Vtuberの幼馴染は自分の正体を隠せていると思っているので、全力でからかってやろうと思います

僧侶A
僧侶A

27話

公開日時: 2022年4月3日(日) 19:27
文字数:2,734

 どうせ面倒なんだろうなと気構えていたが、アホ共の方は九重ヤイバのファンである葵へのファンサービスでやっただけだからと説明したらあっさりと納得してくれた。本当にアホで良かった。




 そして翌週の土曜日、


「また会ったね、ヤイバきゅん!今日もカッコいいよ!!」


「こんにちは、アスカ」


 俺達はアスカの事務所ではなく渋谷で待ち合わせをしていた。


 オフコラボは19時からなのだが、集合したのは14時。


 何故こんな早くに集まったのか。それは俺がお願いしたから。


「じゃあ買い物に行こうか!」


「そうだね」


「いやあ腕がなるね。今から楽しみだよ」


「お願いします」


 その理由は、アスカに俺の服を選んでもらうため。


 最近歌ってみたとVALPEXの大会による影響で一気に登録者数を伸ばした為、有名Vtuberが集まるリアルイベントに招待されることになった。


 一応私服で来ても良いとは言われているのだが、他のVtuberは成人済みの方ばかりだろうから、高校生基準の私服だと浮くに決まっている。


 ということで、大人達に混じっても違和感のない服を見繕って欲しいと一番仲の良い成人のアスカに頼み込んだのだ。


「まあ正直な所、Vtuberのイベントだから今ヤイバきゅんが着ているような服でも大丈夫なんだけどね」


「確かに高校生だから許されるかもしれないけど、他の人は成人しているんだからもっとしっかりした服で来るでしょ?」


 プライベートならともかく仕事の時はこんなユバクロで選んだような服ではなくて、ルイマトンとか、GACCIみたいな高級ブランドで揃えてくるだろう。仮にそうでなくても大人しか入らない良い雰囲気の店で買った服を着てくるに決まっている。


「ヤイバきゅんはちゃんと常識を備えていて偉いねえ」


 俺は突然アスカに頭をぽんぽんと撫でられた。


「え?」


「世のVtuberはね、そこまでちゃんとした社会人ばかりではないんだよ。確かにヤイバきゅんの言うような格好をしてくる立派な人も居るけど、大半はヤイバきゅんの私服と変わらないし、酷い人はサンダルにジャージだよ」


「社会不適合者って皆100%ネタで言っているのかと思ったけど、割と本当なんだね……」


 最後の人に至っては


「Vtuberは人を魅了してお金を頂く仕事だからね。既存の型に嵌らない奇想天外な人が一定数の指示を受けるのは当然の話だよ」


「言われてみればそうだね」


 確かに変なことをやっている人はついつい見に行っちゃうもんなあ。


「ってことは服を買いに行く必要ない?」


 寧ろしっかりした格好をしていった方が変に思われる気がする。


「いや、あるに決まってるでしょ。私が楽しむ必要があるんだからさ」


「え?」


「そもそも呼び出したのはヤイバきゅんでしょ?今更キャンセルだなんて許さないからね!」


「それは……」


 確かに配信5時間前に呼び出しておいて必要なくなったので用事はキャンセルでってのはアスカに失礼だ。


「ってことで行こうか!」


 この瞬間から俺の為の服選びではなく、アスカの欲望を満たす為の服選びへとなってしまった。



「これ着てみて!」


「あ、これも!」


「これもどうだろう?」


「はい!」


 それから俺はグローバルトークという服屋の試着室に閉じ込められ、アスカの選んだ服を延々と着せさせられていた。


「ねえ、まだあるの?」


 既にこの店での試着数は10着を超えていた。


「そりゃあ勿論!19時までたっぷり時間はあるんだからね!」


「ご飯は?」


「配信後でしょ?」


 どうやら俺は配信ギリギリまで着せ替え人形の刑に処されるらしい。夕食を食べてから配信に挑もうと思って早めに呼び出したのが仇になってしまった。



 それから追加で10着の試着が終わった後、


「とりあえずこの店の試着は終了かな。会計してくるね」


「いや、僕の服なんだから僕が払うよ」


 いくら好き勝手遊ばれていたとはいえ、自分の物は流石に自分で買うよ。


「気にしないで。スパチャだから」


「今配信してないでしょ。僕が払うから」


「ダメ。じゃなきゃ明日から一週間、毎日上限スパチャするけど良い?」


「すみませんでした。会計お願いします」


 流石に35万もスパチャを貰うのは申し訳なさすぎる。


 俺は大人しく奢られることになった。


「よし、次に行こう!」


「ここだけじゃないの!?」


「勿論でしょ?ショッピングを舐めてるの?」



 それから俺は3店舗を回り、大体60着程の試着をさせられた。


「楽しかったあ!推しに好きな服を着せられるって素晴らしいね!」


「疲れた……」


 充実した時間を過ごし、楽しかったと満足げな笑みを浮かべるアスカに対し、俺はマラソンでも走ったかのように疲れていた。


 服を着脱するという簡単な動作であっても、合計で80着ともなると相当な運動だったのだ。


「あれ?どうしたの?」


 俺が疲れている理由を知らないアスカは呑気に聞いてきた。


「流石に80着はやりすぎだよ。もう事務所に行っても良い?」


「あと1店舗行きたかったけど、仕方ないか。配信まで後1時間だし」


 良かった。後1店舗行っていたら配信が出来なくなっていた所だった。



「ここがUNIONの事務所なんだ」


 Vtuberの事務所ということで一風変わったオフィスを想像していたのだけれど、テレビなどで見る一般的なオフィスと殆ど変わりなかった。


「意外と普通の会社と変わらないでしょ?」


「うん、スタジオがある以外は普通だね」


 普通とはいってもVtuber事務所のため、配信や収録に使うためのスタジオが異彩を放っていた。


「今はまだどっちも使用中みたいだから休憩室で待ってようか」


 事務所にある二つのスタジオは別のVtuberの方が使用していたので、その隣にある元は喫煙スペースだったであろう休憩室のベンチに座って待っていることに。


「今のうちに今日の企画の説明をしようか」


「生ASMRだよね?」


「それもするんだけど、今からやるのは普通のASMR。生ASMRは視聴者には伝わらないからね。放送終了後に個人的にやってもらいます」


「聞いてないんだけど」


 生ASMRをやると聞いてやってきたんだが。まあASMRも似たようなものか。多分こっちの方が健全だろうし。


「まあまあ、ただのASMRだから。で、ヤイバきゅんがやることなんだけど、私が配信中に次にやる事のカンペを出すから、それに合わせて思うようにやって欲しい。道具はマイクの近くに全て置いておくから」


「台本じゃないんだ」


 てっきりボイス収録の時みたいな形でやるものかと。


「それだと私が来た意味が無くなっちゃうし、台本だとめくる音が入っちゃうじゃん」


「なるほど」


 確かASMR用のマイクはこれ拾うの?って音まで拾っちゃうらしいしな。


「ってわけでよろしくね」


「うん」


 最終確認も終わったので、それからはスタジオが空くまで二人で雑談をして待っていた。


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