを開ける。大量のピンク色の蛆虫(最大で人の腕サイズ、最小で親指サイズ)が大量に蠢いていた。
即座に閉めた。
「この病院は燃やそう」
「うぇ、吐きそう」
非常に嫌だけどヘルメットのカメラで映像は撮った。後でデータの汚染除去するか記憶媒体ごと処分する必要はあるけど、この映像記録があれば病院を燃やして処理したとしても報酬の値上げは確実だ。
「じゃあ、帰ろうか。害虫駆除しながら」
言いながら刀をクラレとリアのいる方向に投げる。刃が天井近くの壁を這う人の頭ほどある蛆虫に突き刺さる。
「うわっ、やだこれ!」
「やーっ!」
二人が慌てて壁から逃げるのと入れ替わりに俺は刀を引き抜きながら蛆虫を切断する。そして周囲を見てみれば、物陰や天井のダクトからなどから大小様々な蛆虫が這い出てくる。どう考えても待ち伏せされていた。
「この仕事、偵察だから危険手当は難しいんだよねえ」
「簡単な仕事だと思ってたのによォ! リア、やっちまえ!」
「あっち行けーーっ! ソニックウェーブ!!」
エリオの指示にリアちゃんが声を上げながら魔法を行使すると、全方位に衝撃波が放たれて蛆虫達を吹き飛ばし粉砕する。
「ほら、走って!」
エリオが先頭、俺が殿の来た時と同じ陣形で蛆虫の体液塗れにまった通路を走り抜ける。だけど蛆虫はどこからでも湧き出て俺達に近づいてくる。窓を突き破って逃げようとも考えたけど、窓のある部屋に通じる通路には大量の蛆虫がおぞましいほど大量に蠢いていた。
「エリオ、そこの壁だ! クラレ、この銃で虫を撃っててくれ」
「オーライ!」
「うん!」
腰の後ろのホルスターからショットガンを抜いてクラレに渡す。銃の扱いは教えているし、弾も散弾だから空間が限定された通路では狙う必要もない。
走りながらエリオが曲がり角の壁に二丁のダガー付きマシンピストルを向けて発砲する。蜂の巣のような痕を残すが壊すに至らない。
「リアちゃん、頼む」
「うん!」
「あっ、リアを抱っこしていいのはお兄ちゃんだけだぞ!」
何言ってんだこのシスコン。
走りながら両脇を掴んでリアを持ち上げ、魔法に専念させる。
「パワー!」
衝撃波ではなく視線の先にある物体を直接破壊する魔法が放たれる。だが銃痕から崩れ落ちたのは表面だけだった。何故なら壁の中には大量の糸が絡んでおり破壊の力を吸収してしまってるからだ。
「オラ、アキノ。お前の出番だぞ!」
壁の前に立ち止まってリアを下ろして刀を構える。クラレとエリオが近づいてくる蛆虫を撃ち殺している間に全身で刀を壁に向かって渾身の力で振るう。
「はああああああぁぁッ!!」
糸ごと壁を叩き切り、続いて肩から体当たりして外への穴を広げる。他三人も急いで開けた穴から病院を抜け出して振り返らず走る。
ある程度離れたところで足を止めて振り返れば、蛆虫達は追いかけてはいなかった。
「あー、気持ち悪かった! アキノ、ちゃんと撮ってただろうな。これで値上げ無理とか言われたらウジ太郎って呼んでやる!」
「やめろよ。そんなローティーンがやるようなイジメ。ちゃんと撮れてるから」
生理的嫌悪しかない依頼だったけど、危険度はそう高くはない。あの蛆虫は多分、クラレやリアが反応していたきとからオカルト由来の生物だ。何かで病院の中に召喚されてそのまま増殖したんだろう。
フィクサーには素早く報告書と気持ち悪い蛆虫動画をセットでメールを送りつける。
まあ、小遣い稼ぎとしてまあまあと言えた。
「ったく、最近こういうの増えたぞ」
「増えた?」
「ああ。オカルト発祥の怪物だ。この間、レストランで出た人食いヒトデを殺したし、その前はグールの群れが空き家に住み着いてた」
「それは……不穏だな」
「だな。ったく、オカルトって言うのは降って湧いたかと思えば連鎖してたりするから嫌なんだよ」
俺自身の平穏は特に望んでいないけれど、せめて住んでる街ぐらいは平和であってほしいものだと心底思った。
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