Vtuberの幼馴染は自分の正体を隠せていると思っているので、全力でからかってやろうと思います

僧侶A
僧侶A

28話

公開日時: 2022年4月4日(月) 19:06
文字数:2,542

「アスカちゃん、もしかして今日のASMR配信のために来たの?ってことは隣の子って」


 それから10分ぐらい経ってから、一人の女性が部屋に入ってきた。


「そうだよ!この子が私の自慢の息子です!」


「誰が息子だよ。九重ヤイバです。はじめまして」


 相手がだれか分からないが、目の前の女性はUNIONのVtuberだと判断し、九重ヤイバとして挨拶をした。


「この子があのヤイバくんか。実物も可愛いね。私はアスカの同期、東雲リサだよ。よろしくね」


「え?」


 俺の目の前に居る女性は俺よりも背が高く、足もスラッと伸びていて胸は大きいスタイル抜群な方だ。


 服装はタートルネックの縦セーターにひざ下までのロングスカートと思わず母性を感じさせるものになっている。


 しかし、俺が記憶しているVtuber東雲リサは小学生ぐらいの身長で緑髪ショートの女の子だったはず。アスカが所属するVtuberは念のため全員顔と名前を把握しているから間違いない。


 ガワと中身は異なるのは当然だが、3D化した時の動きに支障が出ないように身長を設定するのが基本だ。


 だから目の前の女性が東雲リサであることはあり得ないはずなんだが……


「信じてないようだけど、本当に東雲リサだからね。ほら」


 疑いの目線を向ける俺に対してツリッターの画面を見せてきた。確かにこれは本人だ……


「疑ってすみません。あまりにも身長に差がありすぎたので」


「初対面だとそういう反応するよね。でもUNIONの身長事情を考えると仕方なかったんだよ」


「身長事情とは?」


 Vtuberに身長は関係ないような……


「UNIONって一応はゲーム実況を主としたVtuber事務所なんだけど、女の子しか居ないってことでいずれは事務所全員でライブをやろうって事になっているんだ」


「はい」


「で、その時ってUNIONの全員で一列に並ぶじゃん。その時に私の身長が高すぎて浮いちゃうんだよね。現時点で一番身長が高い子でも私より20㎝位小さいし」


 確かに20㎝差は違和感を覚えるかもしれない。


「だから東雲リサの身長を思い切って小さくしようって話になって、気付いたら事務所で一番小さくなってたって話。大きかったら変だけど小さい分には問題ないからね」


「そんな経緯があったんですね」


「そういうこと。だからもし私とコラボすることになってもつるぺたとかチビとか言わない方が良いよ?その分だけ、」


「うっ!?」


 リサさんは突然俺の体を壁に押し当て、顔に胸を押し付けてきた。


「ちょっとリサちゃん!?この子にそういうのは駄目だよ!高校生だよ!?」


「あ、そうだったわね」


「ぷはっ!」


 リサさんは俺を開放し、標的をアスカに切り替えた!


「んーーー!!!!」


 アスカが胸から解放されるためにじたばたと手を振り回して暴れているが、体格差のせいでリサさんはびくともしていない。


 助けてやりたいのは山々だが、これで助けるとまたどうなるのか分からないので躊躇していると、


「あっ!先輩ずるい!」


 休憩室にもう一人女性が入ってきて、アスカを救出した後に自分がそのポジションに収まった。


「あら、一色ちゃん。収録終わったの?」


 無言でグーサインを掲げたのはどうやら南一色さんのようだ。


 南一色さんは黒のジャケットにグレーのパンツを着た綺麗な黒髪ロングの方で、いかにも仕事が出来るカッコいい女性なのだが、おっぱいに包まれて幸せそうにしているせいで全てが台無しである。


 確か南一色さんはUNIONの二期生でVtuberとしては半年くらい後輩だったか。ガワはオレンジと白の和服を着たショートのブラウンヘアの女の子だったはず。


「相変わらず一色ちゃんはリサちゃんが好きだねえ」


「そりゃあ当然です!美人で高身長でおっぱいがでかい女は最高に決まってるじゃないですか」


 穏やかな表情で話しかけたアスカに対し、一色さんはリサさんの胸から少し顔を出して元気に最低な発言をした。


「ところで一色ちゃん。ここには私たちだけじゃなくて九重ヤイバくんもいるんだけど」


 そんなセクハラ発言に一切動じていないリサさんは一色さんにそう伝えた。


「はえっ!?こんばんは。私はUNION二期生の南一色です。九重ヤイバさん、今後ともよろしくお願いいたします」


 一色さんは慌てた様子でリサさんから離れ、何事も無かったかのように挨拶をした。


 一応デキる女性オーラがひしひしと感じられるが、先程の醜態を見ていたのでただの残念な人にしか見えない。


「よ、よろしくお願いします。個人勢の九重ヤイバです」


「一色ちゃん。今頑張っても意味ないよ」


「何のことでしょうか?別に変なことはしていませんが」


 アスカのツッコミに対してすっとぼける一色さん。


 完全に先程の事は無かったことにする気のようだ。


「そんなことよりも、どうしてここに九重ヤイバさんが?」


 全ての話題をぶった切るために俺を話題に上げてきた一色さん。


「ASMRの配信をするためですね」


 俺としても先程の話に触れるのは面倒なので普通に答えることにした。


「あー。そういえば昨日1期生の皆さんがrescordでそんな話して盛り上がってましたね」


「そうなの?」


「はい。皆さんついに九重ヤイバのASMRを聴けるんだって楽しそうにしてました」


「一色ちゃん?」


 リサさんが一色さんに圧をかけている所をみるに本当の話らしい。


 アスカがUNIONのメンバーに俺の事を布教しているという話は聞いていたがまさか成功していたとは思わなかった。


 普通のファンに関しては純粋に嬉しいで終わるのだが、同業者のファンは今後関わる可能性があると思うと少しむず痒い。


「あ、ありがとうございます」


「えっと、ただ好きで見ているだけだから。お礼は布教したアスカちゃんに言ってあげて」


「ありがとう、アスカ」


「どういたしまして!これで貸しが一つ増えたね!今度は何をお願いしようかな~」


「礼なんて言うんじゃなかった」


「ヤイバきゅん!?!?!?」


「ねえ二人とも、配信大丈夫なの?ダミーヘッドを使うんならセッティングもしなきゃでしょ?」


 とリサさんに言われて時計を見ると配信まで後10分しかなかった。


「「あっ!!」」


「じゃあね!」


「また今度ゆっくり話しましょう!」


「はい」


「頑張ってね~」


 俺とアスカは二人に挨拶をして急いでスタジオに入り、配信準備を始めた。


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