髪型オッケー、化粧オッケー、笑顔オッケー!!
佐賀 明美(サガ アケミ)は鏡の前で最終確認をして家を出た。今日は、私の親友木戸 志保(キド シホ)の家にお菓子作りに行く。志保と遊ぶのは楽しい。でもね一番の目的は・・・・
「いらっしゃい、明美ちゃん、上がって、志保は今キッチンで張り切って準備してるみたいだから」
玄関を開けてくれたのは、黒髪眼鏡で真面目そうな雰囲気の志保のお兄さんの雄二さん。確か今は大学二年生で20才。
私がずっと前から好きな人。
志保の家に初めて遊びに行ったとき、出会ったんだ。
「雄二さん、こんにちわ。」
私は、行儀よくにっこり笑ってあいさつした。すると雄二さんは、重かっただろと言って私の手提げを持ってくれる。そうゆうさりげないやさしさキュン死にします・・・。
確かに手提げに薄力粉とか牛乳とかが入って重いことは重いけど、わざわざ持ってもらうほどの重さではない。
私そんなにか弱くないもんね。でもでも、やっぱそんな風にやさしくしてくれるってことは私を女の子としてみてくれてるんだよね。これはもしかしたらもしかすると、きゃっ、雄二さんと両想いだったりして!!
「・・・・何してるの、早くおいでよ」
飽きれたように振り返る雄二さんもかっこいい。
「はーい」
顔、緩んでないかな。
大丈夫だよね? キッチンに入ると、そこにはエプロン姿の志保がいた。
「明美ちゃん、おそーい!!」
ぷくっと頬を膨らませる志保は可愛い。こんな仕草をするから男子からも女子からも人気なんだよね。あ~もうかわいいなぁ。
すでにボールやらヘラやらが用意されている。
今日はチョコレートケーキを作るんだ。
バレンタインデーに向けて、私達は毎日のようにお菓子を作っている。何事も試作試作。志保の家でいつもやるのは雄二さんがいるからだ。雄二さんに出来立てをすぐに試食してもらえる。
「ごめん、ちょっと手間取っちゃった。じゃあさっそく始めよう!」
「うん!頑張ろうね」
二人で作業を始める。まずは材料の確認だ。今回はガトーショコラを作ろうと思ってる。チョコレートケーキの中でも簡単だし、失敗しにくいと思うし。
まずはチョコクリーム作りだ。私はチョコを細かく刻む係になった。雄二さんはオーブンの温度調整をしている。
チョコクリームを作りながらふと思ったことを口に出す。
「ねえ、雄二さんて本当に優しいよね。」
志保は当たり前じゃんという顔をする。
「お兄ちゃんは誰にでもやさしいんだよ。あの人はただ単に世話焼き体質なだけだと思うけど?」
そうなんだけど、そうじゃないんだよね。だって、志保にはすごく甘いもの。それに、他の人のときはそこまで気にかけてない気がする。
やっぱり志保のこと特別に思ってるとしか思えない。
私は期待を込めて言った。
「もし私が雄二さんに告白したらどうなるかなぁ。」
志保は一瞬驚いたような表情をしたけれど、すぐに笑った。
「明美ちゃん前からお兄ちゃんのこと大好きだもんね。私はあけみちゃんがお兄ちゃんと付き合うのはうれしいから頑張ってほしいなぁ」
志保は応援してくれているようだ。よし、美味しいチョコレート作って絶対雄二さんを振り向かせちゃうぞ!! こうして私達のお菓子作りが始まった。
そして・・・・・・
「できた!!」
きれいに焼けたケーキを見て満足感に浸っていると、横で雄二さんが感動していた。
「すごい、うまいじゃないかこのケーキ。やっぱり志保は天才だな」
そう言って友人さんは志保の頭を撫でている。
「・・・・・むぅ」
雄二さんは昔からシスコンで妹の志保にだけはデレデレだ。恋愛感情が伴っていないとはいえこの光景はヤケテしまう。
