納豆巻きが食べたい。
納豆巻きを、心行くまで食べたいのである!
納豆巻きは、かなり手ごわい。
まず、納豆を酢飯に閉じ込めるのに一苦労なのだ。
納豆の恐ろしくも誇り高き粘り気。
あいつは糸を引いて、小皿の上から酢飯の上に移動することを全力で拒む。
なぜだ。
なぜそこまで糸を引く!!
おとなしくつるりと酢飯の上に移動はできないのか!!
なぜだ。
なぜそこまで糸を引く!!
手助けをする箸にもこびりついてくる。
なんという執着を見せるのか!
納豆よ!!お前は酢飯との相性が一番良いのだ!
小皿など…箸など…!!!
ただの、ただの道具なのだぞぉおおおお!!!
一緒に食われてくれぬ存在に執着するとは何事かアッ!!!
ただ、無心に、海苔の上に広がる酢飯の上に、納豆を落とす。
…恐ろしい話だ、納豆は一番の相方である酢飯に乗ることを拒み、箸と小皿にしがみついている。
何という事だ。
報われぬ、愛がそこにあるとでもいうのか。
仕方がない。
聞き分けのない納豆は、酢飯に、ふさわしくない。
箸と小皿にしがみつく納豆を、私は見捨てた。
巻きすの上に、一体化を待ち焦がれる、酢飯と納豆と、海苔。
ああいいとも。
ああいいともさ!!
私が、私が、私が巻いてやろう!!!
ぎゅ、ぎゅ。
…そっと、巻きすを、剥がして、みる。
お、おおおおおおおおおおお!!!!!
なんという美しき三位一体の芸術!!!
輝かんばかりの、海苔の艶やかさはどうだ!!
私の中には至高がぎっちり詰まっているのよと胸を張る、海苔!!!
海苔、ノリ、のりぃいイイイイイいい!!!!
海苔は、偉大である!!
海苔の大活躍によって、酢飯と納豆の比類なき相性の良さが100%を超えて実現化している!!!
私の興奮は止まることを知らず!!
納豆と酢飯を海苔でまとめて!まとめて!巻いて!巻いて!!!
「ふう…やったぜ…。」
10本の納豆細巻きを、完成させた。
あとは。
これを。
口に運び。
咀嚼し。
香りを楽しみ。
歯触りを楽しみ。
のどごしを楽しみ。
胃袋に落ちる瞬間を思う。
うひひ!!
これはウ―――マ―――イ―――ぞ―――!!!
テーブルに納豆巻きを置いて、しょうゆを取りに行く。
ここで気を抜いてはいかん!!!
まただ!!!
またあいつらが!!!!
「ねーねーなに作ったの―?」
キタ――(゜∀゜)――!!
食われる前に食う!!!
私は納豆巻きをカットするのをあきらめて、そのままかぶりついた!!
「「「納豆巻きだ!!」」」
黙って座って納豆巻きをもぐもぐ食べる私の横で、立ったまま手を伸ばす人々が三人。
「私も食べる!!」
「もらっていい?」
「マヨネーズ取ってきてー!」
席を立ったらこの一本で終了だ!!
黙って座って納豆巻きをもぐもぐ食べる私の横で、立ったまま納豆巻きを食べる人々が三人。
何故だ。
何故座って食べない?!
突っ込み入れたらこの一本で終了だ!!
黙って座って納豆巻きをもぐもぐ食べる私の横で、立ったまま納豆巻きを食べる人々が三人。
何故だ。
何故そんなに食べるのが早い?!
諦めたらこの一本で終了だ!
私が二本目に手を伸ばした時!
皿の、上から、納豆巻きが、すべてなくなった。
心行くまで食べたいと願った、至高の逸品。
二本目に食べた納豆巻きは、涙の味が…するかあああああ!
くそぅ!
めっちゃ美味い、美味すぎる!
ああこんなに納豆巻きは美味いというのに、何故心行くまで食べられないというのでしょうか。
…次に作る時は、20本作ろう。
私は固く心に誓って、報われぬ愛を貫いて逃避行中の納豆だらけの皿と箸を洗うために、キッチンへと向かった。
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