あらあら、ごきげんよう、おげんきでした?ええ、みなさんも、うふふ・・・
お上品な会話と、のどかな微笑みがあふれる、水道設備付きのとある会議室。
ここで開かれるフラワーアレンジメントの講習会に、参加者が足りないという事で急遽参加することになってしまった。
セレブ感漂う、優雅な奥様の中に、明らかに挙動不審な落ち着きのない人が一人。
…私だよ!!!
説明聞いても何が何だかさっぱりだ。
マスフラワーフォームフラワーフィラーフラワーラインフラワー…なんの呪文だい。
シンプルラウンドオールラウンドフレンチスタイルトライアンギュラーパラレルホガースオーバルクレッセントラジエーション…私日本人なんでねあはは。
スチールグラスベアグラスアレカヤシモンステラ…よくわからんけど葉っぱ、葉っぱ!!!
「んふ、そぉれぇでぇはぁ~、お花をぉ~組み立ててぇ~いきましょぉ~!」
色気のハンパない先生の号令で奥様方が!!奥様方がー!!!一斉に花を取りに行ってーなんか作ってる!!
なんかよくわからんが、緑色のスポンジ?に花を挿していけばいいらしい。器に緑色のスポンジをのせ、そこに花を挿して…。…刺さらんやんけ!!ねえ、ちょっと、これどうするの、花が倒れてくるんですけど!!
「あぁらぁ~、ずいぶん、豪快なお花選びぃ~?器よりもブーケの方がよろしいかしらぁ~?」
急遽、自分だけ花束を作ることになってしまった。明らかに、教室内で浮いている。
「うふふ、ブーケもとっても素敵に出来上がりますよ!」
隣の席の奥様が声をかけてくださった。
「はあ、そうですかね、へ、へへへ…。」
そもそもの笑い声がもうアウトだ。
皆さん清楚なワンピースをお召しなのに、私ってばキャラクターTシャツにデニムパンツとか…!!!
私の場違い感が凄まじすぎる!!
服装のことなんて誰も教えてくれなかったじゃん!!
地獄のような二時間、まだあと一時間以上ある…。
花を選ぶふりをしながら、ほかの奥様方の作品をチラ見してみる。なんかすごく、こう、高そうな生け花がー!!見よう、見まねで、同じような花をもらって、自分の席に戻ってブーケにしてみる。
…恐ろしいほど、センスがない。
なんだ、この、ものすごいやっつけ感。
なんなんだ、この、とりあえず花をまとめてみた感。
私はただいま絶賛呆然中。
こういうのってさ、先生がお手本と見せてくれて、お手本通りに組み上げるもんなんじゃないの…。
この教室の意図は何なんだ。センスのない人間を血祭りにあげることなんですか…?
もうどうにもならん…。
私は自分のブーケをほっぽり出して、室内の麗しい作品を見てまわることにする。
花を生けるという事は、こんなにも優雅で、華やかで、素敵だというのに。
自分の席に無造作に置かれている花たちの気の毒さと言ったらもう。
なんかホントにごめん…。
なんだかとっても居た堪れなくなって、ブーケ用の紙をもらって、包んで、リボンで根元を縛って。
ああ。でも紙でまとめたら、結構きれいな花束に見えるじゃん。
「アラー!何を伝えようとしてるかわからないけどスゴイブーケね!初めて見た!」
アレンジメントを作り終わった奥様方が室内を巡り始め、私のブーケに注目を…!!!ちょっと待って、私のは見てまわらなくていいんですけど!!奥様方が私の目の前で止まるー!!
「豪快さの要となってるのはフィラーフラワーの存在がないところなのね!アレカヤシの中にひっそり埋まっているガーベラもいいわー!白いカーネーションがやさしさを出してる、初めて作ったの?」
「は、はい…。」
作り笑いは最高潮に引きつっている。あかん。これ以上の無理は、表情筋の命が危ない。
時計をちらりと見ると、教室終了の時間!とっとと帰ろう!!
「あの、今日はありがとうございました、とっても楽しい経験させていただきました…。」
色気フルマックスの先生にご挨拶をさせていただく。
「あらぁん、もうお帰り?またぁ、ぜひぃ、いらしてねぇ?」
さらばエロスの化身。もう二度とお会いすることはございませんのことよ。私には無理だ!!!
「また機会がありましたら。失礼します。」
私はようやく地獄空間から抜け出せたのであった。
「ちょっともう!!ひどい目に合ったよ!!」
「ああ、お花教室どうだったー?助かったわー、山辺さんいけなくなっちゃってね!!」
花束を抱えて家に帰ると旦那がちょうど帰ってきて、玄関ではちあわせた。
旦那の頼みで今日私は出撃する羽目になったんだよ!!!
「うち花びんないからさあ、コレ山辺さんに持ってってよ!!」
「いいの?せっかく作ったのに!」
作ったけどさ!置いとく場所すらないんだから邪魔なんだってば…。
私は旦那にブーケを渡して、夕食の準備をするため、キッチンへと向かった。
私がわんさか唐揚を揚げていると、旦那が帰ってきた。
「ただいまー!いいものもらったー!!」
さてはまた食い物をもらってきたな!!
どうも旦那は、近所の人から食べ物をもらう癖がある。
私は聞こえないふりをして唐揚を揚げて・・・。
げ!!
「ちょっと!!何その花!!」
「なんか山辺さんがさっきのブーケ作り直してくれたー、器もくれるんだって!!」
私のどうしようもないブーケが!!めっちゃ立派な生け花作品になっとるがな!!!
なんていうか、すごいんだけど、何だろう、ちょっとうう、なんでもって帰ってくる!!!
「あのね!!その花置く場所ないよ?!もーそこのテーブル置いとくしかないじゃん、ご飯置く場所なくなる!!」
「じゃあご飯はあっちの部屋で食べればいいじゃん。あっち持って来てー。」
かくして、忌々しいが美しい花は、一週間に渡り我が家の食卓に鎮座することとなりまして。
ようやくあいた器を山辺さんに返しに行ったところ。
「ただいまー!いいものもらったー!」
またしてもお花をいただいて帰ってくる旦那がおりまして!!!
いつまでも食卓から花が消えることがなくなってしまったという、お話です。
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