「あっ、明美ちゃん、明美ちゃんのガトーショコラも焼けた?私のね、チョコマドレーヌも上手に焼けたからお茶にしよ。」
雄二さんに褒められてルンルンの志保はティーカップを選びにキッチンへ向かっていった。
「あ、あの雄二さん、私のガトーショコラ食べてくれますか?私が作ったんですけど・・・」
私は勇気を出して聞いてみた。ドキドキしながら返事を待つ。
「もちろん、食べるよ。ありがとう」
そう言って微笑んでくれた。
やった、嬉しい。私にもチャンスがあるかもしれない!今日こそは雄二さんに振り向いてもらうんだ。
それから私たちは三人でおしゃべりをしながらケーキを食べたり紅茶を飲んだりした。
「そういえば、もうすぐバレンタインデーですね。二人とも誰かにあげる予定あるの?」
私達二人は顔を見合わせる。
「私はまだ決めていないけど・・・明美ちゃんは好きな人いるもんね。」
志保は意味ありげに私を見る。
えっ!?志保!!!どうしよう心の準備が・・・・
「そうなんだ。よかったら僕に教えてくれないかな?」
雄二さんも興味津々でこっちを見ている。
「・・・はい。雄二さんです・・・。」
ああー言ってしまった。ついに告白してしまった。恥ずかしくてうつむくと、雄二さんの息をのむ音が聞こえた。
そして少し眉を顰める。
「・・・ごめん、気持ちは嬉しいけど僕は君のことそういう風に見れない。」
ガーンッ
そ、それって私が子供だから付き合ってくれないってこと!?
「そんなっ!!」
「明美ちゃん落ち着いて。」
志保が私を宥めてくれる。
「お兄ちゃん、ひどい瞬殺なんて。ちょっとくらい悩んであげてよ。」
ぽかぽかと雄二さんを殴る志保はサイコーにかわいい。でもしゅ、瞬殺って・・・・・・
追いうちとなった志保の言葉は私の繊細な心をえぐりまくった。
ああ、自然と涙が・・・
「明美ちゃん、泣かないで、もう、お兄ちゃんのバカ!!明美ちゃん泣かせるなんてサイテー」
「ええ、今のは志保の言葉で泣いたんじゃ」
「問答無用!!」
あれからも志保は励ましてくれたけど、私はショックだった。やっぱり私の恋は実らないんだ。
意気消沈して家に帰った。
あーあ、バレンタイン来る前に振られちゃったよ。
んっ、でも待てよ、雄二さんが断った理由ってまだわからないじゃん。なら悪いところを直せばいいんじゃん!!
まだ諦めるのは早いかも。そうだよ、私には時間があるんだから、魅力的な女の子になって絶対雄二さんを振り向かせてみせるんだから。
ショックを受けて数時間後にこうして私は立ち直ったのだった。
バレンタインデーまであと一週間。雄二さん好みの大人の女の子になって、もう一回告白するんだ!!
***********
「あ、明美ちゃん、どうしたの」
「だから!!!雄二さんどうして私を振ったんですか!!私のどこが悪いんですか。」
私は雄二さんの家に突撃した。
「・・・だって、明美ちゃん中二でしょ。」
・・・・直しようないじゃん!!!!!
まさかの年齢。確かに私は14さい雄二さんは20才6歳も歳離れている。
「そんな・・・・ど、どうしたら私と付き合ってくれますか、私、ほんとに雄二さんのこと好きなんです!!」
さらに詰め寄る私に雄二さんは引き気味だ
雄二さんは困り顔で答えた。
「えっと、明美ちゃんは今のままでも十分魅力的だよ。」
うわぁ、嬉しいけど、なんか複雑。
「じゃ、じゃあ、私がもっと大人になったら、私と付き合いたいと思ってくれますか。」
「それは、うん、まあ・・・」
歯切れの悪い雄二さんに私は腹を立ててしまった。
「なんですか、はっきりしてください。」
「・・・明美ちゃんがもう少し成長してから考えるよ。」
ごまかされたー!!大人かー。一週間でなれるかな
?
