ただ我慢ならなくて

サティスファクション・ビジランテ
Shiki S
Shiki

第十六話

公開日時: 2020年12月19日(土) 20:46
文字数:1,972


 俺は自分の感性と自意識で冒険者をやっている趣味人だ。だから依頼の縛りがあり、ギャングなどには直接手を貸すような物はなるべく受けない。時と場合によっては利用したりはするけど彼らの利益の為だけには動かない。麻薬の類は絶対にダメ。売人を見つけたら裏でボコる。それで一時期周りから反感を買ったけど、そういう人らは俺のテリトリーから離れた場所に行った。

 そんな俺の面倒臭い部分は依頼を斡旋するフィクサー達にも知られており、誰もやらない依頼料の安いものでも受けるヒーロー気取りと少なからず思われている。心外である。

 仕事を選り好みしている俺だが、無意味なポリシー的に微妙な依頼を受けることもある。例えば、企業として成功しているヤクザとか。

 キド建築工業……元々はキド組と呼ばれるヤクザだったが政府が放棄した開発地区をはじめ多くの土地の権利書を持ち、スラムに住む浮浪者やギャングを武力で排除して放棄された区画を整理。子会社の警備会社と言う名の私兵部隊を警備として政府が失敗した都市開発を成功させた。

 当時の事を調べると運が非常に絡んだ博打同然の行いだったがキド組はやり遂げた。建設したカジノやホテルの営業も順調のようで、ミラージやシャヘルのようなメガコーポと比べられないが表のシノギを持つ他のギャング連中とも頭の一つ二つは飛び抜けた存在になったヤクザ。


「以上がキド建築工業の概要な」


 歩いて移動しながらクラレにキドについて教えると、彼女は首を傾げた。


「アキノからしたら敵じゃないの?」

「敵ではない。カタギに寄生しなくても自分で儲けを生み出せる所だし、悪いことするよりも真面目に働く方が安全で儲けも安定している。私兵部隊なんて企業なら誰でも持ってるし」

「でも嫌そうな顔だよね」

「嫌と言えば嫌なんだけど、キラいではなく苦手な人がいて……」


 今回、その苦手な人に呼ばれた。『不死身の彼女も一緒に』とメッセージがあってあの一件について確実に知っていた。そも情報戦でアイツに勝てる訳がなく、その情報を黙っているのは単に利益関係なく広める必要性を考えていないーーものの人の顔を歪ませる程度にはヒラヒラと見せ札にする程度に性格が悪い。

 人格に問題あるが、情報収集能力がピカイチで俺も世話になった。彼女が紹介したハッカーがいるから俺も活動しやすくなっている。


「どんな人?」

「人とエルフのクォーターでサイキック。で、キドの一人娘」


 ヤクザのたった一人の娘で既に組織の一部を取り仕切っている女だ。クラレと会わせるにはまだ早いと言うか正直あまり関わらない方が良いと思っていたんだけど、向こうからクラレも一緒にと連絡があった。

 ここですっとぼけて俺一人で待ち合わせ場所に向かったとする。それを向こうは察して急遽待ち合わせ場所を変更し置いてきたクラレのいる所に待ち合わせを変更した上で先回りしてくる。それぐらいやる人だ。

 待ち合わせ場所はとあるクラブ。冒険者が集まるバーとは違い一見すると普通のガラの悪いアンダーグラウンドの臭いしかしないクラブだが、表には重度のサイバネが二人立っている。入ろうとしたら、その二人に遮られた。


「あっち行きなコスプレ野郎」

「オタク街はこっちじゃねえ。失せな」


 まさかのコスプレ扱い。全身鎧にフルフェイスヘルメット、腰に刀とショットガンを装備しているのにオタク街の住人と思われてしまった。ここが普通の居住エリアや企業スペースなら納得できるが、いかにもヤバ気な店でこんな勘違いは初めてだ。


「やっぱり浮いてる……」

「なんで?」

「多分、あそこだと皆が見慣れたんだよ。だから気にしてないだけで他だとコレが普通じゃないの?」

「フル装備なのに納得がいかない」


 俺の格好は一般人から見たら異様なのは分かる。でも物騒なエリアほど変な格好した奴なんて沢山いるし冒険者なんて常に武装し自分アピール為に奇天烈な格好をしている人なんて珍しくない。俺なんてメイガスでもサイキックでもなくサイバネだって入れてない生身だから全身をカバーしていないと流れ弾一発で死ぬ。

 しかしこれはこれで帰る口実が出来たと考えられないか? 門番に追い返されたと帰ってしまおう。

 そんな俺の心を読んだようなタイミングで門番の一人が声を出す。


「いや、待て……入っていいぞ」


 内蔵している通信機に連絡でもあったのか、門番がドアを開いて俺達を招き入れる。

 クラブは真昼間から経営していて多くの人間がそれぞれ時間を過ごしている。カウンター席で酒を飲む者、踊っている者、ビリヤードなど遊具を仲間と共に楽しんでいる者達など。年齢もまだ子供らしい若者から老人までいて統一性が感じられない。これでよく俺を追い出そうとしたな。

 視線を感じ顔を上げると二階部分のガラス張りになっている所から着物姿の若い女が顔に微笑を張り付けてこちらを見下ろしているのを見つけた。


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