俺の装備は元冒険者で企業の渉外部に勤めていた両親の遺品だ。企業から支給される装備とは別に両親が個人的にポケットマネーを注いで改良や手入れを行なっていた品なので遺品として俺の元に帰って来た。
冒険者から成り上がった二人は俺に一般市民として当たり前の教育を受けさせそのまま企業に就職して欲しいと思いつつ、冒険者としての生き方と技術を教えてくれた。カタギの真っ当な生活を送って欲しいという願いと同時に自分達が積み上げてきた物を少しでもいいから継承して欲しいという想いがあったのかもしれない。
だから苦しい言い分なのは分かりつつ、学生生活を送りながら冒険者をやっているのは親孝行ではないだろうか。
はい、軽い現実逃避終わり。真面目に現状を見てみよう。
「まずは点呼! 壱ッ!」
一、全身鎧の俺ことアキノくん十六歳。
「にーっ!」
二、元気よく手を上げる推定十歳児。
「……三よ」
三、ジャケットを着て連射クロスボウで武装しているガール推定二十歳未満。
うん、一人だけ場違いなのがいるね。
夜のスラムの人通りが少ない場所で正確な年齢が分からない推定ギリ二桁歳の小さな女の子がここにいるね。
「リアちゃん何でいるんですか!? エリオは!?」
「おにーちゃんはおねーさん達に追いかけられてるから代わりに来たの」
何をやってるんだあのクズは。
「じゃあ、あの返事ってリアちゃん? お兄さんの端末勝手に弄ったらダメでしょ!」
「ごめんなさーい」
小さな妹を放っておいて兄であるエリオは何をやってるんだろうか?
依頼したもう一人の冒険者であるカノンさんが何時ものクールな雰囲気の中に困惑した表情を浮かべている。
「ね、その子ってエリオの妹なの?」
「そうです、リアちゃんです。エリオにはバックアップを頼んだんですけど、どうやら修羅場っててそれどころじゃ無いみたいです」
「あいつ、そんなにモテるの?」
「ほら、エリオはフォンさんトコでホストのヘルプ入ってるから……」
「自業自得じゃない。それでどうするの? まさかこの子も連れて行く気?」
カノンさんに言われて考える。リアをここに残しておくのも心配だし、一緒に来てもらった方が良いか。寧ろイレギュラーな出会いがある路上の方がギャングの住処より危険まである。
「トラック持って来たんでそこに待機してもらいます」
「えーっ、悪いやつらを退治するんでしょ? わたしもやるー!」
「リアちゃんは(自他ともに)秘密(のままにしておきたい)兵器だから。だからこれでナビしてくれるかな?」
ハッカーのおかげで今から襲撃するギャングのアジトのセキュリティシステムはこっちの手の内だ。だから監視カメラも自由自在だ。リアちゃんに渡した古いタブレット端末にはその操作ツールが入っている。
オモチャを与えられそっちに夢中になってる間にカノンさんと話をする。
「あの子、もしかしてハーフ?」
「どのくらい血が濃いかは知らないですけど、エルフの血が流れているのは確かです。それとメイガスです」
異世界との融合で向こう側の人族がこっちにやって来た。その内の一つがエルフという種族で彼らは魔法を操れるメイガスだった。
ヒューマンは魔法を使えないが、エルフとの混血の中にはリアちゃんのように魔法を使える者がいた。
「へぇ、将来有望じゃない」
「実際強力な魔法使えますよ。ぶっちゃけアジト潰すだけなら外からリアちゃんが魔法ブッパすればそれで終わります。でも身体能力が年相応なんで万が一が怖くて」
「なるほどね。で、その兄が来てない訳だけどこのまま行くの?」
「エリオは万が一の為のバックアップでしたし、急がないと捕まってる子達がどうなるか」
リアちゃんに聞こえない位置で端末でターゲットのギャングの事業を説明する。女の子に見せる物ではないが、カノンさんは冒険者だし、この手の話は珍しい事ではない。
「少女を誘拐してオモチャにした後はバラして売り捌く、ねぇ。埋め込んだサイバネならともかく今時生身の内臓なんて売れるの?」
「生身至上主義と言うか、手が加えられてない臓器は一部に需要があるみたいで。だから早く助けてあげたいなって」
「分かったわ。私は別に報酬さえ貰えればそっちの事情なんて関係ないし」
「ありがとうございます。じゃあ、救助の方をお願いします」
「了解。ところで皆殺しにするの?」
「襲ってきたのなら別に。ただ逃げて行くのがいたら足撃っておいてください。事が終わればポリスに通報が行くコトになってますから」
「……そういう所がマメよね。ま、偶にはポリスにも働いて貰わないと」
ポリスの知り合いには既に話を通してある。こんな市民IDを持たない人達が暮らすスラムで彼らはあまり活動なんてしないけど、多少のアピールは必要だ。
俺達の仕事が終われば、近所から銃声を聞いたという記録上だけの通報で駆けつけたポリスが仲間割れしたギャング達を拘束するという流れだ。
面倒な被害者の保護はこっちが担当する。
仕事の最後の確認を終えた後、レンタルした小型トラックに乗り込んで俺達は目標の建物の近くにまで灯りを消した状態で移動する。
「それじゃあ、よろしく」
「報酬が払えなくなるようなミスはしないでね」
「おにーさん、がんばって」
本人の魔法でカモフラージュを掛けたトラックにリアちゃんを置いて、俺とカノンさんの二人でアジトに徒歩で接近する。
「屋上に見張りもいないなんて……」
「セキュリティシステムをネットに繋いでる時点でお察しと言うか」
杜撰と言うか間抜けを通り越して一発芸並の勢いを感じる。
カノンさんが裏口の方に移動して準備が完了するまでの間、俺は入り口前の見張りを観察する。鶏みたいな髪型をした男がライフルを片手に壁に寄りかかってタバコを吸っていた。
見た感じサイバネを入れている。メイガスでもサイキックでも無いヒューマンが戦うには矢張り装備が重要になってくる。荒事をするのなら、選択肢の一つとしてサイバネ手術による皮膚の下に装甲を仕込む事だろう。そんなにお金も掛からないし単純に硬くなって生存力が上がるのだから。あの見張りも装甲があると見ていい。
『配置に着いたわ』
「了解。それじゃあ始めよう」
ハッカーからサービスとして貰ったプログラムを走らせる。監視カメラの録画映像をループで再生させ本来の映像はこっちで受け取るのと、全部屋のロックを解除するプログラムだ。
プログラム十全に作動しているのを見、俺は物陰から出て歩いて入り口に向かう。
「何だテメェ!? それ以上近づけば撃ち殺――」
見張りが銃を構えたと同時に腰に固定した鞘のスイッチを押して刀を射出する。見張りの眉間に刀の柄頭が命中し昏倒させる。
弾かれて回転しながら宙から落ちてきた刀を俺は掴んだ。
カノンさんにはああ言ったが、何も悪さ出来なくなるよう畳むのが目的だからギャング達の中で生き残れるのは少ないだろう。せいぜいが一撃で気絶した見張りぐらいか。
「それじゃあアキノ・ホサカ、突入しまーす」
『おにーさんの戦ってるトコ録画していーい? 高く売れるの』
「だめ」
ちゃっかりしてるね。
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