トラックボール
「ああ!!ない!!」
仕事をしようとパソコン前に座り、電源を入れて起動画面を見ていた私は声をあげた。
なんと…トラックボールの、ボールの部分が、ないのである!!!
トラックボールをご存じだろうか。
パソコンを使うとき、入力デバイスは必須である。
入力デバイスってのはさ、パソコン使うときに文字打ったりアイコンクリックしたりする機械の事ね。
一般的には、キーボードとマウスが広く認知されていましてですね、有線、無線といろいろありましてですね。
マウスってのはさ、マウスを持って、動かしてアイコン選択するでしょう。
トラックボールってのはですね、手を動かさずに、親指でボールを転がすことでカーソル位置を移動させるやつなんですよ。
私はマウスではなく、トラックボールを愛用しているのだ。
通常入力デバイス選択時に第一選択されがちなマウスの影に隠れがちなこのトラックボール、非常に使いやすくてですね!
気のせいかもだけど、肩こりも少ないようなイメージがありましてですね!
長年愛用させていただいているわけなのですけれども!!!
「ね、ねえ!!これくらいのさあ、青い球、知らない?!」
「知らない。」
「うわ!!何これ!!穴開いてる!!ウケる!!」
なんでいきなり無くなった。
昨日HP更新した時は確かにあったはずだ。
今朝は…パソコン使ってないからわかんないな。
「ぐおお!!か、カーソルどうやって動かす…?ああ、なんか穴の中に指入れたらなんとなく動く、けどこれは駄目なやつだ!!」
「一応精密機械だしさあ、中、触んないほうがいいんじゃないの?」
「ボール捜そう。」
くぅ、急ぎの仕事があるんだけどな。
くそう、トラックボールがないと地味に使いにくい。
仕方がない、ペンタブで何とか…。
「ねえねえ、ペンタブで右クリックってどうやるんだっけ・・・・。」
「あたしわかんないよ!!」
「ボールない。」
普段使いのものにいきなり不具合出ると…こんなにもてんてこ舞いになるものなのですね!!
予想外の出来事に対応できるようなスキルをもちなさいと普段あれほど口をすっぱくしていっている私ですけどね、自分の身に降りかかってくるとですね、ええとっ!!
「ボールあったよ。」
息子がホコリだらけのボールを差し出した…。
こ、これは?
青い玉を穴の開いたトラックボールに押し込む…ち、ちがう!!微妙にカーソルが空回りしている。
「これは前に使ってたやつのボールだよ、サイズが合わないもん、今頃出てきたよ!!」
「もうそれつかっとけば?」
さっき指を突っ込んだときよりはまあ、使える、でも如何せんいらいらするというかさあ…。
「あった。」
息子がホコリだらけのボールを差し出した…。
ムム、なんか白い傷…落としてちょっと欠けてるじゃん!!!
「ああー!!これ、これだー!!でも欠けてる、使えるのか…?」
欠けた部分を上に持って来て、無事な部分をくぼみに押し込み…。
よし、動きは順調だ、だがしかし。
「うう、欠けた所が地味に気になるな。誰だ!!落としたやつ!!!」
「あたしじゃない!!」
「僕じゃない。」
犯人は、犯人は、犯人はッ!!!
腹の肉でトラックボールを弾き飛ばしたに違いない、あいつだな!!!
「・・・許さん!!」
違和感有りまくりで作業を終えた私は、怒り心頭で晩御飯のチーズフォンデュの準備を始めた。
猫舌の旦那はですね、熱々の食べ物が苦手なのさ!!
「今日は牛乳多めでぐつぐつ煮立てたチーズにしてやろう…。」
旦那の口の中をやけどでべろんべろんにしてやるわっ!!!
「ただいまー!あ、これ、新しいトラックボール。」
ホーロー鍋でチーズを練る私のもとに、旦那がニコニコしてやってきた。
「朝さあ、パワーポイントの本借りようとしたら落としちゃって!ボールなくなっちゃったから新しいの買ってきたー。」
「やっぱりあんたか!!!もー大変だったんだけど!!!」
新しいトラックボールは、赤い玉らしい。
ちょっといいやつだな、ボタンの数が多い…ちょっと待て、使い勝手が解らないぞ。
「ボタン多いから使いやすいよー、後で変えとくわ!」
「あ、ありがとう・・・。」
ありがたいことだ、けれどどうも毎回こう、ちょっともにょるんだよ、旦那にはさあ…。
何で落としてボールなくしたって連絡しないのかとかさ。
何で同じメーカーのトラックボール買ってこないんだとかさ。
何で後で変えとくわって言うくせにご飯食べたらぐうぐう寝ちゃうのかとかさ。
…しかしながら、怒りは収まったのでね。
卓上コンロでぐつぐつやりながらのチーズフォンデュは却下して差し上げましたのことよ。
具材も冷ましたものを用意して差し上げましたのことよ。
冷たい牛乳を用意して差し上げましたのことよ。
…そして私はいつも通り、無事に腹七分目しか食べられなかったわけですけどね!!!
案の定でトラックボールも変えてもらえなかった私は、自分で変えましてですね!!
ずいぶん使い勝手の良い最新機器に、ずいぶんご機嫌になりましてですね。
「傷のやつも一応取っとくかな・・・。」
次、またいつボールが紛失しても対応できるように、傷をおったトラックボールを机の引き出しにしまいこんだ、という、お話。
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