「……ファッション?」
そこを指摘されるとは夢にも思わなかったらしいながめは数秒間フリーズした後、意味不明な回答をした。
少しは考えてきてくれ。その恰好に突っ込まない奴は普通居ないぞ。
「ファッション?」
「うん、ファッション」
頓珍漢な回答だが、何故かながめはVtuberのモデルからも見て取れるレベルで自信満々の表情をしている。
これで完璧だと思っているのか。
「にしては合ってなさすぎるだろ。ファッションと言い切るのならせめて私服をゴージャスにしてくるか、無いならサングラスを外せ」
そんなので通すくらいならツッコむわけが無いだろ。
「酷い。女の子のファッションだよ!いくら仲良くても貶しちゃいけないよ」
ああ、なるほど。女の子のファッションは否定してはいけないという暗黙のルールに逃げれば大丈夫だと思っていたのか。
「確かにながめの言う通りだ。だが、それはそいつが真剣に考えて着飾った結果だったらの話だ」
しかし相手が悪かったな。俺はお前のファッションセンスを知り尽くした幼馴染なんだ。
そんなサングラスを付けるわけがないことはよく知っているんだ。
「確かに……じゃあヤイバ君を驚かすためだよ!」
流石に真っ黒なサングラスを掛けた状態を全力のファッションだと言いたくないらしいながめは、困り果てた結果俺と同じ理由にしてきた。
焦っている葵はとても愉快で可愛らしいな。モニターが視界を塞いでいるせいで顔全体を見られないのが残念だ。
「じゃあってなんだよ。適当だな。観客も意味不明すぎて苦笑いしてるだろうが」
ここまでは笑っていた観客も流石にながめの私服事情が分からないので少々困惑していた。
「うう……」
「そろそろ可哀そうになってきたので答え合わせでもしておくか。サングラスをしていたのは裏でゲームして負けた罰ゲームだったんだろ?今朝アスカから連絡が届いてたぞ。理由も言えないのも込みで罰ゲームだから、からかう時は良い感じの所で切り上げてねと」
「え、あ、うん」
俺がフォローにしてくれたと察したながめは困惑しながらも認めた。
それにより困惑していた観客も事情を理解し、先程のながめの反応を思い出して癒されていた。
「ってわけで初対面の印象はこれで良いか。っておい。恰好以外で何か無いかだと?」
これ以上話す内容もないので次に行こうと思ったが、スタッフが『恰好以外で何か思ったことはありませんか?』というカンペを出してきた。
「何かある?ヤイバ君」
「そうだな……」
正直何も思う所が無い。
ながめを見て思う事がある時期はとうに過ぎ去っている。ほぼ毎日あっている上に見たことある服を着ているんだぞ。
下手に感想を言ってしまうと前からながめの姿を知っていたのではとファンに勘付かれる可能性がある。
さてどうしたものか……
「正直見た目のインパクトが強すぎて他に感想なんて一切出てこなかったな。そもそも向かい合って話したのは今が初めてだしな」
少々迷った結果、何も答えないことにした。そもそもながめからも感想なんて出てこないだろ。
「何も無いの?」
「そりゃそうだろ。あの見た目でやってきて仕草とか立ち振る舞いに目が行くわけが無いだろ」
「うっ。じゃあラジオの最後になら感想出てくるよね?」
「無理だな。観客のモニターを見なければならないからな」
ながめの初対面の服装以外の感想なんて何時間経っても出てくるわけが無いだろ。全てがいつも通りなんだから。
「ひど「酷いとは言わせないぞ。このイベントはあくまで来てくれた観客の為のイベントなんだからな」」
「それを言われたら負けだよ。じゃあ次の話題に行こうか」
「っと。人に感想を求めたのにながめは言わないつもりなのか?」
俺を窮地に立たせたのならそれ相応の報いを受けて貰わないとな。言えないだろ?ながめよ。
「そうだね……やっぱり思ってる10倍姿勢が良い所かな」
いや出てくるのかい。
「姿勢か」
あまり意識したことが無かったな。
でもデビューしてから立ち絵がバグらないように安定した姿勢を維持するようになった気がしないでもない。
言われてみればここ最近葵から姿勢を正せと言われた記憶が無いしな。
「うん。ピンと背筋が伸びているの可愛いと思うよ」
「おい。どういうことだよ」
姿勢が良いのが可愛いってどんな思考回路だよ。
「だってどっちかと言えば悪陣営というか、敵キャラみたいな見た目してるからさ。そういう子って大抵猫背じゃない?」
「そうか?悪の幹部とか姿勢良いイメージだが」
「それは滅茶苦茶高身長な頭脳キャラの場合だよ。他は少なくとも姿勢が良いってイメージは無いよ」
「俺は高身長だろ」
「170㎝の人が何言ってるのさ」
「十分高いだろ」
少なくとも150㎝のながめより20㎝は高いぞ。
「とにかく、ギャップが可愛いかな」
「はあ……意味が分からない。次行くぞ」
重度のファンに印象なんて聞くものじゃなかった。
「運営からの二つ目の質問は、」
俺は質問の内容を確認した瞬間に紙をビリビリに破った。
「え?」
「コンプラ違反だ。この質問は却下とする」
相手は美人ですか?イケメンですか?なんて質問答えるわけないだろ。なんだその大炎上確定の見え見えすぎる地雷は。
「え?」
「いいから次だ」
「どんな質問だったの?」
「次だ」
俺はどんな質問が来たのか興味津々なながめをスルーし、次の質問を探す。
「却下」
「却下」
「却下」
しかしどの質問も話にならないものばかりで、結局スタッフが用意した質問は全て破り去ることになった。
「おいスタッフ!早く質問を回収してこい!」
観客は俺の反応で笑ってくれているからギリギリ問題になってないが、普通なら放送事故だぞ。
俺の声にビビったのか、それとも最初から罪悪感があったのかは知らないが、その数秒後に慌てた様子で質問を持ってきた。
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