「わかりました。雄二さんが私を好きになるように努力します。」
「ははは、がんばってね」
笑い事じゃないんだから。
こうなったら雄二さんを振り向かせてやるんだ。
「明美ちゃんお待たせ!!」
「志保!!待ってたよー、さっそく作戦会議しよう!!」
「明美ちゃんお兄ちゃんの好きなタイプ調査したよ。お兄ちゃんは、私みたいな人が好きなんだって!!」
「志保みたいな人・・・・」
私とは見事に正反対のタイプだ。志保はこう見えて人見知りでおとなしいタイプ。見た目も黒髪美人でやまとなでしこって感じ性格も少し天然が入っているけどおっとりしていていい子。それに比べて私は・・・・がさつ?いや明るいタイプだ。
分かってはいたけど落ち込むな・・・・
たぶん志保はあの後、お兄ちゃんの好きな人はて聞いたんだろうな。当然シスコンの雄二さんは志保が好きだよって答えたんだろうな。
意気揚々と答える志保。その後ろには苦笑いの雄二さん。
「そっか志保はかわいいもんね。」
「へっ?」
私がそういうと志保は固まった。そしてみるみると顔を真っ赤にする。
「やっ、ちがっ、違うよ明美ちゃん。私そんなつもりなくて・・・」
「志保はかわいいよね。うらやましい。」
「明美ちゃん!?」
はぁ、志保はかわいい。本当にうらやましくなるくらい。きっと私よりもずっとお似合いのカップルになるんだろうな。血がつながってる兄弟だけど。
「明美ちゃん、うれしいありがとう!!私も明美ちゃんのことかわいいって思ってるよ!!」
は、恥ずかしい・・・
なんだこの告白大会・・・・・
雄二さんも気まずげだ。
「それ・・・僕の目の前でやるんだね。」
は、恥ずかしい・・・・
雄二さんは私の視線に気が付くと妙鼻空気を断ち切るかのように明るく声をかけてきた。
「志保、明美ちゃん今日は新しくできたショッピングモールに行くんでしょ、楽しんできてね。」
そう言って雄二さんは逃げていった。
「もう、お兄ちゃんたら・・・」
「じゃあ行こうか。」
こうして私たちは二人で出かける予定になっていた。
もちろん、かわいい服に、バレンタイン用のお菓子を作る材料を買って、雄二さんにリベンジするためだ。協力者に志保を連れて行くから準備はばっちりだ!!
モールに着いた私たち。
「明美ちゃん見てみて、ここのお店すごく可愛い服があるんだよ。」志保が持ってきたのはフリフリのスカート。そりゃ小動物タイプでかわいい志保が着れば似合うだろうけど・・・私には無理だよー。
「明美ちゃんだってすっごく可愛くて綺麗だから大丈夫!!自信持って!!それに、明美ちゃんなら絶対似合うと思うんだ。」
「そうかなぁ、私に似合うかなぁ。」
不安だ。でもせっ書く選んでくれたし。雄二さんの好きなタイプって志保なんだよね? だったら私も挑戦してみようかな。
こうして私は志保の選んだ服を着ることにした。
試着室から出た私を見て、志保は目を輝かせた。
「明美ちゃんやっぱりすごい、すっごいかっこよくてきれいだよ!!」
「あ、ありがと志保」
この服・・・・あんまり気ないけどちょっと大人っぽく見える。
「これ買おう!!」
志保は私の手を引きレジに向かった。
積極的な志保かわいい・・・・顔を真っ赤にしてなんか身振り手振り一生懸命で・・・・いかんいかんやばい性癖に目覚めるところだった。
「明美ちゃん、次はどこにいく?」
妙な考えを払拭するように話を変えた。
*******
そしてバレンタイン当日。志保とショッピングモールで買った大人っぽい服装に身を包み、何度も作って改良を重ねたガトーショコラを片手に雄二さんが通う大学に忍び込んだ。
まだ、授業中らしく、構内は静かだ。
雄二さんはどこにいるんだろう? キョロキョロしていると雄二さんを運よく見つけた。
すぐに声をかけようとしたが、隣にいる女性の姿に固まってしまった。
「なんだ・・・・彼女いたんじゃん。」
