ただ我慢ならなくて

サティスファクション・ビジランテ
Shiki S
Shiki

第十五話

公開日時: 2020年11月29日(日) 15:37
文字数:1,955


 蛆の巣食う廃病院が燃やされてから数日後、フィクサーに呼ばれて店に行くといきなりカノンが絡まれた。いや、別に特製ボウガンを向けられたとか威嚇されたとかではないんだけど、いつにもなく真剣で怖かった。


「経緯とか諸々省いて聞くわ。吸血鬼と戦ったの? どの氏族? 名前は?」

「いきなり何のこと?」


 反射的にとぼけてみたけど悪手だった。カノンは俺の隣にいるクラレをじっと見る。

 カノンはサイキックで念動力の使い手だが思考の読み取りもできるという噂だ。俺は対サイキック訓練で思考を読み取らせないようにできるがクラレは無理だ。カノンの能力次第だが果たしてどこまで読み取られてしまうのか。


「……ヘルメットを脱いで目を見せなさい」

「え、なんで?」

「いいから」


 助けを求めて店内を見回すが、目を逸らすか元からこっち向いてないかのどちらかだ。

鬼気迫るカノンに誰も関わりたくないようで、俺も観念してフルフェイスのヘルメットを脱ぐ。


「そんな顔だったのね――って、あんた《魅了》の魔術にかかってるじゃない!」

「そうなんだよ、解けてないんだよこ――」


 いきなり額を叩かれたと思ったら手の振りの速度からは想像できないほどの衝撃が脳天を突き抜けた。


「ァ、が――いきなり何すんの!?」

「《魅了》を解除したの。サイコキネシスとテレパシーで物理と精神両方に揺さぶりをかけたわ。と言うかよく気絶しなかったわね。頭吹っ飛ばされるような感覚に皆気絶するのに」

「言うことはそれだけ?」


 カノンはそっぽ向いて用は済んだとばかりに離れて行った。ええ……機嫌悪い。


「あの人は?」

「カノン。サイキックのクロスボウ使い。魔物が嫌いな人で、魔的な生物と戦うような依頼の時は頼りになるよ」


 クラレの質問に簡単に答える。

 カノンに関してはまた別の噂がある。吸血鬼をはじめ怪物達に対する知識が深く銀の矢を常に持ち歩く彼女はそういった存在を相手にする依頼がある場合は利益を度外視し受諾する点からハンターではないかという噂があった。

 本人の口から聞いた訳でない単なる憶測だが、あながち間違っていないだろう。


「アキノ、こっちに来い。ついでにエリオもな」


 さて手頃な依頼を探そう、と思っているとフィクサーがカウンターから声を掛けてきた。エリオもとなるとこの間の廃病院の事だろうか。でもあれはもう依頼を達成した扱いで報酬もちゃんと貰ったので俺らとは関係のない話のはずだ。


「この間の廃病院、あれの原因が判明した。なんでハンティングだ」

「報酬は?」

「内容による」


 エリオが報酬について聞く一方で俺は詳細を求めた。あの巨大な芋虫に関しては邪悪な気配しかしなかったが、その原因をいきなり狩って来いとか言われても困る。もっと具体的に何をやらかしたのか説明が欲しい。


「はぐれの魔術師の仕業だ。召喚魔法で殺しだのなんだのやっていた奴らしいが、どうにもビジネスを広げようとしていたようだ。そこであの病院に目を付けた訳だな。虫の巣にして使役するモンスターを増やそうとした」

「そいつは今は?」

「病院に見切りをつけたのか忘れたのか前と同じように雇われメイガスだ。今はとあるギャングで仕事をしている」

「それ、ついでにギャングと一戦闘あるって事じゃん」


 冒険者に狙われると分かった上でギャングの雇われメイガスとして在籍している可能性があった。メイガス一人だけなら罠を仕掛けて視覚外から仕留めれば簡単だが、ギャングと行動を共にしているなら難しい。そもそもーー


「俺は遠慮する」


 殺しとかギャング同士の抗争に俺は首を突っ込まないようにしているのでこの依頼は無しだ。金額の問題でもなく単純に気が乗らない。


「じゃあ俺も。と言うか虫野郎とかバッチィから嫌だ」


 そうだよね。あのキモい芋虫を使役してたメイガスなら次にどんなキモい生物喚ぶか分かったもんじゃないから普通に嫌だよな。話を聞いていたクラレも依頼を断ったことにホッとした表情を浮かべている。


「虫って知った途端どいつもこいつも拒否やがる。三流だが数で押すか」


 断られるのが分かっていたらしくフィクサーは席から離れていく。ここで言う数で押すはあまり素行が良くなく金に困ったホームレス連中を使うという意味だ。市民証明を持たない人間は数多くいるが、その大半はホームレスでその日暮らしをしている有様だ。彼らはそんな生活から抜け出す一発逆転を狙い冒険者になる者が多く、賭けに負ければ死に、勝てばもう少し良い生活ができるようになる。

 今回、どれだけのホームレスが生きていられるのかと思っていると、端末にメッセージの着信音が鳴るのを聞く。

 差出人が知り合いなのを確認してメッセージを開くと、中々タイムリーな内容だった。


「マジかぁ……」

「どうしたの?」

「よもや虫退治かもしれん」

「え…………」


当たり前だが凄く嫌な顔をされた。


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