『皆ミってる~?早美ミルだよ!!!』
「九重ヤイバだ」
『今日から演劇部と九重ヤイバ君のコラボウィークが始まるよ!!!!』
最初のコラボ相手は早美ミル。一番目に割り当てられただけあって今まで関わってきた相手の中でもトップクラスに元気だ。
『ってことで今回は!フタテンド―のスプラターンをやっていこうと!思います!!』
そのお陰なのか、必要事項は全て自分で宣言してくれるので非常に楽である。
「まずは縄張り争いだったな」
『イエス!!!!』
スプラターンというのは、フタテンドーが誇る大人気アクションシューティングゲーム。
普通のアクションシューティングゲームのような銃撃戦に、カラフルなタコ墨を使った陣取り合戦要素を加えたことでFPS、TPS初心者にも比較的とっつきやすくなり、世界的に一大ブームを引き起こしている。
パソコンを手に入れてパソコンのゲーム以外をあまりやらなくなったため最近は触れていないが、昔は結構遊んでいた。
『部屋のパスワードを送ったので入ってきてください!』
「分かった」
俺はrescordに貼ってあったパスワードからミルの張った部屋に入った。
『よし、というわけで皆さん、入ってきてください!!!』
俺が入ったのを確認した後、パスワードを皆に公表した。今回は野良に挑むのではなく視聴者参加型である。
ミル曰く、折角このゲームをするのであれば視聴者の皆と好き勝手に楽しみたいとのこと。
「早いなお前ら」
ミルがパスワードを公表してから10秒と立たずに俺たちを除いた6枠が全て埋まった。
『じゃあ行きますよ~!!!』
そのままランダムにチーム分けをしてから試合がスタートした。
「初戦は敵同士か」
『勝負です!』
「ああ」
そして試合が始まった。
『いざ!尋常に!』
試合開始のゴングが鳴った途端、ミルは周囲を塗って地盤を固める事も、潜伏して不意打ちを狙うこともせず、ただ真っすぐ俺たちに向かって特攻してきた。
「お前それで来るのかよ」
『相棒なんで!』
ミルが持っていたのは全武器の中で一番射程が長いスナイパーライフルだ。
この武器は射程が長い分、一発撃つために相当な時間がかかる。
一応半チャージといってチャージ途中でも発射して敵を倒すことは出来るのだが、それでもキル速度は他の武器に軍配が上がる。
だから4人が固まっている場所に飛び込んできたら勝ち目なんて無い筈なのだが……
『ヤイバ君と視聴者さん一人やり!!!』
最終的には倒されたものの、あっさり2人を持って行った。
「何……!?」
事前に結構上手い方だと申告はあったのだが、まさかここまでだとは思わなかった。
いくらブランクがあったにしても一応最高ランクだぞ。
コメント欄の皆もこれは予想外だったらしく、驚愕のコメントが勢いよく流れていた。
『私強いでしょ?』
「ああ、そうだな。でも次は無い」
『良いね!楽しみだよ!!!!』
Vtuber界最強のFPS、TPSプレイヤーとしてこのままボコボコにされるのはブランディングに関わるので、会話はそこそこにプレイの方に集中することにした。
『いっけー!』
『どかーん!!!!』
『よいしょ!!!』
「ほら、お返しだ」
『ぐわー!!!』
そんな俺の努力も空しく、一度はやり返せたが他は一方的な展開でミルにボコボコにされた。
『どうだい!』
塗りポイントは1000点越え、キル数は20という圧倒的な結果を確認した後、自信満々に勝ち誇るミル。
「思っていた10倍強いな」
これを見て強がっても無意味なので、正直に賞賛の言葉を送った。
『でしょ?このゲームには凄く自信があったんだ!』
「だろうな」
この一試合だけしか見られていないが、3分間あの戦い方で無双出来ていた時点でトップクラスの実力者ということが分かる。
『どうする?次は私達がチームを組む?』
一方的な展開が続くことを嫌ったのか、それとも単にチームでやりたかったのか分からないが、そんな提案をしてきた。
「いや、やめておく。もう一回勝負だ」
しかし、その提案は九重ヤイバとして受け入れることは出来ない。
『おお、やるねえ。次も勝つよ~!!!』
「調子に乗っていられるのも今回だけだ」
俺はスプラターンの環境トップ武器である56ガロンという中距離の銃から、デストロイブラスターという武器に変更した。
デストロイブラスターとは、空中で爆発する弾丸を発射するブラスターというスプラターンに固有武器種の一つ。基本性能が銃系統の武器に劣っている代わりに、爆風を活かして射線が通らない位置の敵にも攻撃できるという利点を持った武器だ。
デストロイブラスターはブラスター系統では一番威力が低い代わりにトップの連射力を誇る。
こう聞くとこのデストロイブラスターは強そうに見えるが、1種類のルールを除いて環境下位の弱武器だ。
理由は単純。連射力と爆風以外が弱すぎるのだ。
だから、俺がその武器を選んだことに対してこのゲームを熟知している視聴者は否定的な声を上げていた。
しかし俺はその声を一切無視して、ミルに何も言わずに試合を開始させた。
『よ~し!今回も勝っちゃうからね!!!』
「ああ、かかってこい」
『ってえ!?』
そして俺の武器を知った瞬間、驚愕の声を上げた。
「どうした?」
『い、いや。大丈夫だよ』
啖呵を切っておいて弱武器を持ってきた俺に対する文句の感情を抑え、何事も無かったかのように振る舞うミル。恐らく炎上を危惧したのだろう。コメント欄も似たようなものだから気にする必要は無いんだけどな。
「そうか、よろしくな」
『う、うん!』
俺以外が全員困惑している中、試合が始まった。
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