なんだかすっきりしない気分だ。
雄二さんの隣にいた女性は、茶髪でロングヘアーのスレンダーな美人さんだ。身長も高いしモデルみたいだ。
その人と一緒にいた雄二さんはいつもより優しい表情をしていた。
あの二人お似合いかも、後姿しか見えないけどすごく大人っぽくて・・・って何考えてんだろ私。
帰ろう。さすがに彼女の前で告白するわけにはいかない。
***********
「うわぁーん」
あれから数年、私は社会人になった。
今はフリーターをしながら、バイト先で知り合った大学生の彼氏がいる。
今日はホワイトデー、去年のバレンタインデーの時に作ったガトーショコラを彼に渡す予定だったのだが・・・・
「なんでよぉーなんで私を捨てるのーーー!!」
私は志保の家でさいきん覚えた酒の味におぼれ、飲んだくれている。
「明美ちゃん、明美ちゃんは魅力的だよかわいいよ、明美ちゃんを振った奴なんて見る目がないだけなんだよ」
そんな私を優しく慰めてくれる志保。
ジーンと感動した。すでに志保に慰められた数は数えきれないほど。
「しーほぉーありがどー」
「気にしないで!!明美ちゃんがガサツで、うざくて重いとか、女の子らしくないとか、バカとか言われてたけどそんなことないからね!!」
ガーン
こうして私にとどめを刺してくれたのも何回目だろう。
ううしくしく
「志保、明美ちゃんまたきたの?」
「お兄ちゃんそうなんだよ、明美ちゃん今年もう三人の人に振られてるの、かわいそうでしょう」
「そっか、でも明美ちゃんは可愛いと思うんだけどな。」
雄二さんの声が聞こえてくる。
志保は雄二さんに私のことをべらべらと喋っているようだ。
は、恥ずかしい・・・
でも私は酔ってるんだ。酔ってるんだもん。だから雄二さんに少しは甘えてもいいよね。
雄二さんに振られてから何人もの人と付き合ったけれどもまったく忘れることができなかった。
「雄二さん、雄二さん、」
私は水を持ってきてくれた雄二さんの腰に抱き着いた。
「うわっ、何するの明美ちゃん」
水をこぼしそうになりながらもおとなしく抱き着かせてくれる雄二さん。優しい・・・・
雄二さんに彼女いるんラけど、いるんラけどぉ~
「雄二さん、でへへっ、好きぃ」
「えっ!?」
あぁ、言っちゃった。酔いが覚めたら後悔するかも・・・ でもいいや。いまなら酔っぱらいのたわごととして聞き流してくれるかも。
数年前、たくさん準備して、告白することもできずに諦めた私の初恋・・・・
服に気合を入れてたくさんガトーショコラ作る練習して準備をばっちりしていった。その恋はかなわなかったけど、私の気持ちは伝えたかった。いや伝えなおしとけばよかったって思うんだ。
「明美ちゃん・・・」
「お兄ちゃん明美ちゃんといてあげて。明美ちゃんはまだお兄ちゃんのことが好きなんだよ。」
「で、でも。それは昔のことで」
「お兄ちゃん!!ほんとは後悔してたんでしょ明美ちゃんの告白断ったこと。ずっと引きずってたんでしょ。」
「うん・・・」
「だったら、酔ってるとはいえ、告白されたんだから、今度はちゃんと答えを出してあげるべきじゃないの?」
「わかった。」
雄二さんが私の頭を撫でてくれる。
心地いい・・・この人の手は温かいな。
「明美ちゃん、僕も君のことは好きだよ。だけどそれは妹の友人としての感情であって恋人になりたいって思ってるわけじゃなくて、それに君にはもっとふさわしい男がいるんじゃないかなって」
はにかんだように笑う雄二さんと目が合った。
やった、私はついに雄二さんを落とすことができたんだ。
私は幸せな気分に浸った。
酔いがさめた後、志保に祝福された。雄二さんに彼女いる癖にと癇癪起こして、誤解をしていたことを思い知るのはそれから数時間後だった。
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