「どうしよう、味がわからない。」
「え、ちょっと!!いわゆる今はやりの…。」
旦那が真っ青な顔をしている。
味がわからなくなる症状といえば。
…ちょっと待て、いろいろと大変なことになるぞ!!
「なに、いったい何を食べて味がしないの。」
「これ、大林さんからもらったパンケーキ…。」
目の前にはタッパーにわんさか入った手作り感あふれるパンケーキ。
「朝まで普通にメシバクバク食ってたじゃん!なんでそんな急に…ちょっとそれ食わせろ!!」
旦那の手から、パンケーキの入ったタッパーを奪い取る。
うっ…!!
なんというか、勇ましく焦げ上がってる部分に、なぜかクリーミーな内部、所々に白い粉が丸い粒になって鏤められてっ…!!!
実は私は人の手作りモノ、ちょっと苦手だったりするのだけどっ!!
これはかなりシャレにならん逸品だ!!
よー食う気になったな…つか、大林さん、すごいな、メシマズというレベルじゃないぞ…。
食ったらエライ事になるかもしれない。
最悪人生リスタートもあり得る…。
だがしかし、思い切りの良さに定評のある私!!
…食ったるわ!!!
ぱく。
・・・?
味が…しない!!
これってさあ、砂糖入ってないんじゃないの…。
慌てて、冷蔵庫の中の水まんじゅうを一つ食べてみる。
…ウマ―!!やっぱこし餡が一番うまいな!!
「ちょ!!これね!!味がついてないんだって!!この水まんじゅう食べてみてよ!!」
私は水まんじゅうの入っているボウルを旦那に差し出した。
神妙な顔つきで一つつまんで…一口で食べる旦那。
「…。うまい!!つるりとした食感に、まったりしていてのどに詰まらないさらっとしたこし餡!!」
「ほらー、味分かるでしょ、これさあ、絶対作り方間違ってる。」
旦那は味がわかる幸せをかみしめて…次から次へと水まんじゅうを…!!
「ちょ!!何バクバク食ってんだ!!おやつ用に冷やしてあるのに!!!」
「いやあ、味がわかる幸せを噛みしめたいっていうかさ!!うーん、ちょーうめー!!!」
私は旦那から水まんじゅうの皆さんを避難させ、冷蔵庫にしまい込んだ。
「なに、この恐ろしい物体は…どうすんのさ、食べられないよ。」
「へーきへーき、シロップかけて食ったらいいんだって!!!」
旦那は味のしない物体にじゃぶじゃぶホットケーキシロップをかけて食べている…すごいな。
「どうしよう、タッパー返しに行く時にさあ、味の感想聞かせてねって言われてる!!」
「味なかったよっていえばいいじゃん。」
「いえるかあ!!」
「あのね、言わなきゃまたこういう事が発生するんだよ?!」
「そしたらまた食うだけじゃん!!」
「あのね!!今回は味なしだったからまだよかったんだって!次に砂糖と塩間違えて作ったやつ出されてみ?!はっきり言って毒物だよ!!あんた食塩の致死量とか知ってんの!!」
「そんな大げさな…。」
食塩の致死量はおよそ30グラム。でかい旦那なら60グラムといったところか。お菓子作りにおいて、砂糖80グラムなんてのはざらでね、うん、マジでヤバい。
「とりあえず、次にもらったらまず…私に見せること。いい!!わかった!!」
「はーい。」
小さい子供かっ!!!
かくして旦那はひどくおなかを壊した次の日、タッパーを返しに行き。
「ねーねー!イイものもらっちゃった!!」
「いよいよ毒物キター!!」
ニコニコ顔の旦那が差し出したのは…あれ。
おお、なんかスゴイ饅頭の詰め合わせだぞ…。
「なんかね、娘さんの失敗作食べさせたお詫びだってー。あれ娘さんの作品だったみたいだよ!」
「なるほどー、それはそれは。」
あのすごいのを家族みんなで食べて大変だったという事でしょうか…。
作りたい時期ってあるよね、作るだけで満足して味見しない時期ってあるもんね、そういう奴だったのかねえ。
「もう作るなって娘さん怒られててさあ!気の毒だったからまた食べたいって言ってきたー!」
「またそういう事を気軽に言う!!!」
怒られて心を折られて料理嫌いになるのか、次こそはと躍起になって腕を磨くのか、何も考えずにまた作ってみてやらかすのか。さて、どんな展開が待っておりますかね。
私は旦那の戦利品の饅頭に遠慮なく手を伸ばし、その甘さに酔いしれたのであった。
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