ほのぼの家族…ってどの家族のこと言ってんだ!!!

お母さんはね、お母さんはね、お母さんはねえええええええ?!(怒
たかさば
たかさば

灼熱に耳あり

公開日時: 2021年2月25日(木) 18:00
文字数:3,054

今日もスポーツクラブにやって来た。もうここに通い始めて二年、すっかり慣れたものよ。


まずはストレッチを45分。

体を動かす前は、念入りに筋肉をほぐすのが、良い筋肉をつけるコツなのさ。

ドでかい壁面鏡の前で、一人黙々と体を温め始める。


準備が整ったら次は筋トレ。

サーキットトレーニングコーナーで軽く筋肉に疲労感を与えた後、マシンを使ってきっちりトレーニングをする。12種類あるトレーニングマシンはもうすっかり使い方をマスターしている。

負荷のかかる角度もばっちり頭の中にインプットされてますとも。


心地よく筋肉が疲労したら、次はトレッドミル。

スピードを調整しつつ、心拍数をあげたり、キープしたり。

今日は混んでいるから、トレッドミル占有時間が30分までになっている。

みっちり汗をかきたかったけど仕方がない、10分ウォーク、10分ラン、10分ウォークで勘弁してやるわ!!


トレッドミルが終わったら次はサウナ。汗をかいたウェアを脱ぎ捨て、素っ裸になってシャワーを浴びる。そしてタオル一枚を頭の上に乗せ、サウナ用バスタオルを持って灼熱の箱の中へ。箱の中は9人ほどが入れるスペースになっている。座るスペースは階段状になっており、私はいつも最上段の隅に陣取ると決めている。ここは一番熱がこもる場所なのである。


ぽたり、ぽたり。


汗が溢れ出す。

トレーニング中は1リットルの水を飲んでいる。飲んだ水はトレーニング中に汗となるが、出し切れなかった水分もあるはず。それを、サウナで出し切るのである。バスタオルの上に座る私は、頭からタオルをかぶり、ただ、灼熱の中で汗を流す。高温サウナの熱気が心地良い。私はいつもここで20分ほど汗を流すのだが。


「でさー、なんかもうやんなっちゃってー!」

「あの人ホントむかつくよね!!」


なんだ、騒がしいのがやってきたぞ。


サウナ最上段で俯く私をまるで気にすることなく、騒がしい人たちが話を続ける。私はこのスポーツクラブに一人で通っているので、ほとんど会話というものをしたことがない。いつも黙って大人しく。…決してぼっちという訳ではなくてね、ひとりが心地よくてね?スタッフに器具の使い方を聞くとか、受付の人とあいさつはしますけれども。


「今度の教頭先生さあ、女じゃん?めっちゃかっこいい父兄に目つけてるって副会長が言っててー!」

「ああーPTAの人でしょ?あの人も大概だと思うよ、だってすぐかっこいい先生にべたつくし!」


こんなクソ熱い中で大声でしゃべってのどとか乾かないのかね。


「会長もさあ、すごくキモくない?デブでおかまっぽいくせに人の輪にすぐ入ろうとすんの。」

「ああ、知ってる!あのひと給食試食会でめっちゃお替りしててみんなドン引きだったもん!」


別の人が入ってきた…二段目に座ったけど、これで静かになるかな?


「でもさあ、あの人お世辞言うと何でも引き受けるじゃん、めっちゃ便利だよ、町内会役員も押し付けたし。」

「うける!!あんたやりたくないって言ってたもんね。住良町に住んでないのにウケる。」


全然静かにならねえ…。もう出ようかな。


「ちょっと仕事忙しいって言って愚痴ったらじゃあやりますだって。お礼に腐りかけのメロン持たせたわ。めっちゃ喜んでんの!!食い意地はってるよねー。」

「ああ、私もこの前キモい海外土産のお菓子もらってもらったー。」


…なんだ、ちょっと待て。なんかこの流れは非常に…聞いておかなければいけない気がする。


「あんなもん貰って喜ぶとかどういう神経してるんだろ、奥さんってどんな人なの、あたしなら耐えられない。」

「なんかねー、社交的な人じゃないらしくて引きこもってるらしいよ!広報の絵とか書いてくれてるらしいけどさ、正直アニメチックでキモいんだよね。」


・・・。


「旦那は出たがりで嫁は出不精かあ、旦那はデブでデブ症、お似合いの夫婦じゃん!!」

「そうそう、灰島先生も笑ってたよ!堂ヶ竹校長は苦い顔してたけど!!」


ああー、うちの旦那のこと言ってるよ、これ!!腐りかけのメロンもランブータンゼリーももらってきたしなんか別町内会の役員引き受けることになったって言ってたし校長の名前も一緒だし。ああー、マジか、聞きたくねえー。


