毎日早朝のウォーキングに出かける私。
今日も新鮮な空気が、気持ちいい。
緑の木々を眺めつつ、歩きなれた道を行く。
ふと、足元の、でこぼこした木の表面が動いたような気がした。
近づいて、目を、凝らす。
のそのそと、幹を登る、セミになる前の、幼虫。
幼虫?違うな、なんていうんだろう、さなぎ、うーん、羽化前の、かっこいいやつ?
そうだ、下の子が喜ぶかもしれない。
持って帰ってやるか。
私は幹を登る虫を捕らえ、家に帰った。
持ち帰った虫は、息子の好奇心をくすぐったものの、意外といかつい見てくれに少々戸惑っているようだ。
「ちょっと、こわい。」
私は子供のころ虫が大好きだったから、息子の感想が、ちょっとだけ、残念かも。
ま、無理やり押し付けるのもなんだしね、そう思って、まだ羽化しない虫をカーテンにつけたまま仕事に向かった。
三時、息子を保育園に迎えに行き、家に帰ると、虫はセミになっていた。
しまった、羽化の瞬間見せたかったのに!!
「せみになってる!!」
おとなしくカーテンの上の方にとまっているセミは、なんだかとってもかっこいい。
「このまま飼っちゃおうか!お父さん帰ったら自慢しよう!!」
「うん!」
私と息子は夕食の買い物に出かけた。
買い物から帰ると、娘が帰宅していた。
「ちょっと!蝉いるんだけど!!」
「ああ、かっこいいでしょ!今朝捕ったやつ、羽化したの!!」
「あれ、かうの。」
「はあ?!」
何やら娘はお怒りのご様子。
「いいじゃん、あれメスみたいだし、鳴かないからさ。しばらく同居、よろしくね。」
「…いいけどさあ…。」
娘は自分の部屋に行ってしまった。
私と息子は、リビングの電気を消して、台所へ。
今日は一緒にカレーを作って、ナンを焼くのですよ!!
夕食の準備をしていると、旦那が帰ってきた。
カレーのにおいと、香ばしく焼けるナンの香りにつられて、キッチンへと顔を出す。
「いいねえ!カレーか!」
「もうじきできるよ。リビングで待ってなよ。」
旦那は冷蔵庫からコーラを持っていくと、リビングへと消えた。
カレーの煮込みが終わり、最後のナンを焼いていると、突如リビングが騒がしくなった。
じゃわじゃわじゃわじゃわじゃわじゃわ!!!
蝉!!蝉がすんごい鳴いてる!!
なぜ!!今の今までミンとも鳴かなかったのに!!!
地味にものすごい騒音なんですけど!!
リビングに飛んでいくと、娘と旦那が蝉と格闘していた。
「ちょ!!こいつめっちゃうるさい!!」
「とってとって!!手が、届かない!!!」
「うるさい・・・。」
息子までげっそりしてる。
外で聞く蝉の音はうるさいとは思うけど、我慢できないことはない。
だというのに!!
家の中でなく蝉がこれほどうるさいとは!!!
蝉の七年間の怨念を真正面からぶつけられたような感じ。
ホントすみませんでした、もう捕獲したりしません…だから家から出てってください!!!
散々騒いでようやく蝉を外界へと解き放った私の鼻に、がつんと不穏なにおいが届く。
「!!!!ナンが!!!」
フライパンのナンは、真っ黒こげになっていた。
フライパンも、酷い有様に…!!!
「蝉の、呪いだ…。蝉、セミが来るよー!!」
「お母さんがうっかりしてただけじゃん!」
蝉のせいにして自分のミスをうやむやにしようとしたけど、ダメだった。
私はフライパンを磨きつつ、焦げたナンをゴミ箱に入れて、散々うちの中を引っ掻き回した蝉の前途を案じた。
まあ、持ち込んだのは、私、ナンだけどさあ…。
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