「なんか次の役員決めも体調悪いって言って逃げようと思っててー。」

「それがいいって、ふう熱い熱い、体調悪すぎで倒れそー、もうでよっか―!!」


騒がしい二人は出ていった。


「うるさかったねえ…。」

「は、はは…。」


二段目に座ってたおばちゃんがこちらを見て呟く。うるさかったけどさあ。それよりもこう、闇を見てだね。うわあ、なんか立ち直れねえ…。裏の顔のどす黒さを真正面から浴びちまったよ。

…悪かったな!!キモイ絵描いてて!!もう絶対描かん!!!


しかしようもまあこう無防備に人の悪口を言えるもんだな。どこで誰が聞いてるのかなんてわかんないのにさあ。当事者がいる可能性とか考えたらどうなの。


壁に耳あり、障子に目あり…灼熱に耳ありだ!!!!!!


高温サウナで確かに私の体は熱くなっている、しかしいつも以上に熱がこもっている。なるほど、これは怒りですね、わかります。何か一言言ってやろうか、いやしかし。素っ裸で説教垂れるのか?相手は手ごわそうな二人組だ。完全に負け戦が決定している、なんてこった。


仕方がないのでサウナから出て、水風呂に浸かる。熱が急速に冷めてゆく。ああー、怒りも収まってキター。まあ、仕方ないよね、へらへらしてる旦那も悪いか。困ってるって言葉を鵜呑みにして簡単に引き受けるとかさあ。どこまで話そうかなあ、全部話したらいくら無神経な旦那でも凹むだろうな。まあいいか、余計なことは言わなくても。本人が喜んでやってんだったら。とはいえ、人の喜ぶことをしているのに笑われてるとか、言った方がいいのかね。


なんだかすっきりしないまま、私は買い物をしてから家に帰ったのだが。

おや、旦那が帰ってる、今日は町内会に行くとか言ってたのに早いな。


「も~!ちょっと聞いてよ!!なんか役員の人があ、俺の事悪口言ってたんだって!!!」

「なんだなんだ一体どうした。」


聞くと、先日引き受けた町内じゃない町内会役員の件で別町内に行ったところ、町内会長の奥さんが憤慨した様子で役員を受けないでくださいって言ったらしい。なんでも、スポーツクラブで役員押し付けの事実が確認できたとかなんとか。ん?

…あの時のおばちゃんか!!!


「も~プンプンだよねえ!!人の好意を無下にするとかさあ。」

「あんただって腐ったメロンとかまずいお土産とかにつられたじゃん…。」


ホント怖いな、どこに耳がついてるかわかんねー!!いやまあ、今回は助かったけどさあ。…自分も気を付けないとなあ。見えちゃまずい人とのやり取りだの急なあっちのお客さん乱入だの見られたらエライ事になるでしかし!!


「くれるもんはもらわないとだめじゃん!!ああ、奥さんからね、お菓子もらったよ!」

「またもらう!!!」


そういって旦那が差し出したのは…おお!!これは銘菓のえびせんではありませんか!!わーい!!


「なんかね、奥さんに絵をかいてもらいたいからよろしくって渡されたー。」

「…ちょ!!買収されてんじゃん!!やだよ!!」


旦那がそっとさしだしたのは…夏祭りの看板イラスト案…だとうー?!


「もーいいよって言っちゃった!!納期は来週ね、よろしく!」


くそう、またこのパターンだよ!私は苛立ちながらも、せんべいの箱を抱えて…。


「ひとりじめズルい!」

「絵画の対価だ!」


私は二階の部屋で看板作成の準備を始める事にした。


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